現地レポート!カンヌライオンズ2013! #02

それは、世の中の何を解決しているか?

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    京井 良彦
    株式会社電通 ビジネス・クリエーション・センター  プランニング・ディレクター

早いもので、カンヌは4日間の前半戦が終了しました。前回も紹介した審査員のレジェンド軍団が指し示す方向性も、少しずつ見えてきたような…。
そう、これまでの授賞式で、評価されている施策なんかを見ていると、どんな部門でも共通している視点があるように思うわけです。
それはズバリ、その施策自体が「世の中の何かを解決しているか?」ということ。クライアントの課題じゃないですよ。もちろんそれは当然の上で、世の中の、です。
直接インタビューしたわけではないですが、授賞式でも何人かの審査員長からも、「Make the world better place!」というような言葉がありましたから、たぶん間違いないでしょう。

たとえば、前半の授賞式では、オーストラリアの鉄道「Metro Trains」の、事故防止を啓発するアニメソング「Dumb Ways to Die=マヌケな死に方」が、これでもかというくらい賞を獲得しまくりました。
とにかく、PR部門、ダイレクト部門、ラジオ部門の3つでグランプリを獲り、その他ゴールドなんかを合わせると、えーと、数えきれません。後半のフィルムなんかでも顔を出してきそうです。

アニメソングの内容は、いろんなマヌケな死に方を紹介していき、最後にもっともマヌケなのは電車にひかれて死ぬことだというオチがついているもの。グロいことをかわいく親しみやすい曲で仕立てたことで、爆発的に拡散したものです。会場でも近くのレストランでもこの曲を口ずさんでいる人がたくさんいました。そりゃあ、広まるわけです。

でも、曲が拡散したことが評価の本質ではありません。結果、事故によるケガと死亡が前年比21%も減ったのです。つまり、このアニソンが、世の中に対する解決策となって、実際に多くの人の命を救ったということなんですね。

他にも、モバイル部門でグランプリとなった、フィリピンの通信会社が実施した「Smart Communications」という施策がありました。フィリピンの子供たちは、遠い学校まで、毎日重い教科書を持ち運んでいるため、背骨が歪んでしまったりと深刻な状況に陥っていました。豊かな国ならば、電子端末を導入したりできるのでしょうが、フィリピンの経済状況だとそうはいきません。
そこで、学校側との協同で、携帯電話のSIMカードに教科書情報を読み込ませてデータ化。あちこちの家庭にころがっている使わなくなった携帯端末を活用して、電子教科書として普及していったというものです。子供たちの荷物は軽減され、成績や出席率も向上したとのことで、これも子供たちの健康と未来に貢献する、素晴らしい解決施策ですよね。

それから、プロモ&アクティベーションでグランプリを獲得したブラジルのサッカーチームによる「Immortal Fans=不滅のファン」という臓器ドナー登録促進キャンペーンがありました。
これは、臓器提供を受ける患者が、その後このチームのファンになることを約束するというもので、チームのサポーターたちは「自分の体の一部が永遠にファンであり続けるならば」と、5万人以上が鼻息荒く登録したといいます。
これも、ファンの心理をズバリとついたアイデアで、社会の大きな問題を解決し、多くの人の命を救うことになったわけです。

こんなふうに、もはやエージェンシーがクライアントの課題解決をするという次元の話ではなく、企業やブランド、そしてユーザーとも一緒になって、世の中の課題解決に取り組み、そのためのクリエイティビティを発揮していく、ということが求められています。
レジェンド審査員たちだけでなく、カンヌに参加しているほとんどの人たちは、「クリエイティブの力で世の中をもっと良くできる」と本気で考えているんだと思います。

ところで日本勢は、デザイン部門で気を吐きまくりました。電通を始め他のエージェンシーもゴールド獲得を連発。お祭り騒ぎとなっていました。
それにしても、なんでデザイン部門では、日本の施策がこんなに多く評価されるのでしょう。
もちろん、ここでも世の中の何かを解決しているものが求められていると思いますが、評価されている日本の施策は、どちらかというと日常のちょっとしたゆがみを解決しているものが多いような気がします。

で、僕の考えですが、やっぱり日本はいい国なんだと思います。
要するに、顕在化している大きな社会問題が少ない。だから、日本の誇るべきクリエイティビティは、他の部門で評価される社会的インパクトのあるものというよりは、日常の周辺課題の解決で数多く発揮していくことになるんだろうな、とそう考えたわけです。

というわけで、まだまだこれから後半戦。今年も「あっ」というような展開が待っているのでしょうか。ますます目が離せませんね。 ちなみに写真は、そのレジェンド審査員長たちがずらりと揃った授賞式の会場です。本当にスゴすぎる…。

プロフィール

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    京井 良彦
    株式会社電通 ビジネス・クリエーション・センター  プランニング・ディレクター

    1969年生まれ。大手銀行でのM&Aアドバイザーを経て、2001年電通入社。
    営業局でグローバルブランドや官公庁など多岐にわたるクライアントを担当し、現在はソーシャルメディアやデジタル領域を中心とする戦略プランニング、コミュニケーションデザイン、共創マーケティングを手掛ける。東京都市大非常勤講師。著書に『ロングエンゲージメント』(あさ出版)、『つなげる広告』(アスキー新書)などがある。

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