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シンブン!今だからできること。今しかできないこと。No.8

拡大する新聞社と生活者の接点に注目

2014/04/18

ネット時代の今、新聞社は従来なかった形で、人々の生活により深く入り込むようになってきている。

あまり知られていないが、海外の有力新聞社サイトは婚活コーナーが充実している。米国のニューヨーク・タイムズやワシントン・ポスト、英国のガーディアン、テレグラフ、フランスのフィガロといった世界を代表する高級紙をはじめ、中東圏やインドの新聞社サイトにも婚活をサポートするコンテンツがある。複合民族国家であるインドでは、もともと新聞広告で結婚相手を探す習慣があったという。婚活サイトはその発展形という格好だ。

米国ワシントン・ポスト紙の「デート・ラボ」サイト。
「5年間のサイト運営で、カップル成立のノウハウを蓄積した」と
このサイトを利用したカップルを紹介している
 

結婚が決まると、次は挙式となるが、ここでも多くの海外紙のサイトが、結婚式に関連する実用コンテンツに加えて、個人の挙式情報を掲載している。なれそめから思い出の場所、ハネムーンの計画まで、新聞記事さながらの読ませるストーリー仕立てで紹介されたりする。動画付きで結婚式の模様を紹介するものもある。結婚を決めた日から挙式後まで、ワンストップで新聞社が寄り添うのだ。

他にも「患者の声」として同病者同士の情報交換の機会を提供したり、引っ越し、転職、旅行、中古車売買、住宅リフォーム、死亡など、人生の節目には、新聞社がお膳立てする情報収集の場が現れ、人々の生活の中に入り込んでいる。

これらに共通するのは、いずれも情報源に対する信頼がものをいう領域であることだ。同様のサイトやサービスは他にもあるが、新聞社が提供する場ということが、人々に安心感を与えているのだろう。ワインやガーデニングといった趣味の分野でも、充実した記事コンテンツと読者間のやりとりに加えて、新聞社ブランドで展開するショップがセットで提供され、一つの同好コミュニティーが形成されている。紙しかなかった頃と比べて、生活者から見た新聞社の立ち位置は大きく変貌している。

新聞社が読者と接点を持つ動きは、ウェブ上だけではない。
ニューヨーク・タイムズが企画している中南米諸国などを訪れるクルーズツアーは、船内で同紙の著名なコラムニストや記者の生の解説を聴けるというのが売りだ。カナダの新聞が運営するニュースカフェは、新聞社と読者の物理的な距離を近づけた先駆的事例。カフェ内に編集スタジオがあり、読者と記者が交流できる。記者は読者の生の声に触れながら編集業務を行い、読者はニュースができるさまを肌で感じることができる。料理も本格的なレストランのレベルで、店内では時折コンサートなども開かれるなど、コミュニティの一員としての顔が見える新聞社像がそこにある。米国にも同様のカフェがある他、シンガポールでは、スポーツ新聞が経営するスポーツバーがある。

日本でも下野新聞社が一昨年、支局を併設する常設のニュースカフェを開設し話題を呼んだ。新聞を読みながら飲食できるほか、各種イベントも開かれ、中心市街地の交流拠点としても役立っている。これは日本新聞協会の2013年度新聞協会賞(経営・業務部門)を受賞している。

下野新聞社が2012年6月、
栃木県宇都宮市の中心市街地に開設したNEWS CAFE
キャッチフレーズは「ニュースを、あなたの、いきつけに。」
コーヒーを飲みながら、ニュースに触れることができ、読者、住民は交流の場にもなっている
1,2階が店舗、3階が「宇都宮まちなか支局」

 

2階で行われた「しもつけ新聞塾」
下野新聞社員が若者に新聞の読み方をレクチャー
 

また、日本ではその存在が当たり前すぎて意識しない新聞の宅配制度は、それ自体が社会のインフラをなす生活者との接点でもある。全国には約1万8000の新聞販売店がある。社会全体がネットへの依存度を高めている中で、毎日同じ人が訪問するという行為に新たな価値が見いだされている。自動振り込みではなく、月1回、対面で購読代金を支払うことを希望する人も多い。異変に気付いた配達員が一人暮らしのお年寄りの命を救ったこともある。このデリバリーネットワークを、企業の商品サンプリングに活用したり、新聞販売店がさまざまなコミュニティー活動のハブになるような試みが始まっている。

生活者からの信頼性で成立するコンタクトポイントは、ますます重要性を増す。新聞社と読者の距離が今後さらに近づけば、企業にとって生活者とのコミュニケーションチャンスがより広がっていくだろう。