新明解「戦略PR」 #09

PR部門のないアドフェストで、PRエッセンスを感じる受賞作、見つけた!

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    井口 理
    株式会社電通パブリックリレーションズ コミュニケーションデザイン局 局長 チーフPRプランナー

今回は、3月にタイはパタヤで行われました「Adfest 2014」について書いてみたいと思います。昨年初めて参加したんですけど、パタヤはね、むっちゃ熱い、いや、暑いね。今年はバンコクのデモなどの影響が心配されていましたが、現地はなんのその。「マイペンライ!(気にするな、気楽にいこう、の意)」って感じでした。だって、そんなの気にしてちゃ、世界三大料理なんて食してられないっしょ。えっ? タイ料理って三大料理じゃないの? 入ってないの? マジっすか?

という前振りから、タイトルに戻りますが、そう、アドフェストっていまだに「PR部門」がないんですよ。カンヌライオンズでPR部門が創設されたのは2009年、カンヌのアジア予選ともいえるSpikes Asiaでは2011年にPR部門が新設されています。なのに、なぜ、アドフェストはいまだPR部門ができないのか? これは大いなる疑問! そこんとこ含めて、ちょっと今年の受賞作の傾向なども私なりにひもといてみたいと思います。

アジア・パシフィック地域は、まだまだ広告が大きな力を持っているエリア?

カンヌライオンズにPR部門ができた2009年は、前年の「リーマンショック」の影響で広告業界も大きなダメージを負った年でした。広告費の捻出が難しくなった各企業は、「だったらもっとPRを活用しなきゃ!」という意識が高まり、カンヌ全体のエントリー数がガクンと落ちた中、PR部門は活況。その後も毎年、順調にエントリー数を増やし、私が審査員を務めた2012年は、エントリー数、前年比138%。注目の成長ジャンルとなっています(もちろん、全体数でいえばその他の歴史ある部門と桁違いなところもあるわけですが…)。

んじゃ、どーしてアドフェストにはPR部門がないのって話ですが、私が思うに、アジア・パシフィック地域は、まだまだ広告が大きな力を持っているエリアだからではないでしょうか。需要と供給でいえば、需要の方が高い社会、つまり、常に生活を向上させるような、さまざまな製品やサービスを生活者が探し求めている環境なので、広告のようなストレートなメッセージの方が、人の心に強く刺さる土壌なのだと思います。「PRなんて回りくどいものより、アドアドアドだい!」みたいな。

一方、同じアジア開催でもSpikes Asiaは、PR部門があります。これは、運営母体がカンヌライオンズと同じなので、少し欧米系の見方が強いのかもしれませんね。とはいえ、2012年に同じく私がSpikes AsiaのPR審査員をしたときにも、「これはPRとは言えないよねー」というようなものが半分以上、いや7割近くあったと思います。ただカテゴリーとして「PR部門」を掲げることが、やはり今後の業界の発展には大きく寄与するわけで、PRパーソンとしてはこの流れをアドフェストにも求めずにはいられません。

 

アドフェストの受賞作品の中でPR的にいいなと思う作品をご紹介

では、今年のアドフェストはどうだったのでしょう。タイトルは「Co-create the Future」、すなわち「未来を共創する」という目線で審査されたと聞いています。私が全般的に感じた受賞作品の傾向をお話しすると、やはり「コーポレート・コミュニケーション」的な活動、つまり「企業のファンをつくる」というミッションを具現化するものが多かったのではないかと思うのです。そんな受賞作の中から、私がPR的にもいいな、と思う作品をいくつか紹介してみましょう。

①企業の技術的バックグラウンドを鮮やかに伝えた「Sound of Honda」
「Sound of Honda / Ayrton Senna 1989 」Integrated=Grande、Interactive=Grande、Promo=Grande、他

 

今回のアドフェストを席巻したホンダ技研工業の「Sound of Honda / Ayrton Senna 1989 」(日本)は、プロモ、インタラクティブ、インテグレーテッドの3部門のグランプリをはじめ、その他部門でも多数のゴールドを獲得しました。このキャンペーンは、ホンダがF1でその存在を確固たるものとした1989年にさかのぼり、アイルトン・セナが同年のF1日本GP予選で、鈴鹿サーキットで記録した当時の世界最速ラップドライビングを、光と音で再現したものです。

一見、F1ファンやセナファンに向けたマニアックな施策に見えますが、音と光のみで、あたかもF1マシンがサーキットを走っているようなイメージを作り出した技術力は見事。これらが、ホンダが持つデータ記録&分析システムから再現されていることを伝えることで、F1を支えてきたそのバックヤード力を、生活者の多くにあらためて気づかせるきっかけとなっていますよね。まさにホンダという企業に対して「いいね!」「粋だね!」と言いたくなる施策です。

 

②赤ちゃん向け製品のメーカーが、製品以外でもお母さんをサポート
「ZZZ Radio」Direct=Gold、Media=Gold

 

おむつ「パンパース」の製造・販売を手掛けるP&Gのエントリー(フィリピン)。おむつの快適さをアップし、赤ちゃんの機嫌を良くする、それによりママたちも楽になる、というのが製品の提供できるベネフィットですが、さらになにか手伝ってあげることはできないのか? と考えて提供されたサービスが「ZZZ Radio」キャンペーンです。

赤ちゃんの機嫌を常に良い状態にしておきたいのはすべてのママ、ひいては家族の願い。特に夜泣きの時なんかは、つらいもんですよね。そこでパンパースは、赤ちゃんの快適な眠りをサポートするサービスを開始しました。

赤ちゃんが胎内にいるときに落ち着いていられるのは、お母さんの心臓の鼓動や、腹水内の独特の雑音(通称ホワイトノイズ)がその要因ともいわれています。実際、市場ではそういったホワイトノイズを人工的に作り出すマシンなどが売られていますが、どれもこれも結構な値段でちょっと買いづらいよね、というものが多いのです。

だったら無料で同じものを提供できないものか? と考えたのが「ZZZ Radio」。これはホワイトノイズをひたすら流す、無料のラジオチャンネルなのですが、実際には正規の放送局の間にあるノイズだけのFM99.1をパンパース専用チャンネルと名付けただけ。広告料金などは発生せず、誰でも無償で聴けるものとなっていて、パンパースはその周波数だけをパッケージや最低限の告知で夜泣きに悩めるママたちに伝えました。この取り組みはママたちのネットワークですぐさま拡散。高価なホワイトノイズ生成マシンを買わなくても、誰でも持っているラジオでこれを活用できるようにしてしまったわけです。

クライアントは費用がかからず、生活者も無料でサービスが受けられるという、まさにWIN-WINのキャンペーン。企業ファンが増えたことは言うまでもありません。またラジオという多くの人が所有しつつ、でも最近活用頻度が下がっているようなレガシーメディアがここで再活躍するように設計されているのも、広告関係者には涙ものですよね。

 

③若年層向けに新たな接点を創出「NEWS BOTTLE!」
「NEWS BOTTLE !」Promo=Gold、Media=Gold

 

新聞の購読者は年々減少しており、どうにか若年層に向けてアプローチできないだろうか、というのはどの新聞社でも考えていること。こういう場合、若者向けのコンテンツを拡充していこう、となるのが常ですが、今回のキャンペーンは、中身より外側を変えちゃおう!ということで、紙の新聞からその姿をペットボトルに変えて登場させたのが、今回の毎日新聞の「NEWS BOTTLE !」キャンペーン(日本)。

若年層の接触率の高いものはなんぞや? というところから、スマホなどのガジェットに行かず、あえて生活必需品的なミネラルウォーターのペットボトルに接点を見いだしたアイデアは秀逸です。とはいえ、誰もが考えそうなアイデアでもあるんですが、ペットボトルの一部を広告スペースとして確保することで広告主を呼び込み、これによりメーカーの製造コストをカバーして流通価格を半値近くまで落とすなど、継続できるスキームがしっかり組み立てられているところがさすがですね。

新聞の販売契約数を伸ばすということも当然重要なのですが、メディアとして「ニュースを生活者に届ける」という使命をこういう形を使ってでも全うしていこう、という企業姿勢も垣間見られ、思わず「いいね!」「やるね!」と言いたくなるエントリーでした。

 

PRの重要性は、ポテンシャルとして十分浸透している

これらエントリーに共通しているのは、実はプロダクトのUSP(Unique Selling Point)では差別化できない、コモディティー商品あふれる先進国で、今まさにチャレンジされている「企業のロイヤル・カスタマーづくり」だと思うのです。PRの先端を行くそのエッセンスが、「広告万歳!」のアドフェストでなんだかんだ強く評価されているということは、今はまだPRの重要性が顕在化していなくても、ポテンシャルとしてすでに十分浸透しているといえるのかもしれません。近い将来、アドフェストにPR部門が登場することを期待せずにはいられませんね!

プロフィール

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    井口 理
    株式会社電通パブリックリレーションズ コミュニケーションデザイン局 局長 チーフPRプランナー

    1990年電通PRセンター(現電通パブリックリレーションズ)入社。コミュニケーションデザインを手掛けるチーフPRプランナー。
     
    企業のコーポレートコミュニケーションから、製品・サービスの戦略PR、動画コンテンツを活用したバイラル施策や自治体広報まで、幅広く手掛ける。最近では、熊本県の赤い特産物をアピールするため仕掛けた「くまモンほっぺ紛失事件」のPRプランを手掛け、世界的なPR業界紙「Holmes Report」が主催するアワードで「世界のPRプロジェクト50選」に選出された他、多数の口コミを起こしたキャンペーンとして、世界的な口コミアワードである「WOMMY AWARD」を日本で初めて受賞。Holmes Report「The Innovator 25 Asia-Pacific 2016」(アジア太平洋地域のイノベーター)選出。
    その他「Cannes Lions」「Spikes Asia」PR部門、「SABRE AWARDS ASIA PACIFIC」「PRWeek Awards Asia」「ヤングカンヌPR部門日本代表選考」審査員。2013年6月に「戦略PRの本質~実践のための5つの視点~」(朝日新聞出版)を上梓。自治体PR事例をまとめた「成功17事例で学ぶ自治体PR戦略」(共著:時事通信社)も好評発売中。

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