マスター・オブ・イノベーションマネジメント #01

『イノベーションマネジメントとは①』 ネットワークによるイノベーション

  • 志村 彰洋
    株式会社電通 関西支社 マーケティングデザイン局

はじめまして。電通関西支社ビジネス・ディベロップメント・センター マーケティングイノベーション部の志村彰洋です。昨今、イノベーション○○という言葉はたくさんありますが、それらとは一線を画す「イノベーションマネジメント」という新しい考え方(実施手法)と、その周辺領域のトピックについて、これから連載形式でお話しいたします。

「多様性を吸収した民意」こそが、イノベーションへの意思決定そのもの

インターネットの普及によって、今までは地域(時差)や部門の違いで顔が直接見えなかった人同士が、自由につながり、自由な方法でやりとりできる時代になりました。一方、企業においてはプロダクトライフサイクルの変化・早期化に応じて、注力事業・商品のポリシー見直し、さらには、これらの螺旋から脱却するためのイノベーション(イノベーション・パイプラインともいわれます)にも、ようやく目を向けるようになってきました。

既に欧米企業は、これらの動きを管理しマネジメントする組織(イノベーション・マネジメント・オフィス:IMO)とイノベーション・マネジメント・ツールを用意し、まさに変革をハンドリングするための動きを始めています。

第1回は、このような動きの中で起きている「ネットワークによるイノベーション」と、そのコアとなるイノベーション・マネジメント・ツールを用いた「マス・スクリーニング」について、お話しさせていただきます。

オンライン、そして、ネットワークによるイノベーションの神髄は「決めて、実施すること」。そして、ごく一部の人間による意思決定「ブラックボックス・スクリーニング」からの解放です(あえて可視化しない戦略も取れますが)。全てのプロセスを可視化することが可能なため、「決められないこと」と「ブラックボックス」というストレスを取り除きながら、自由で適度に節度を持った対話環境を構築することが可能です。そのため、多種多様な人が関われば関わるほど、また参加する人数が増えれば増えるほど、ダイバーシティーが発揮され、いわゆる民意が形成されていきます。つまり「多様性を吸収した民意」こそが、イノベーションへの意思決定そのものになるのです。

 

実施に至らないアプローチには価値がない

この膨大で多様な人が関わる議論の、発散と収束をコントロールするために生み出されたのが、イノベーション・マネジメント・ツールなのですが、実は、世の中には既にさまざまなイノベーション・マネジメント・ツールが存在し、ツール自体はレッドオーシャン(過当競争)化しています。といっても、各ツールには様々な用途・特性が存在し、目的に合った使い方をしないと火傷をしてしまいます。

この多様なツールが有する機能のうち、ネットワークで起こすイノベーションにおいて、最も重要なのが、「マス・スクリーニング(※)」です。極端な話、群衆の知恵を集めても、把握しても、解析しても、実施に至らないアプローチは、イノベーションマネジメントにおいてはほとんど価値がないと見なされます(言いっ放しの評論行為を重視しません)。当然、実施に至らなかったり、決め切れないこともあるのですが、その時決め切れなくても、経緯をデータ化して残しておくことがとても重要で、これが今までのオフライン中心の手法ではできていませんでした。また、「マス・スクリーニング」のスクリーニング行為自体が参加者の民意によってなされるため、全員がアイデアオーナーであり評価者になる、ということが重要なポイントです。

具体的にどのようなアルゴリズムでスクリーニングするかは、世界中の名だたる研究者たちが日々新しい手法を確立しており、これまた多種多様です。いわゆるソーシャルアクションの多寡であったり、それぞれの重み付けによる高度なアルゴリズムであったり。また、スクリーニングの回数もゲーミフィケーションの要素を加味して複数回用意するときもあります。

しかしながら、「マス・スクリーニング」が、従来の目安箱やオフラインフレームワーク、SNS単体施策と違うのは、同時にアイデア投稿が行われ、創発が起き、アイデアオーナーは何度も考え直し、思い直し、アイデアを書き換えできることです。

同時に、イノベーションマネジメントは、プロトタイピングや製品開発のような「実施すること」に主眼を置いていますので、アイデアをフォローするという概念でチームビルディングを行い、「実施主体を創る」ということも行います。

このように、スクリーニング自体を民意に委ねるだけでなく、アイデアの実施自体をアイデアオーナーに委ねるところまでするのが、イノベーションマネジメントです。職域、職階などは全て取り除かれますので、新入社員や生活者のアイデアが採用されて具現化されることもしばしば起こります。ここまで考えると、大変ドラスティックで勇気のいる取り組みであるといえます。

このように、イノベーション・マネジメント・ツールというネットワーク(創発環境)が用意され、時間と空間を超えて、多種多様な人からのアイデアが織り成すいけすから、次のいけす、また次のいけすへと慎重にアイデアをすくい上げていくプロセスが、オープンイノベーションにおいてアイデアをストレッチして磨きあげるコツとも言えます。

ここから、蛇口へのアイデアの運び方、蛇口のひねり方、いけすからの一時的なアイデアの抜き方、いけすの大きさ等も一体的にマネジメントしていくことで「ネットワークによるイノベーション」をより精緻にコントロールしていくことになります。

 

次回以降、イノベーション・マネジメント・オフィスの実態や、実際のオンライン創発時のメソッド・課題・醍醐味などについてお話ししていきます。また、アイデアが事業化するまでにはさまざまな関門があり、それらを突破するための「エクイティーデザイン」や「インテレクチュアルプロパティーデザイン」についても、徐々にお話ししていきたいと思っています。ご期待ください。

(第2回以降に続く)

※マス・スクリーニング(Mass Screening):企業の従業員や生活者など、大人数の意見やアイデアを個別に収集し、数理学的なアルゴリズムを用いて相互評価しながら絞り込むこと。または、その機能の総称。

プロフィール

  • 志村 彰洋
    株式会社電通 関西支社 マーケティングデザイン局

    2006年電通入社以来、国策事業・スマートシティーのプロデュース、先進技術・システム開発のコンサルティングなどに従事。インテレクチュアルプロパティーデザインを専門として、新規事業開発や国際標準化活動も推進。その他、コンピューターサイエンスや数理モデルに関する国際会議、講演、審査員、論文掲載多数。IEC国際標準化策定エキスパート、IWRIS最優秀論文賞など受賞歴多数。

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