Dentsu Design Talk #25

「シェアからオープンへ」


~いま世界で起きているパブリック化の潮流~

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    小林 弘人
    株式会社インフォバーン 代表取締役CVO(Chief Visionary Officer) / 株式会社デジモ代表取締役 / ビジネス・ブレークスルー大学教授
  • 鷲尾 恒平
    株式会社電通 第4CRプランニング局 ストラテジック・プランナー

Dentsu Design Talk 第74回(2011年12月1日実施)は、ジェフ・ジャービス著『パブリック 開かれたネットの価値を最大化せよ』(NHK出版)の刊行(当時)を機に、同書の監修と解説執筆を手がけた小林弘人氏を迎えて、「シェアからオープンへ」をテーマに企業とパブリックの関係についてお話しいただき、ストラテジック・プランニング局(当時)の鷲尾恒平氏とのトークセッションが行われた。

♯「パブリックネス」という概念

初めに小林氏は、『パブリック』の冒頭で著者のジェフ・ジャービスが定義している造語「パブリックネス」の概念について、「パブリックネスとは、情報・思考・行動を共有することであり、それらをシェアしている状態」であり、「周囲とコラボレーションするために、プロセス(過程)をオープンにしていくこと。その倫理をパブリックネスという言葉が象徴している」と解説した。ジャービスは本書を執筆した動機として、「プライバシーを擁護する人は大勢いるが、パブリックを擁護する人はいない」と述べていて、本の中では、企業や個人がどうやって自分の情報をオープンにしてパブリックな果実をもぎ取るかということが具体的な例を挙げながら書かれている。この日のトークでは、特に企業の部分にフォーカスを当てて、「企業がパブリックネスとどう付き合っていくか」をテーマに小林氏にお話いただいた。

 

♯個人個人がオープンにしシェアすることで生まれるパブリック

そもそも、ジェフ・ジャービスのいう「パブリック」は旧来のパブリックと何が違うのか。小林氏は、「われわれ一般的な日本人が考えるパブリックとは、先にそのような空間が公共機関によってつくられていて、人々はそこに行くと公共的なふるまいをしなければいけないという漠然としたものではないか。シェア型のサービスでは、個人個人がオープンにすることによって各自のもつ価値にアクセスができる。そして、そこからパブリック空間が生まれる」という。例えば、自分の車を通勤時に誰かと乗り合わせるマッチングサービスであるrideshare(ライド・シェア)は、自分一人だけで運転しているとき車内はプライベートな空間だが、マッチング・サービスで他人が乗ってくれば、その空間はパブリックになる。つまり、「パブリックとプライベートは対立する要素ではなく、何をプライベートにして何をオープンにし、パブリックにするかということを個人が自分自身で選んでいく自己決定性」だという。自らの部屋をオープンにしてシェアすることで世界中に宿泊先を提供するAirbnb(エア・ビー&ビー)や、アマチュアの料理愛好家が手料理を地域の人とシェアするCookistoといったさまざまなシェアリングサービスは、「個人個人がいろんなリソースをパブリック化し、シェアすることで、みんなにとってのメリットや価値、経済、市場が生まれてくる」のだ。

 

#企業が消費者と共に価値を生み出す「コ・クリエーション」

そういったパブリックネスを企業で考える際に近年注目されているのが、企業が消費者と一緒にモノやサービス、あるいはそういったものを生み出すプラットフォームをつくっていく「コ・クリエーション(共創)」だ。また、自社内の各部署で埋もれている良いアイデアを、社内ソーシャルメディアを使って掬い上げる「コ・イノベーション」や、自社のリソースをオープン化して社内および他社と協働する「オープン・イノベーション」など、いずれも組織と社会の目的がそろい、「パブリックネス」をベースにしている。「公開されていて、なおかつアクセスが可能であるということがコ・クリエーションに向かうための起点です。法人においても、どこからどこまでをクローズドにしたほうがいいのか、あるいは何をオープンにして流動化させるべきか、この見極めが今後の課題だと思います」と小林氏は述べた。

 

#クローズド・ビジネスとオープン・ビジネスの違い

従来のクローズド・ビジネスでは、他社や他の商品との差別化や自社のテリトリー拡張のために統合型の戦略をつくり、コミュニケーションの方法は自分の意見を投げていくモノローグ的なマス・コミュニケーションだった。しかし、「オープン・ビジネスやオープン・イノベーションでは、最初からプロセスを公開したり部分ごとに分散させてモジュール型にして進めていく。コミュニケーションの方法もポリローグ、つまり同時発生的にたくさんのところで会話が始まる、対話型のコミュニケーションになる」と小林氏。マーケティングも「企業が言いたいことよりも、社会全体は今何を欲しているのかというソーシャルなニーズにその企業がどう応えられるのか、と考え、もっとポリローグ的なアプローチを進めるべき」という。

自動車会社のフィアットは、クラウド上で登録したユーザーが議論してパーツやデザインを決めていく「人類初のクラウドソース・カー」と呼ばれるコンセプトカーを製造。そのプロセスは全てメディア化してクリエーティブコモンズ・ライセンスでオープンにしている。「今までコンセプトカーといえば、発表をギリギリまで隠してモーターショーでお披露目するという形でしたが、全部開示してユーザーとともにつくっていくというコ・クリエーション試作はこれから増えるでしょう」と小林氏が紹介した。

 

♯企業のバブリック化は社内の小さな成功体験から

続いて鷲尾氏が、これまでの小林氏の話を受けて、「これまでもコ・クリエーションという考え方は存在していたが、プロセスをオープンにして共有するということが、現代的なコ・クリエーションの肝なのかなと思っています」と述べた上で、「日本にはポテンシャルがあると思うが、先進的な事例は海外のものが多い」ことを指摘。日本企業のパブリック化への壁として、①日本企業は元々顧客の声に耳を傾けるアプローチに力を入れていて、戦略的な必然性を感じていないこと、②チャンスよりリスクを恐れる企業のあり方、③フラットで領域横断のユニットによる高いレベルの意思統一が求められるという組織の壁、の3つを挙げ、小林氏に日本の組織におけるパブリックの可能性を問いかけた。

小林氏は、文化の差というのはステレオタイプに語られやすい局面ももつので、実際は日本もアメリカも多様性があると説明。程度の差こそあれ、米でも意識改革が必要。肝心なのはオープン化による「個人的な成功体験を積み重ねていくこと」だという。

鷲尾氏も「企業でスモールスタートするときに、有志が集まって組織をまたいだ勉強会をスタートさせることから始め、まずは社内で小さな成功体験をつくることが入り口になる」と述べ、その中で、成功への不確実性を下げるために外部ファシリテーターを導入することも重要と両氏がそれぞれ指摘した。

 

#おもてなし文化はコ・クリエーションに通じる

さらに鷲尾氏からは、前述の①の壁を越えるために必要な「コ・クリエーションの高揚感」として、「ソーシャルメディアは予定“不”調和な発見をもたらすプラットフォームという側面があるので、企業側にとってもコ・クリエーションによって、これまでのビジネスの延長線上を超越したイノベーションがもたらされるきっかけになるべき」との発言。

小林氏も「今までの日本企業は社員を単一な規範によって縛る傾向が強かったが、ジェンダーや国籍だけではない多様性の活かし方がカギになるだろう。異分子をどれだけ抱えられるか、どの会社にもいるミスター&ミス・セレンディピティー(偶然がもたらす発見)をどれだけ活躍させられるのかにかかっている気がする」と述べた。

 

最後に、「茶道のおもてなし文化には、招く側だけでなくお客様と一緒になってつくるという考えがあって、日本における理想的なコ・クリエーションな場はそういう精神性に近い」と鷲尾氏が指摘すると、小林氏も「日本の価値観に合わせた形で、その中から生まれてくるのが重要だと思う。あとは小さな失敗の価値を認めて、むしろ奨励することが必要です」と、今後の日本でのパブリック化へ期待を込めた。

 

〈了〉

企画プロデュース:電通人事局・金原亜紀    記事編集:菅付事務所   構成協力:小林英治

プロフィール

  • 723a5566 r
    小林 弘人
    株式会社インフォバーン 代表取締役CVO(Chief Visionary Officer) / 株式会社デジモ代表取締役 / ビジネス・ブレークスルー大学教授

    1965年長野県生まれ。株式会社インフォバーン代表取締役CVO。株式会社デジモ代表取締役。ビジネス・ブレークスルー大学教授 。「ワイアード」「ギズモード・ジャパン」など、紙とWebの両分野で多くの媒体を創刊。98年にインフォバーンを設立。企業メディアの立ち上げから運営とコンテンツ・マーケティングを支援。主な著書に、『新世紀メディア論─新聞・雑誌が死ぬ前に』(バジリコ)、『メディア化する企業はなぜ強いのか?』(技術評論社)、『インターネットが普及したら、ぼくたちが原始人に戻っちゃったわけ』 (共著、晶文社)など。

  • 鷲尾 恒平
    株式会社電通 第4CRプランニング局 ストラテジック・プランナー

    2002年電通入社。アカウント・プランニング・ソリューション局に配属。ブランディングやメディアプランニングのメソッド開発・データベースシステムの構築に関わりながら、それらを活用したクライアント業務に従事。2008年よりストラテジック・プランニング局にて、自動車メーカーや家電メーカーのコミュニケーション戦略を担当。共著書に『ソーシャルエコノミー』(翔泳社)

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