Communication Shiftについての往復書簡 #01

並河進(電通ソーシャル・ソリューション局)

⇔日下慶太(電通関西クリエーティブ局)

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    並河 進
    株式会社電通 ビジネス・クリエーション・センター ソーシャルデザイナー/クリエーティブ・ディレクター/コピーライター
  • 日下 慶太
    株式会社電通 マーケティング・クリエーティブセンター コピーライター

『Communication Shift 「モノを売る」から「社会をよくする」コミュニケーションへ』(羽鳥書店)は、これからの未来の広告のありかたを僕なりにまとめた本です。このたび、この本をベースにした企画を、ウェブ電通報で連載することになりました。
広告活動に対する問題意識、違和感、そして、その先にある未来を模索するような連載にしたいと思ったのですが、どういう形がよいか迷いました。普通に考えると、対談などになるのですが、電通広報の中島亜希さんから「往復書簡はどうでしょう?」という提案があり、ピンときました。
僕が、「この人にこの本を読んでほしい」と思った人へ手紙を書き、本といっしょに送ることで、この本にこめたものが、バトンのように、かたちを変えてつながっていくイメージがわいたのです。
ちょっと、というか、かなり恥ずかしい、僕と誰かの、客観性ゼロ、素のやりとりです。よければ、どうぞおつきあいください。

Communication_Shiftについての往復書簡_第1回並河進/日下慶太

第1回は、関西クリエーティブ局の日下慶太くんです。最初から、日下しかいない、と思っていました。お互い昔からよく知っていて、アドタイでの連載『Communication Shift』にも出てもらって、そして最近、文の里商店街ポスター展をはじめ、すごく面白い活動をしている彼が、いま考えていることを知りたいと思ったのです。

   

日下へ。
日下が東京に来ていた数年前、いっしょにたくさん仕事をした。
そして、当時の僕は、とても「もがいて」いた。

あるとき、途中からまっ白なページが続く企画書を書いたこともあった。
何を書いても、自分の気持ちに届かなくて、もはや言葉にできない、と思ったからだ。

「本当に大事なことだけを伝えたい」という自分の気持ちにできるだけ忠実になろうとすると、なぜか、当然のように、おかしなことになる、という日々だった。

そういう僕のやりかたを、いつも日下は「最高です」と喜んでいる(ように僕には見えた)。

日下は不器用で、嘘が苦手で、繊細で、あぶなっかしい感じもあった。
本当に大切なことに気づいて、その通り、行動しようとすると、おかしなことになる。
そうしようとしているように見えたから、かもしれない。
それから、日下は、TCC最高新人賞を獲って、「きっとコピーライターとして、活躍していくんだろう」と僕はぼんやり思った。
 
その後、大阪に帰って、東日本大震災の後、セルフ祭という祭りをはじめたことを知った。
 「セルフ祭」*1という不思議な響きにひかれて、僕は、Communication Shiftの対談の一環として、大阪に行った。その祭りは、みんなが勝手に考えたものを持ち寄ってつくるお祭りだった。セルフ神輿に、セルフパレード・・・。ターバンをまいてサングラスをした日下の両隣にはイギリスの兵隊さんの格好をした男たちが敬礼していた。会社の後輩だった。
 
そ のときに日下から聞いたのが、「わらじクリエーター」の話だった。あるおばあちゃんが、毎日わらじを編んでいて、でも、誰もあげる人がいなかったんだけ ど、そのおばあちゃんが、セルフ祭に参加したら、わらじがめちゃくちゃ売れて、おばあちゃんもすごくうれしそうで、もうそのおばあちゃんはわらじクリエー ターだ、って日下が思ったという話だった。
 
いい話だった。
そのおばあちゃんの思いは「本当」だ。
 
でも、当時、日下が、若手コピーライターとアートディレクターの研修もかねて、街の活性化のための「文の里商店街ポスター展」*2をはじめたときは、実は、そんなにピンと来なかったのだ。
そ れは、どういう「本当のこと」がそこにあるんだろう、と。でも、実際、街の活性化につながっているということを知って、最近、ポスター展のことを詳しく調 べてみて、「どんなポスターでもいい、そして、そのポスターがどんなポスターだったとしても、とにかく貼らせてもらう」というルールが、実は素晴らしいん だと気づいた。
「店側と一切調整しない」。だから、「制作者の本当の気持ちがそこにはある」。
ポスター展を見ているとき、みんなが見ているのは、店長の意図を聞かずに、そのポスターをつくった人の存在であり、その「本当」にみんな惹かれているのだと思う。
そして、結果、このポスター展は、多くの人たちを集め、商店街の人たちにもとても喜ばれている。

一度、ふたりで広告と嘘について話したことを覚えてますか?
広告は「本当のことを言う」とは、どんどん思われなくなってきている。
だから、広告が「本当のことを言う」って思われるために、僕らは考えなくちゃいけない。
ふたりでそう話したことを。
 
あのポスター展は、日下が出したその答えだったということに、最近、やっと気づいた。

宣伝会議のウェブサイト「アドタイ」での連載『Communication Shift』では日下に出てもらったのに、新刊の『Communication Shift』には日下との対談部分を使わなくて、そのことをずっとすまないと思っていた。
 
それは、ひとつには、日下の活動、主に、セルフ祭の活動が広告とかけはなれすぎていたから。
そして、もうひとつには、なんていうか、身内な感じがあって気が引けちゃった、というのもある。

ああ、今もういちど、今の日下とじっくり話して、この『Communication Shift』の本に入れたかったなあと思う。
 
この本に書き足すとしたら、日下は、何を書き足すだろう。

本当に大切なことに気づいて、だからこそ、おかしな行動をして、その結果、何を感じ、何を得て、何を今見ているか。
 
教えてください。

2014.4.5 並河進

   

 

     

やいやいナミさん。
どうしてぼくとの対談を『Communication Shift』に入れなかったんだよ。
ぼくの活動がいちばんコミュニケーションをシフトしてたのに。
広告とかけ離れすぎたから・・・
そんな理由こそがコミュニケーションがシフトできてない理由だよ。

だいたいナミさんはいろいろ背負いすぎてるんだよ、
もっ と自分が楽しめること、ゲラゲラ笑えること、やりたいことをやればいいのに、それをソーシャルとか、広告とか背負っちゃって、広告聖人みたいなことになっ ちゃってるからさー、もっと楽になればいいんだよ、法衣を脱いで、会議室で少女マンガ書いてたみたいに、もっと自分の好きにすればいいんだよ。

と、やりきれない思いをとりあえずぶつけておく。
そう、ナミさんの文章にもあったけど、ぼくは嘘が苦手。
嘘をつくのも苦手だけど、嘘をつかれるのがもっと苦手。
で、ぼくは嘘を見破るのがとても早い。
(サリンジャーのゾーイぐらい早いと思う)
で、嘘をつかれてる、というのがわかると冷めちゃってなにもできなくなる。
だから、ずっと、広告に冷めていた。

でも、広告の中で嘘をつかない人と仕事するのはとても楽しかった。
それがナミさんだったな。だからぼくにこういう質問をしたんだろうな。

「本当に大切なことに気づいて、
だからこそ、おかしな行動をして、
その結果、何を感じ、何を得て、何を今見ているか」

ぼくの気づいている本当のこと。
それはぼくにとって「広告はおもしろくない」ということ。
もうずいぶん、広告がぼくの心を打たなくなってしまった。
ACCとかカンヌとか、業界でおもしろいとされているものでさえも。
内戦中のアフガニスタンとか震災とかを経験して醒めちゃったのもある。
牛乳さえない国もあるのに、どうしてモノをたくさん売らなくちゃいけないのだろう。
資源が枯渇しつつあるのになんで、ぼくたちまだ大量消費を煽ってるんだろ、って。

1本のCMより、1本の短編小説の方がおもしろいし、
1本の映像よりも、高校生がつくったYouTubeの映像の方がおもしろい。
広告とちまたのコンテンツがぼくはどうしても線引きできなかった。

で、このまま自分が広告作ってたら、おもろない人間になってまう。
そんな危機感がぼくを動かしてる。
おもしろ筋を鍛えとかなと、6年ぐらいずっと写真ブログを続けていて、それが、いろんなことを生んでいったと思う。

都築響一さんのところで連載をしたり、セルフ祭というアホ祭りをしたり。

セルフ祭はおもしろかった。
表現に嘘がない。
クオリティの差はいろいろあるけど、みんな「表現したい」という気持ちにあふれてる。

いわゆる、1stアルバムの衝撃ってやつ。
無名のアルバムの1stアルバムの方が、ボブ・ディランの16枚目よりおもしろかったりする、それ。

わらじクリエーターのおばあちゃんも、はじめて「わらじというアルバム」を世に出したそのパワーがよかった。

広告は、それが欠けてる。
「表現したい」という気持ちが削られてなくなってる。
だいたい、大人たちは「広告は自分の作品じゃなくて、クライアントの作品」とかいうんだけど、その「自分の作品じゃない感じ」が蔓延してて、広告をつまらなくしてる。
だってさ、クリエーターっていうぐらいだったら、これは自分の作品と胸はっていう気概ないとだめだよね。
(CREATOR というのは畏れ多くも神と同義語だ)

で、そんな「表現したい」という力を上手に使ったのが『商店街ポスター展』。
ぼくは若手の教育を担当してて、で、なんかいいネタないかなあって考えてたときに、ちょうど、セルフ祭をしてたから、商店街のそれぞれのポスターをつくろう、っておもった。

関西支社の若手は元気がなくて、チャンスのある仕事も少ないし、なんだかぼわーんと閉塞感がただよってた。
そこをぶち壊したかった。(まあ、東京にも違った種類の閉塞感はあったけど)
「もう、おまえら好きに表現せえ、下ネタでもええわ、自分の作品とかでもええわ」って。
で、好きに表現できる土台はちゃんと作った。

お店の人に、ぼくらの好きに作らしてもらうことと、プレゼンとかそういった確認行為はすっとばすこと。

それが成功した秘訣なのかもしれないな。
みんなの「おもろいものつくりたいねん」というものすごい欲求が商店街ではじけた。
表現に本当のことがあったんじゃなくて、欲求が本当だった。
みんな“表現の”欲求不満なのね。

この商店街ポスター展はかなりあたった。
マスコミがたくさん取材にきたし、広告賞もたくさんとった。
タレントも1人もいないし、お金もぜんぜん使ってないのに。
で、その時おもった。

あっ、広告っておもしろいんだ、って。

みんな楽しそうに広告みてるんだもん。
それはギャラリーで作品をみてるみたいにね。

ほんで、もうひとつ気づいたこと。
電通のコたちは優秀だわ。

このコたちがおもいっきり自分のしたいことを表現すれば、すごいものつくるな、と。

みんなが思い切り力を出せる器のようなものを作りたい、って思ってる。
クリエーティブだけじゃなくて、営業や、メディアや、ストラテジーや、そんないろんな人が思いっきり力を出せる場所、その力を調整やブレーキや気遣いなど後ろ向きにつかうんじゃなくて、おもいっきり前を向いて出せる場所を。

で、お前は思い切り表現してないのかって。
してます。してます。
ホームレスの格好してシャネルの香水をつけたり、
タリバーンの格好をして町を歩いて警察に怒られたり。
ぼくは、なんなんだろう、よくわからなくなってきた。

2014.5.13 日下慶太

追伸
実を言うとぼくの唯一の師匠と言える人はナミさんなんです。
決して企画の仕方やコピーを教えてもらったわけではない。
社会にいいことをしろと教わったわけではない。
ただ、働き方を教えてくれた。
お金とか組織の論理ではなく、自分の信念に従って働いていいんだ、ってね。

 

 

*1 セルフ祭
2012年5月、大阪市浪速区の新世界市場というさびれた商店街ではじまった、誰でも参加オッケー、何でもありの21世紀の奇祭!アート、趣味、特技…幅広い年代の人々が思い思いのパフォーマンスで祭りをつくりあげていく。大阪の大きなうねり。「己を祭れ」がスローガン。今年は9月13~15日に開催予定。中心メンバーは、コタケマン、ケイタタ(日下慶太)他。

*2 文の里商店街ポスター展
さびれた商店街をクリエーティブの力で盛り上げようという試み。商店街の各店舗のポスターを電通関西支社の社員がボランティアで制作した。新世界市場、第 2回は文の里商店街。それぞれ39名130点、60 名が200点を超えるポスターを制作。そのポスターのおもしろさと商店街再生という社会的意義から様々なメディアが取り上げ関西中心で話題になったが、ポスター展終了から半年ほど経つ今、なぜかネットで再びブレイクしている。

商店街ポスター展FACEBOOKページ:https://www.facebook.com/postar.t

プロフィール

  • 30
    並河 進
    株式会社電通 ビジネス・クリエーション・センター ソーシャルデザイナー/クリエーティブ・ディレクター/コピーライター

    1973年生まれ。
    電通ソーシャル・デザイン・エンジン代表。
    社会貢献と企業をつなぐソーシャル・プロジェクトを数多く手掛ける。「電通ギャルラボ」代表。ワールドシフト・ネットワーク・ジャパン・クリエーティブディレクター。上智大学大学院、東京工芸大学非常勤講師。受賞歴に、ACCシルバー、TCC新人賞、読売広告大賞など。著書に『下駄箱のラブレター』(ポプラ社)、『しろくまくんどうして?』(朝日新聞出版)、『ハッピーバースデイ 3.11』(飛鳥新社)、『Social Design 社会をちょっとよくするプロジェクトのつくりかた』(木楽舎)他。

  • 日下 慶太
    株式会社電通 マーケティング・クリエーティブセンター コピーライター

    1976年大阪生まれ。チベット、カシミール、アフガニスタンなど世界中を旅をして電通に入社。コピーライターとして勤務する傍ら、写真家、セルフ祭実行委員、UFOを呼ぶバンド「エンバーン」のリーダーとして活動している。『商店街ポスター展』を仕掛け、佐治敬三賞を受賞。他、東京コピーライターズクラブ最高新人賞、ゆきのまち幻想文学賞など受賞多数。また、都築響一氏編集「ROADSIDERS' weekly」でも写真家として執筆中。ツッコミたくなる風景ばかりを集めた『隙ある風景』日々更新中。http://keitata.blogspot.jp

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