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髙崎卓馬氏インタビュー

「クリエーティブは裏切らない」第2回

2014/04/23

言葉・ビジュアル・音 三つの技術が核に

 

【第2回】心を動かされるものはどうやってできているのか

 

人間にどうやって近づくか

最近は広告の領域がかなり拡大していて、クリエーティブ、ストラテジー、メディア、さらには営業、クライアントまで、それぞれの境界があいまいになっています。どこにいてもやろうと思えば、どこまででもできるのが今の時代です。逆に「自分はここだけ」と決めてしまったら本当に最低限の仕事で済んでしまう。僕がこの仕事を愛してやまない根底には、A4の紙に描く物語でどこまで人間を描けるか。原稿用紙にどれだけ胸の奥に入り込む言葉を書けるか。という欲求があります。それが基本です。それをやる環境を純粋な状態で手に入れたいから全部やる。上から下まで、右から左まで、全部やる。

今、メディアの質的変化にみんな右往左往し過ぎかもしれません。広告の関連書籍は基本的にセンセーショナルなタイトルや帯のコピーで僕たちの時代を煽(あお)ります。でもそんなのはたぶん一過性のもので5年もしたら陳腐で無意味なものになる。全ての時代は変化の途中にあるのですから。たぶん本質を見極めてそこを見つめて生きていくことが大切なのだと思います。時代は本質を淘汰(とうた)することはないから、本質的なところで人に伝える技術を磨く、人間をよく知ろうと努力をし続ける、ということが必要なのかもしれません。人間にどこまで近づけるか。それが人に届くものをつくる秘訣(ひけつ)だと僕は考えています。人間に近づくために有効な一番の道具はきっと言葉やビジュアルや音なんだと思います。デジタルだろうと紙だろうと生だろうと関係ありません。その三つの技術を磨いていればなんとかなる気がします。

僕はそれを複合的に使う映像というものに魅了された人間なので、その力を信じるし、それでどこまで行けるか、自分でもとても楽しみにしています。それを時代に合わせながら表現にしていく。自分のスキルの核はそれだと思います。だからそれを必死に磨き続ける。全然奥が深くてまだまだ入り口にしか立ってない気がしますけど。最近この業界にある「どこにいてもなんでもできる幻想」に若いうちに包まれてしまうと自分の核が見つけにくくなってしまうかもしれません。それはとても不幸なことだなと思います。なんでもできるはなんにもできないとほぼ同じ意味です。そのことに10年たって気づいてももう手遅れですから。

サントリー食品インターナショナルの炭酸飲料「オランジーナ」のCMシリーズ“ムッシュはつらいよ”の第7弾「乗り遅れたムッシュ」編(4月15日から放送)。山田洋次監督の「男はつらいよ」の主人公“フーテンの寅”をモデルに、リチャード・ギアさんがフランス版“TORA”役を演じている。

いろいろ言われるのが好き

20年この仕事をやっていますが、企画力そのものが進歩している実感はないんです。むなしいくらい変わっていない。多少早くなったくらいです。いつも喫茶店で企画していますが、毎回毎回できなかったらどうしようという強迫観念を追い払うのに苦労しています。

でもそのプレッシャーと上手につきあうことが少ずつできるようになってきてはいるかもしれません。体調や心の調子が整っていないといい企画はやっぱりできなくて、そういう状態に自分をもっていくいくつかの方法は身に付いています。自己暗示のかけ方のようなものです。今日はダメだなと思ったらあまり粘らずに全く別なことをする。そうやって脳を強制的にリラックスさせて脳が油断したらパッと仕事をする。きっと明日はできそうだな、と何の根拠もないのに思ったりする、みたいなノウハウはいっぱいあります。

企画は基本的に少人数でやるべきだと思っています。そうしないと深いところにいかない。でも、そのできないかもしれないという恐怖は実は企画をジャンプさせるための大切な要素です。その恐怖があるからできるまでやってしまう。もともとさぼりがちな人間なので、後ろで怖い人が睨んでいるぞ!みたいな環境の方が集中するのかもしれません。大人数でわいわいやっているとその大切な恐怖が分散してしまう。そんな気がします。

こんなに好きな仕事をしているのに、自分ができないなんて許せないからまあ頑張るわけで。だから他から見るとストイックに見えちゃうのかもしれません。完全に企画中毒者。

時間があるとエア企画したりしています。頼まれてもないクライアントのことを考えて、もしあの商品を自分が担当することになったらどうするか?と勝手に考える。病気ですね。後輩たちには悪いなあと思います。僕みたいな先輩がいたら嫌ですね。勝手にどんどん進めちゃうし、会うたびに違うこと言いだすし、まとめた企画を夜中に変えたいとメールしてくる、仕事はどんどんふくらましちゃう。迷惑ですね。

でも言い訳をすると、正しいことはやっぱりいつ誰に言ってもいいと思っています。ずっと守ってきた企画が思っていた結果に辿(たど)り着く力が持てなさそうだと思ったら大きな判断をすべきだと思っています。常に自分を疑う。そうしていないと押し寄せてくる変更や事件に最後の表現が負けてしまいます。

広告の仕事は本当にいろんな段階でいろんな人にいろんなことを言われます。でも僕はそれが結構好きなんです。検証する機会だと思ったら好きになりました。昔は何時間でも粘って反抗期の息子みたいになっていましたが、今はその相談の裏にある本当の声をできるだけ聞くようにして、その本当の声のためになることを考えるようにしています。この仕事がとても面白くなったのはそれができるようになったからだと思います。最後にありがとう、と言われるのが一番大切だと思っています。

〔 第3回へ続く 〕

髙崎氏はいつもノートを持ち歩き、アイデアなどを書きとめていく。その数すでに数十冊。その中に2020年東京オリンピック・パラリンピック招致活動映像のアイデアも。最終プレゼンで映像となって多くの人の感動と共感を呼んだ。
髙崎氏はいつもノートを持ち歩き、アイデアなどを書きとめていく。その数すでに数十冊。その中に2020年東京オリンピック・パラリンピック招致活動映像のアイデアも。最終プレゼンで映像となって多くの人の感動と共感を呼んだ。