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トップクリエーターが描く、

ラジオの魅力と可能性

2014/05/23

「広告」を切り口にさまざまな話題を提供するラジオ番組「澤本・権八 のすぐに終わりますから。」(TOKYO FM)が注目を集めている。そのパーソナリティーを務めるのが電通の澤本嘉光氏とシンガタの権八成裕氏、そして番組に準レギュラー的に参加している PARTYの中村洋基氏。番組収録時にスタジオを訪ね、今日的なラジオの魅力と可能性について聞いた。

「澤本・権八のすぐに終わりますから。」

TOKYO FM 金曜午後8時~同30分
http://www.facebook.com/suguowa

番組は4月からスタート。澤本、権八氏が何げなく始める掛け合いに、準レギュラー(だが毎回出演)の中村氏が絶妙に絡み、「広告」を切り口にしたバラエティートークを展開する。SNSとの連動に工夫を凝らし、出演者とリスナーが番組を一緒に盛り上げる、ラジオならではのパーソナルな世界の進化形を目指す。

フェイスブック(FB)ページでは、投稿されたものはなんでも「おたより」と見なされ、番組作りのネタと化す。ラジオでありながら収録風景を 毎回撮影し、“メーキング映像”をユーチューブにアップ。放送直前には予告編が、放送後にはハイライトがFB上で告知され、タイムリーに番組プロモーションが行われている。

秀逸なのは「Like公約」。「Like」(いいね!)が一定数に達したらこれをやります、と約束を掲げる。取材当日は 「Likeが600に達したら乃木坂46をゲストに」という公約を実行。澤本、権八氏がミュージックビデオを手掛けた縁で生駒里奈さんと西野七瀬さんの出 演がかなったが、その第一目的が「生駒ちゃんと中村さんの『似てる説』の検証」というのがいかにも“すぐおわ”的。検証結果はFBヘGO!

公約は他に、1200Likeで「あなたのお店(企業)のラジオCM、澤本権八がノーギャラで作ります」や1700Likeで「田中邦衛さんに似た、そのへんのおじさんをゲストにして放送」などが決まっているが、さらに番組では、「こんなことやってほしいぞ」「こんなことやれ」といったアイデアを絶賛募集中。

 

■「パーソナル」がラジオの魅力

──「澤本・権八のすぐに終わりますから。」(以下「すぐおわ」)を始めたきっかけを教えてください。

澤本:  「ACC CM FESTIVAL」のラジオCM部門で私が審査委員長を務め、権八君も審査員だったのですが、優秀作品が選ばれても、関係者以外の人たちが聴く機会がない。そこで、TOKYO FMの方に相談したら、受賞作品を紹介する番組が実現しまして。権八君と一緒にナビゲーターを務めたのですが、結構評判が良くて、今度はレギュラー番組をやりましょうという話になった。課題となるのはラジオと縁遠い人たちにどう聴かせるか。昔の人なら肌で知っている「ラジオってパーソナルで面白い」ということをどう伝えるかですね。幸い、「ラジコ」が普及し始めてタイミング的にもいい。まず、ラジオのリテラシーがない若者をいかに減らすかからスタートでしょう。

 

──番組が始まって、「ラジオの面白さ」を再認識しましたか?

澤本: テレビに比べたら、ラジオは気もラクだし、突っ込んだことも言える。番組では相当本音でしゃべっています。しゃべっている方も、かなりパーソナルになれる。そこがラジオの面白さですね。

 

──権八さんは、番組の面白さをどのように感じていますか?

権八 名作ラジオCMの制作者にご登場願い、制作秘話を通してラジオCMの魅力を伝えられるという点がまず一つ。それと、この番組の柱として、世の中のあらゆる話題を広告的な発想や切り口で話題にするという点ですね。森羅万象、全てを広告的なメカニズムやコミュニケーションに当てはめて考える。そんな面白さを伝えられたらいいと思っています。

■「ソーシャル」と絡むと何かが起きる

──中村さんは準レギュラー的に参加していますが、役どころは。

中村 「すぐおわ」には、興味・関心をそそるインタレスティングな面白さと、ちょっと変わった話題が飛び交うファニーな面白さがあります。私は、その「ファニー」の方に着目して、リスナーに球を投げるために、フェイスブック(FB)に情報を上げたりしています。私自身がゲストのクリエーターから聞きたいのは、広告という裏方芸の世界ですね。業界的にはすごい人なんだけど、ちょっと変なことを言う。そういう「人の面白さの片りん」をうまく引き出せたらなと。

──澤本さんは先ほど「パーソナル」というラジオの特性を挙げましたが、その方面にも突き詰める余地があると見ていますか?

澤本 大いにあると思います。今回は、ゲストの出演者たちは友達で回しているんですよ。「パーソナルもいいかげんにしろ」というくらい(笑)。でも、その話の中には、広告業界以外のリスナーが聞いても面白い話がいっぱいある。ラジオCMにしても、今までラジオと縁の薄かったクリエーターに、「放送する媒体として、音声だけで全国に伝えられる枠がある」「何をやってもいいよ」と仕事を依頼したら、今までのラジオ番組やCMとは全く違うものを作るかもしれない。もう一つ面白くなりそうなのは、「ソーシャル」とラジオが絡むと何ができるのか。その点、中村君は、番組の狙いや内容もよく理解しつつ、FBの活用にもとても詳しい。いろんな実験ができると思います。

──パーソナルな世界とソーシャルがどのように絡むのか。中村さんはどう考えますか?

中村 誤解を恐れず言うと、ラジオはある程度まで「楽屋オチ」が許される。まさにパーソナルな世界ですね。聴いている方も「こんな面白い話を聞いているのは俺だけだ」と、一人でほくそ笑んだりする。電波はマスに向けて流れているけれども、出来上がる世界はパーソナル。それがラジオの魅力ですね。最近、テレビ局の方から、「生放送でスマホと連動させて何かできないか」とよく聞かれます。でも生放送とソーシャルを絡めるならラジオの方がフランクにいろいろできるし、相性もいい。「すぐおわ」ではFBで公約を決めているんですが、「決まっちゃったんだから、やんなきゃいけない。どうしようかな」と、澤本さんと権八さんが悩むところもまたFBのネタになる。

──権八さんは、番組をやっていてどう感じていますか?

権八 台本もあってないようなものですし(笑)。そのとき思っていることを自由に話しています。欲を言うなら、いろんなクライアントさんにも、ラジオに参戦してきてもらえるといいですね。

■コンテンツとCMを一体として考える

──ラジオCMの今後の可能性についてご意見を。

澤本: クリエーターの表現の場ということでいえば、良いラジオCMを作れる可能性はいっぱい残っています。ただ現実的には、ラジオCMだけで商品の大ヒットにつながるということはなかなかない。とすると、単体で考えるのではなく、番組とワンセットで考えた方がいいのではないか。番組自体を人気コンテンツにして、そこで流れているCMが面白い、というのは「あり」でしょう。

中村 広告は基本的には嫌われ者ですからね。リスナーが「面白いものを聴きたい」と思って聴いていたら、その中にいつの間にかCMが埋め込まれていたという形であれば、抵抗感を持たれずに伝わりますよね。例えば、パーソナリティーがその日の番組のエンターテインメントな内容や文脈を加味して、その場でCMをやったらもっと面白くなりそうです。

権八 テレビだと影響力が大き過ぎて、どうしてもいろんな規制がある。でもラジオは一種ゲリラ的に新しいことにトライできそうじゃないですか。ヒットを飛ばしているクリエーターの皆さんがラジオに参入してきたら、これまでとは全く違うことが起きそうな気がする。

澤本: 例えばだけど、あるラジオ番組で中で流れるCMが面白くなきゃダメというルールを決めたとする。つまんないCMは流さない。その判断をするのは、僕らだと。そんなノリで番組を作ったら、CMはただの広告ではなくて、面白いコンテンツになります。リスナーが、「面白いラジオCMを聴きたいときはこの番組」と思ってくれるかもしれない。そもそも、ラジオCMの面白さというのは、アイデアと言葉のセンスで決まる。それは、クリエーターの基本的な才能です。だから、若いクリエーターは「ラジオCMで面白いものを作ること」をまずは目指してみてもいいんじゃないかと思います。


TOKYO FM 編成制作局 編成制作部長 宮野潤一 氏

ラジオ業界と新旧リスナーに“新しい面白がり方”を提供

TOKYO FM 編成制作局 編成制作部長 宮野潤一 氏

「ラジコ」やスマートデバイスの普及で、ラジオ界にも新しい機運が生まれています。
ラジオは、瞬間的に人気が出るテレビと違って、じわじわ盛り上げていくメディアです。澤本さんたちはその特性もよく分かっていて、仕掛けや仕組みのつくり方が非常にうまい。業界内外の人的ネットワークの使い方もさすがです。デジタルメディアも巧みに使う。「公約」を事前に告知する手法などは、発想がとてもラジオライクです。

実験性やチャレンジ性のあるアイデアや企画は、「ラジオで何かしでかそう」という熱が伝わってきて、とても痛快な印象を受けます。高い完成度より未完のまま進めた方が番組的には面白いですし、バズの広がり方はちゃんとイメージしている。ラジオ業界の人間には目からウロコです。

澤本さんにしても権八さんにしても、聞けば誰もが知っているCMを手掛けるヒットメーカー。普段表には出ない方々の話は、広告業界とは関係のない一般リスナーにとっても、新鮮で魅力的なコンテンツのはずです。従来の制作手法を良い意味で壊してくれて、われわれが気づかなかった方法論や新しい可能性も提示してくれる。ラジオ業界にとっても、新旧のラジオリスナー層にとっても、ラジオの“新しい面白がり方”を提供してもらっていると捉えています。

日本を代表するクリエーターたちに、ラジオの応援団長をやっていただき、ラジオといういい“遊び道具”を、ぜひフルに生かしていただきたいと思っています。


ラジオCMプロジェクトを促進

 

電通 ラジオテレビ局次長 松本卓哉 氏

信頼感を基にしたパーソナリティーとリスナーの深い結びつきなど、ラジオには独特の強みがあります。コミュニケーションビジネスの観点から言えば、こうしたポテンシャルをクライアントにどう理解してもらうかが課題です。番組では、ラジオの面白さを伝える一方、SNSの反応と連動する企画を進めたりしていて、そこで生まれる反響のありようは、大きな示唆を与えてくれます。
電通のラジオ部門ではラジオCMプロジェクトを推進中です。理解あるクリエーター、放送局や仲間と共に、ラジオのCMやコンテンツの開発、使い方の啓発を通し、リスナーやクライアント、広告関係者にラジオのポテンシャルを再認識してもらうべく取り組んでいます。