現地レポート!カンヌライオンズ2013! #03

示されたメッセージは、「人間への回帰」

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    京井 良彦
    株式会社電通 ビジネス・クリエーション・センター  プランニング・ディレクター

カンヌライオンズ2013は、最終日を迎え、クロージングパーティーでの花火の打ち上げとともに、大盛況の中で幕を閉じました。
後半戦のセミナーでは、元ヴェルヴェット・アンダーグラウンドのルー・リードの登場や、電通セミナーでのPerfumeのミニライブが会場を盛り上げましたが、「このオジサン、Perfume知ってるんかいな」というような外国人までノリノリだったのは、少し笑えましたね。

さて、最終日は、伝統のフィルム部門や、これからの広告を指し示すチタニウム部門など、主要部門の発表がありました。その審査員長として、ジョン・ヘガティ、ダン・ワイデン、ジョー・ピトカなど、レジェンド中のレジェンドが登壇した上に、アップル社の「Think different」を手掛けたことで有名な、これまたレジェンドのリー・クロウが、Lion of St. Mark(功労賞のようなものでしょうか)として表彰されるなど、まあ、これ以上ない華やかな舞台となりました。

そして、終わってみれば、前回も紹介した、オーストラリアの鉄道「Metro Trains」の事故防止を啓発するアニメソング「Dumb Ways to Die=マヌケな死に方」の圧倒的な評価という結末。とにかく、PR部門、ダイレクト部門、ラジオ部門、フィルム部門、インテグレーテッド部門で5つのグランプリを獲得するという、カンヌ史上初の快挙となったわけですから、もう脱帽です。
親しみある楽曲とスパイスの効いた表現が、理屈を超えて多くの人々の心を掴んだということでしょうが、会場でもこの映像が流れるたびに、大きな手拍子で大合唱となっていました。

それから、アメリカのインテルと東芝の共同プロジェクト「The Beauty Inside」が、サイバー部門、フィルム部門、ブランデッドコンテンツ&エンターテインメント部門の3部門でグランプリ獲得という、これもすごい評価を獲得しました(つまり、フィルムグランプリは2つ)。
これは、毎朝目が覚めると違う人間になっていく男のストーリー映像。この男が女性に恋をしたことで、次々と外見が変わっていく自分に生じる葛藤が描かれます。この男の役は、一般の人をフェイスブックで募集して、日替わりで参加してもらうというものでした。
有名な「Intel Inside」の刷新プロジェクトとして展開されたものですが、人間の外見を超えて、どこまで内面の美しさに迫れるかという追求は、とくに多様な人種が入り交じるアメリカでは、多くの共感を得るものとなったようです。

主要部門の最後は、新しい次元を切り開く斬新なアイデアに贈られるチタニウム部門で締めくくられます。今回のグランプリは、Doveがブラジルで展開した「Real Beauty Sketches」でした。
これは、FBI犯罪捜査で似顔絵を描く専門家に、自分の顔を見せずに口頭説明だけで似顔絵を描いてもらうというもの。次に、はじめて会う第三者がもう一度自分の顔を説明してくれて、専門家が似顔絵を描きます。出来上がった2枚の絵を比べると、後者の方が明らかにポジティブで活き活きとした表情をしています。
「You are more beautiful than you think.=あなたは、あなたが思っているより美しい」、それを証明する実験だったわけです。このプロジェクトがどれだけ多くの女性に勇気を与えたか、想像できますよね。

とまあ、この3つの作品が、60回目のカンヌライオンズを代表するものになったのかなと思います。で、これらの選定を通じて、レジェンドたちが示そうとしたメッセージは何だったのでしょうか。
いろんな意見があると思いますが、僕は「人間回帰」というものではないかと考えました。 ここ数年のあいだに、テクノロジーの劇的な進化とソーシャルメディアの浸透で、デジタル領域でのコミュニケーションの可能性が大きく広がりました。カンヌもこういった新たなコミュニケーションの開発を高く評価してきました。
とはいえ、テクノロジーが支えるものは、あくまでコミュニケーションの「手段」です。そして手段がテクノロジーに支えられた分、そこでやりとりされるコンテンツは、より人間的なものに集中できるようになったとも言えるでしょう。

前回紹介した、モバイル部門のグランプリ「Smart Communications」は、SIMカードという決して新しくない技術を使って、フィリピンの子供たちの学びをサポートするものでした。サイバー部門のグランプリ「The Beauty Inside」も、昨年グランプリの「Nike Fuel Band」からすると、技術面のインパクトはありません。このあたりが今年を象徴しているような気がします。
「最新のテクノロジーを駆使して、新たなコミュニケーションを開発すること自体が目的じゃないんだよ」という、レジェンドたちの強いメッセージが読み取れるわけです。

「Dumb Ways to Die」は、親しみやすい曲で人の命の価値に気づかせてくれました。「The Beauty Inside」は、人の内面にある真の美しさを問いました。「Real Beauty Sketches」は、人の心に潜むコンプレックスに救いを差し伸べてくれました。そしてこれらは、多くの人々の共感を得て、ソーシャルメディアのつながりから世界中に拡散されていきました。ここには、今の時代、企業やブランドが、ひとりひとりの人間に対してどんな貢献ができるのかという、大きなヒントがあるように思うのです。

ちなみに、僕としては、昨年評価されたアメリカンエクスプレスの「Small Business Saturday」や、スウェーデン政府観光局の「Curators of Sweden」のような、もっと泥臭さをもった人のつながりを創出するような施策も選出して欲しかったなという気持ちもあります。しかし、いずれにしてもこういった情勢は、日本のエージェンシーには厳しいものがありますよね。やはりまだ日本では、こういったことがコミュニケーションで解決できる領域だという認識が少ないと思うからです。でも逆にいうと、そのへん「僕らには、まだまだ伸びしろがあるな」とも考えられます。

もちろん、賞を獲ることが目的ではありませんし、カンヌからのメッセージが全てではありません。それにあまり、カンヌ、カンヌと言っていると、現実離れしたイタい奴に思われてしまいます。しかし、賞というものは、一義的には受賞者に対する表彰ですが、本質的な意義は、すぐれたアイデアを世界中にシェアすることでもあります。それが、この業界の未来を担い、クリエイティブの力で世の中を良くしようと本気で考える人々が世界中から1万人以上も集まり、持ち寄ったアイデアから絞り出されたものであることは間違いありません。
人間への回帰(と僕が考える)というメッセージ、シェアされた数々のアイデアが、世界の各地に持ち帰られ、そこでまた新しい展開につながっていく。それだけでも、世の中が少しずつ良い方向に進んでいることに違いないでしょう。

ということで、現地から3回に渡ってお伝えしてきたこのレポートも最終回。最後までお付き合い頂いたみなさん、ありがとうございました。
貴重で豊富な情報の100分の1も伝えきれていないと思いますが、何かのヒントになったなら幸いです。
次回はぜひ、現地でお会いしましょう。それでは。

プロフィール

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    京井 良彦
    株式会社電通 ビジネス・クリエーション・センター  プランニング・ディレクター

    1969年生まれ。大手銀行でのM&Aアドバイザーを経て、2001年電通入社。
    営業局でグローバルブランドや官公庁など多岐にわたるクライアントを担当し、現在はソーシャルメディアやデジタル領域を中心とする戦略プランニング、コミュニケーションデザイン、共創マーケティングを手掛ける。東京都市大非常勤講師。著書に『ロングエンゲージメント』(あさ出版)、『つなげる広告』(アスキー新書)などがある。

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