髙崎卓馬氏インタビュー

「クリエーティブは裏切らない」第3回

  • Takasaki
    髙崎 卓馬
    株式会社電通 CDC エグゼクティブ・クリエーティブ・ディレクター/CMプランナー

髙崎卓馬氏インタビュー

「クリエーティブは裏切らない」

 言葉・ビジュアル・音 三つの技術が核に

【第3回】負荷の大きい方へ歩んで、自分の枠を超えていく

 
   

今の自分が想像もつかないことを

ブエノスアイレスでの最終プレゼンに参加しました。ロゲ会長が「TOKYO!」と言った瞬間に、たぶん生まれたとき以来の大声で叫んで泣きました。仲間と何度も抱き合いました。ああいう光景を自分が体験できるとは20年前は想像もしていませんでした。でも急にあそこに行ったわけではなくて自分が信じて磨いてきたコミュニケーションの技術が僕をあそこに連れていってくれたのだと思います。

将来何がしたいのかとよく聞かれます。いろんなことをやっているせいですね。でも正直なところ全く考えたことがありません。5年後とか60歳を過ぎたらといったビジョンも特にありません。具体的なゴールを決めてしまうと、それが達成できた瞬間に自分が終わってしまうような気がするからなのと、これから出会う何かにものすごく期待しているからなのかもしれません。明日思いもしなかった仕事をすることになって、そこで思いもしなかった出会いがあって、思いもしない自分の引き出しが開く。ずっとそんな感じでいたいです。それといろんなことをやっている人だと思われていますが自分の中で全部同じものではあるんです。たまたまアウトプットの形が今回は小説だったり、映画だったり、広告だったりするだけで。デジタルもアナログもメディアの質的変化もあまり気にならないでいられるのは、表現の表面ではなく中身への関心が強いせいかもしれません。

少し前に冒険写真家の石川直樹さんとインドで撮影しているときに彼に聞いたんです。どうしてあんなに面白い写真が撮れるんですか?って。すると彼は「他の人が行かない場所に行ってシャッターを押すだけです」と答えました。僕は感激しました。ものをつくるってそういうことだと思うんです。人と違うものがつくりたかったら、人より難しい場所に行ってつくる。それしかないと思います。難しい企画の方が面白くなる可能性が高い。人がやらない企画だからです。例えば、エイベックス・エンタテインメントの「ドコモdビデオ」のテレビCMにロバート・デ・ニーロさんに出演してもらった企画でも、普通はみんな諦めると思います。いいね!でもできないよねって。予算のこと、不確定要素の多さ、簡単に想像のつくトラブル。笑いながら会議室でその企画は流れていくのが普通だと思います。でもそこで誰かが踏ん張る。やろうと言う。そうしてそのリスクを乗り越えていく方法を皆が考える。するとああいうものに手が届く。僕自身そうは言っても一度「モーガン・フリーマンはいい人らしいよ、変える?」とひよったりもしましたけど(笑)。

 
髙崎氏はいつもノートを持ち歩き、アイデアなどを書きとめていく。その数すでに数十冊。JR東日本「行くぜ、東北。」のテレビCMのアイデアもここから始まった。

 

JR東日本「行くぜ、東北。」のテレビCMのワンシーン(2014年1月10日~2月6日放送)。
髙崎氏のアイデアは映像となって多くの人に届けられた。

 

よく上手なプレゼンの仕方を質問されるんですが、いい企画をつくること以外の方法はないと思っています。いい企画とはクライアントのためになり、世の中のためになり、自分のためにもなると自分が思い込めているもの。そういう企画を見つけてさえいたら、恥ずかしさは消える。実現したい気持ちが強くなっていると企画に対する集中力も出る。集中した状態で話をしていたらクライアントの言葉の裏にある微妙な反応も見えるようになるし、結果に向かって何をすべきかの情報の収集量も増すはずです。80点の企画を、プレゼンで120点のように話すことの方がよっぽど恥ずかしい。そんな仕事の仕方をしていたらおそらく結果は50点にも到達しない気もします。大切なのはプレゼンで案を通すことよりも、その案がより強い広告として世の中に出るために必要なことを見つけ出し、そこでのやりとりで信頼をしてもらうことだと思います。骨の部分で信頼してくれたら、細部は任せてもらえます。細部の自由を持って現場に入れば点数をあげる判断を高速でやれます。いいプレゼンというのは、以降の作業の信頼を獲得できたプレゼンのことじゃないでしょうか。みんなで不安を共有しながら作業していくと、リスクが分散した錯覚に安心しますが、実は全てがネガティブになっていく。みんなが萎縮するだけです。そういうやり方をしていると結果は絶対に出せないんじゃないか。

信頼を獲得しておくとリスクに対して高速対応ができるようになるので、不安の共有をする必要もなくなります。

だからプレゼンはヘタクソでもなんでもいいと思います。僕も声は聞き取りづらいし、小さいし、全然すてきなプレゼンとかしたことないと思います。それでもなんとかなっていますし。広告はずいぶん僕を成長させてくれました。こんなすてきな仕事に出会えて本当に幸せです。この20年ほぼ休まず企画し続けてきました。というとみんなどん引きしますが、でもまあ仕方ないです。面白過ぎるので。

〔 完 〕

プロフィール

  • Takasaki
    髙崎 卓馬
    株式会社電通 CDC エグゼクティブ・クリエーティブ・ディレクター/CMプランナー

    2013年、2010年クリエーターオブザイヤー、TCCグランプリ、ADC賞、ACC賞など国内外の受賞多数。エイベックス・エンタテインメント「dビデオ」、JR東日本「行くぜ、東北。」、サントリー「オランジーナ」、 ANA、Intel、JRA、朝日新聞などのキャンペーンを担当。2020東京五輪招致のクリエイティブディレクションを担当。著書に「表現の技術」(電通)、小説「はるかかけら」(中央公論新社)など。

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