コミュニケーション戦略の拡張性 #02

2020年とその先を見据えた戦略とは

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    谷 昭輝
    株式会社電通 CDC ストラテジックプランナー

東京オリンピック・パラリンピックの開催決定は、あらゆる企業にとって重要な意味を持っています。企業の社会的存在意義に対する注目が高まってきている時代の流れがあるからこそ、2020年を基点として捉えることで、長期的な戦略の再定義、再構築が迫られてくるからです。同時に、国・地域・人種・性別を問わず、さまざまな意味での多様性に、いやが応でも向き合わなければいけなくなります。その先の社会を見据えたブランド戦略と現状のギャップを埋めるためには、どうすればいいのでしょうか。

■東京オリンピック・パラリンピックの開催決定で変わる戦略

東京オリンピック・パラリンピックの開催が決定し、2020年という非常に分かりやすいマイルストーンができたことによって、経営トップの意識が変わり始めています。企業が2020年、さらにそれより先の未来に向けて、自分たちの会社に何ができるかを考え直す機運が高まっています。しかも、その内容は、単に新たなビジョンをつくりたいということではなく、「この日本をより良くしていくために、自分たちにできることをきちんと実行・実現していきたい」というものです。東京オリンピック・パラリンピックの開催を一つの転換点として捉え、企業活動を見直そうという動きが始まっています。

スピード感のある企業では、開催が決定した瞬間から、2020年に向けて自分たちが何をなすべきかを具体的に考え始めていたり、2020年、そしてその先の未来に向けてのロードマップを再構築するなど、すでに積極的な取り組みを始めています。そこまでの取り組みには至っていないにせよ、それぞれの企業が、2020年に向けて自分たちがどんなチャレンジをすべきか、ということを模索し始めているのは確かです。

いくつかのクライアント企業の方とお話をさせていただいて、たいへん素晴らしいと思ったのは、オリンピック・パラリンピックを単に商品を売るチャンスだとは考えていないという点です。2020年だけではなく、2020年以降も見据えたあるべき未来像をベースに、その先の社会をどうしていくべきか、それに向けて自分たちの事業をどう広げるか、あるいはどう変えるかを考えていらっしゃるクライアント企業の方が非常に多い。あらゆる企業が、戦略の再定義や再構築を始めているといっても過言ではありません。

その根底には「世界に誇れる日本にしたい」という強い「思い」があります。もちろん、さまざまなステークホルダーがいる中で、利益を上げることは大切ですが、一方で自分たちの会社は何のために存在しているのかというミッションやレゾンデートルを見つめ直し、これからの社会をより良いものにしていくために、何をするかということが「ぶれない軸」になっている。私たちも、その思いに応えるべく、電通の持つコミュニケーションの力で、クライアント企業の思いを世の中に伝えていく、もしくは、変革のお手伝いをしなければいけないという思いを新たにしています。

オリンピック・パラリンピック招致決定後の国民の意識調査の結果を見ていても、世界に対して日本のプレゼンスを高められるのではないかという期待感が高まっています。この期待感は、企業にとどまらず、国民全体が夢に向かう前向きな意識の高まりです。特に、よく耳にするのが「日本人らしさを取り戻したい」という思いです。ソーシャルメディアでの交流が進む一方で、人間同士のリアルな関わり合いが希薄になっている部分もあります。オリンピック・パラリンピックの開催は、もう一度日本人の優しさを取り戻し、国や地域、人種、性別を問わず多様性を認め合い、リスペクトできる社会に向かって一つになる力になるのではないか、と思っています。

■先を見据えてブランドの再構築を実行する

ただし、私は「オリンピック・パラリンピックの東京招致が成功してよかった」というお祭り気分は、すぐに収束するとみています。開催決定によって大きなマイルストーンが見えたということでしかないからです。そこに向けて再定義した企業ビジョンを実現するためには、現状とあるべき姿のギャップを認識し、アクションプランをきちんと構築していく必要があります。夢さえ描けば、社員が実体化してくれるということではないのですし、社会全体からの共感も得られません。

ビジョンや思いを実現していくためには、社員の皆さんに当事者意識を持っていただく必要があります。そのためには、ビジョンを「見える化」するだけでなく、社員の皆さん一人ひとりが、ビジョン実現をいかに「自分ゴト化」し、「実行」していくアクションを取るのか。広告などのアウターコミュニケーションにとどまらず、会社のビジョンと社員一人ひとりの行動のベクトルを一致させ、どのようなアクションを期待しているのかを伝え、コミットしていただくために、インナーコミュニケーションをコミュニケーション戦略の重要なテーマとして捉える必要がありますし、そのためにさまざまな活動体系をリデザインする必要があります。また、社員の皆さんがビジョンを実現する過程で生み出すアイデアや商品・サービスこそがアウターコミュニケーションを展開していくために有効活用できるのです。

明確なビジョンがつくられ提示される、社員の皆さんがその内容を自分ゴト化し実行化するためのアクションを取る、その結果新たなファクトが生み出されて、世の中へと発信されていく。好循環がつくられていくわけです。

2020年の東京オリンピック・パラリンピックは、私たち一般市民・社員にとって絶対に一つの大きな転換点になります。世の中もそうですし、社員一人ひとりを動かす大きな力を持つと思います。そして、2020年でその動きを終わらせてしまうのではなく、2020年以降の未来に向けて何をしていくべきなのか、一人ひとりが強い思いを持って行動することが大切だと思います。そういった意識を醸成するために、コミュニケーション戦略で考えていくべき範囲も、オリンピック・パラリンピックに向けて世の中を盛り上げていく、ということにとどまるべきではないと思っています。

私たち電通社員、そしてコミュニケーションの仕事に携わる多くの人が、よりよい社会を、世界に誇れる日本をつくることに、コミュニケーションの力で貢献することを考えながら取り組んでいければ、それは大きな力になると思います。
次回は、その一つの実例としてパラリンピックを取り上げたいと思います。

プロフィール

  • 095     049 404
    谷 昭輝
    株式会社電通 CDC ストラテジックプランナー

    大学卒業後、自動車会社に入社、企画業務を担当後、2007年 電通入社。
    様々な業界のブランド戦略開発、企業ブランディング、CI/VI開発などのコンサルティング・プランニングから、キャンペーン戦略の開発まで、幅広い業務を担当。多くのインナーコミュニケーション業務も担当。

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