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スポリューションNo.6

スポーツ×ハンディキャッパー
2020年東京パラリンピックで世界を変える!(前編)

2014/05/21

スポーツコンテンツをメディア枠と捉えるだけではなく、ソリューションとしても捉えることで、新しいビジネスチャンスを生み出す ことにトライしているソリューションユニット「SPOLUTION(スポリューション)」チーム。そのチームメンバーたちが、それぞれの視点から、これか らのスポーツ関連のビジネスチャンスについて、リレーコラム形式でご紹介します。

スポリューション

「スポリューション」チームメンバーの後藤啓介です。

今回のコラムでは、日本を代表する義足デザイナー・遠藤謙さんを迎えて、【スポーツ×ハンディキャッパー】と題した対談をお送りします。

私と遠藤さんとの出会いは2年前、彼が登壇したMIT(マサチューセッツ工科大)メディアラボのトークイベントでした。そのプレゼン内容がとても面白く、そのレセプションパーティーで早速ナンパ(笑)。意気投合し、彼の研究室に遊びに行かせてもらったり、今やいくつかのプロジェクトを一緒に進めさせてもらうまでになりました。

そんな遠藤さんに、義足やそれを取り巻く環境、そして、2020年東京パラリンピックの話をうかがいました。「2020年には、パラリンピックがオリンピックを超える!?」など、とても興味深い内容を聞くことができました。

 


遠藤 謙
ソニーコンピュータサイエンス研究所 アソシエイトリサーチャー
マサチューセッツ工科大学 (MIT)メディアラボバイオメカニクスグループで、人間の身体能力の解析や下腿義足の開発に従事。MIT D-Labで講師に就任し、途上国向けの義肢装具に関する講義を担当した。2012年にはMITが出版する科学雑誌「Technology Review」が選ぶ35才以下のイノベータ35人(TR35)にも選出されている。ロボット技術を用いた身体能力の拡張に関する研究に携わるほか、途上 国向けの義肢装具の開発、普及を目的としたD-Legの代表、途上国向けものづくりビジネスのワークショップやコンテストを主催するSee-Dの代表も務 める。また今年5月にはオリンピアン為末大氏らと株式会社Xiborgを設立、代表取締役に就任する。


後藤:まず、遠藤さんの研究内容を教えてください。

遠藤:ソニーコンピュータサイエンス研究所では主に3種類の義足を研究しています。

1つ目が、途上国向けの安価な義足。ただ安価なだけじゃなくて、現地の人が現地の材料、産業で作れるものです。現地で雇用が生まれ生活の質が上がるような、社会を巻き込んだ義足作りを目指しています。

2つ目がロボット義足。モーターやセンサーを付けて、健常者に近い歩行が再現できるものです。

3つ目は、競技用義足です。2020年をひとつの目標に、パラリンピックの記録がオリンピックを超えられるような、人類最速の走りを実現する義足を作りたいと思っています。

後藤:3つの義足について詳しく聞きたいのですが、まず、途上国における義足を取り巻く環境について教えてもらえますか。

遠藤:日本と同じクオリティーの義足を使いたいのですが、現地の人からすれば、とても高価なものなんです。途上国では、義足が必要な人って貧困層に属していることが多い。もともと生活に余裕のない人たちが足を失い、さらに生活が苦しくなるケースです。お金はないけど、義足が欲しい。しかし、生活のために義足より雇用が欲しい、というのが現状です。そういった義足だけでは解決できない社会問題を、義足作りを通して解決していくことが研究のメインテーマです。

後藤:先進国でスタンダードな義足は、部位や形状にもよるけど、数十万円かかると聞きました。その一方、日本には保険制度がある。

遠藤:そうなんです。やっぱり途上国で社会保険制度をつくることをトップダウンでできたら、本当は一番いいと思います。でも、僕のようなエンジニアがするアプローチではないと思って。
僕ができることは、現地のエンジニアと一緒にモノを作ること。そして、現地のスキルを向上させて、現地のエンジニアだけで作れるようにする。そうやって生活の質の向上につなげることが、僕のエンジニアリングの求めるアウトプットだと思っています。

後藤:すごいなあ。モノを作るだけでなくて、技術者の育成まで、なんですね。

遠藤氏

遠藤:はい。育成というか、僕の場合、手取り足取りではなく、作るというプロセスを一緒に踏み、僕がいなくても作れる下地をつくることを心掛けています。例えばインドでは、最初はそれこそ付きっきりで一緒にやっていたんですけどが、今やフィッティングや歩く実験まで、僕がいなくてもできるようになりました。

後藤:現地だけで回せるようになるにはどのくらいかかりました?1年ぐらい?

遠藤:いやいや、もっともっと。3年くらいかかりました。

後藤:なるほど。では、2つ目のロボット義足ですが、要は、人が人らしく動くための義足ですよね。これは障がい者だけの話じゃなくて、高齢者の方の歩行をサポートするための技術という側面もあるかと思います。そのへんを含め聞かせてもらえますか。

遠藤:はい。まず、歩行って、人間が座っている、寝ている以外に、一番割合の多いアクションだと思うんです。また、人間の筋肉や骨というのは、2足歩行に最適化されて作られたと思うぐらい良くできています。ゆえに、車輪を付けて移動することは、効率は良くても著しく生活の質を落とすことにつながります。なので、歩行を元通りに戻すような義足というのを目指しています。

後藤氏

後藤:うちの祖母も、歩くことが少しずつしんどくなって、だからどんどん歩かなくなって、歩かなくなったからこそ、いろんな症状が悪化していった。だから、電動の車いすとかではなくて、自分で歩く、自分で動くことをサポートする技術がとても重要だと思いました。高齢化社会を迎える日本では、必要不可欠な技術になるでしょうね。

遠藤:後藤さんは僕と日頃話をしているからよく分かると思うんですけれど、普通の方は、義足と高齢者の歩行ってなかなか結び付かないと思います。義足というのは、足がない人が着けるものだ、と。自分には関係ないもの、と考える高齢者の方も多い。でも、機能という面では、どちらも歩行っていう機能が失われている現象なんです。それを技術の力で歩けるようにする意味では、高齢者でも足がない人でも、それこそ健常者でも、僕にとってはなんら変わらないアプローチです。だから、義足を作ることは、人間の歩くという行為に対するテクノロジー開発だと思ってやっていますし、それがすごく大事な視点だと思っています。

後藤:そうですね。

遠藤:この後、パラリンピックのスポーツ義足の話で出そうと思っていたのですが、今度、Xiborg(サイボーグ)という会社を立ち上げます。400mハードラーの為末大さんやプロダクトデザイナーの杉原さんとやるんですけど、コンセプトは、障がい者のための義足を作る会社というより、障がい者、健常者の別なく、動く喜びを与えられるような会社にしたいと考えています。
というのも、ちょっと漠然とした話ですが、人間はなぜか動くことに喜びを感じると思うんですよね。歴史を振り返ると、動物や魚は自分の身に危険があるときに動くというシチュエーションが多かった一方、人間は知能が発達して、天敵というものがだんだんいなくなっていった。そのときに人間は何をしたかっていうと、自分の体を動かすことによってエンターテインメント性を求めるようになった。オリンピックなんてまさにそうですよね。だから古来から、人間は体を動かすことに本質的な喜びを感じると僕は思うんです。

後藤:おもしろい!やっぱり、自分の意思で自分の体を動かすことが大切ですね。話を戻して、高齢者向けの技術について教えてもらえますか。

遠藤:例えば、自分の筋肉が元通りになるようなデバイスを考えています。モーターで歩行をサポートするんですが、歩き慣れてくるにつれてどんどん出力がなくなっていって、最後は自分の力だけで歩けるようになるような。

後藤:電動アシスト自転車のイメージに近いのかな。出だしの負荷を電動で軽減してくれて、回ってきたら自走するっていう。

遠藤:そうそう。もう少し詳しく話すと、歩行で足が地面に着いた瞬間を検知して、当人の重心が義足に対してどこにあるかをセンサーで認識する。そして、蹴るタイミングでモーターが作動するというようなアプローチを僕はしています。
他にもいろんな研究があって、筋電を取ったり、脳波を使って何かをやろうっていう人もいます。難しいのは、人間は個体差が大きいこと。同じモーターで同じ出力じゃダメなんです。その個体差を埋めるようなテクノロジーが必要なんですね。

後藤:体を預けるっていう意味では、セグウェイ(電動立ち乗り二輪車)みたいなイメージですか?

遠藤:はい。あれも慣れてくると、体の一部っぽく感じてきますよね、きっと。それは、全体のデザインが身体と調和するインターフェースで作られているからなんです。だから、義足に関してもちゃんと作ってあげれば、力学的なインタラクションだけでも、体の一部なんじゃないかと思うぐらいにシームレスにできるようになると思うんですよね。

次回は、いよいよ2020年東京パラリンピックの話題へ。パラリンピックがオリンピックを超える!? 乞うご期待!

左から、後藤氏、遠藤氏

 


 
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スポーツコンテンツを、「メディア物件」として捉えるだけではなく、事業課題や、プロジェクト課題を解決するための「ソリューション」として捉え、企画する電通社内ユニットです。
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