コミュニケーション戦略の拡張性 #03

パラリンピックで試される

真のおもてなし

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    谷 昭輝
    株式会社電通 CDC ストラテジックプランナー

2020年に開催される東京オリンピック・パラリンピック。特にパラリンピックの開催については、これまで以上に国内外からの注目を集めており、日本社会にとっての意味は非常に大きい。私たち日本人は、このパラリンピックを大きな視点でとらえ、真のバリアフリー社会実現に向けた力に変えていかなければならない。
コミュニケーションのチカラを駆使して、東京オリンピック・パラリンピックの成功にとどまらず、2020年以降も世界に誇れる日本の未来をどうつくるかにチャレンジする。

■東京オリンピック・パラリンピック開催で日本の弱点がさらされる?

2020年のオリンピック・パラリンピックが東京に決定し、日本全体がそこに向かって進み始めました。しかし、日本が現在置かれている状況と、2020年に実現すべき未来像との間には大きなギャップがあります。特に、オリンピックと同時開催されるパラリンピックが、非常に重要な意味を持っていると強く感じています。

日本は、これまでどうしてもハードの部分をどう整備していくかに視線が行きがちでした。
しかし、これからパラリンピックに向けて準備を進めていく中で、ソフト面の弱さが顕在化してくるはずです。私自身、多くのパラリンピアンや関係者の方々とお話をさせていただく中で初めて気づく点が多いです。

たとえば、バリアフリー化といっても、点字ブロックやスロープを作るといったハードの部分と、お声がけする、お手伝いをする、といった小さなサポートも含めたソフトの部分があります。

これまで日本では、ハードのバリアフリー化を進めるだけで終わってしまっている部分がありました。しかし、パラリンピアンの方々が異口同音におっしゃるのは「心のバリアフリー化」をどう進めるか、そして「真のバリアフリー社会をいかに実現するか」ということです。私自身がリアルに体感したことでいうと、視覚にハンディキャップがある方に「右側にいます」と声を掛ければ、私の肩に手をかけてくださり、普通に一緒に歩くことができるのです。しかし、そのように接すればいいことをほとんどの人は知らないわけです。

パラリンピックのような大規模なパラ・スポーツの祭典開催時には、さまざまなハンディキャップを持ち、カルチャーも違う数多くの方が日本を訪れます。
私は、今のままでは、その方たちをもてなし、日本の良さを伝えることができないのではないかという危機意識を持っています。しかし、あと6年という期限が切られたことで、逆にやるべきことが明確になってきました。目指すべき状態からバックキャスティングして、開催までに、さまざまなダイバーシティーを受け入れる社会的な素地をつくる必要があります。
そのために、コミュニケーションのチカラを駆使してやらなければならないことがたくさんあるはずです。

2012年のロンドン大会の場合も、大会前のロンドンは、ハンディキャップを持っていらっしゃる方々にとって暮らしやすい、あるいは移動しやすい街ではありませんでした。
開催が決まってから、バリアフリー化のプログラムが展開されたのですが、単に車椅子用のスロープを作るといったハードの側面だけではなく、みんなが多様性を認め合い、手を差し伸べ、支え合う社会にしようという意識に変わったそうです。
また、さまざまな企業による活動の展開によって、パラリンピックの競技をスポーツとして捉え、トップアスリートとしてのリスペクトを持って見るようになった、結果として、会場が連日満員になりました。ロンドンにできて、日本にできないはずがありません。

■Superhumansという言葉の意味

ロンドンパラリンピックでは、イギリスのチャンネル4というテレビ局が放映権を取得しました。そのとき、「disable(障がい)」という言葉を一切使わず、「Meet the Superhumans」という表現を用いたコミュニケーションを行いました。
つまり、彼らは自らの障がいを乗り越え、さらにそこからもう一度前に向かって進む強さを持った人たちであり、さらに肉体の限界に挑戦している=超人である、ということを表現しているのです。
さらに、パラリンピックの競技の認知を向上するためにさまざまなコミュニケーションが展開されました。サッカーで世界的に有名なベッカム選手がブラインドサッカーを体験する、という映像もその一つだと思います。

私も、パラリンピアンの方々の競技を実際に見たり、お話をしたりする中で、彼らの心の強さ、身体の強さをひしひしと感じております。競技に向き合う姿勢、自らの肉体の限界に挑戦するトレーニングなど、本当にリスペクトすべきことばかりです。
先日も車椅子バスケットボールの大会を観戦し、さらに体験クリニックにも参加しました。
実際に車椅子に乗り、車椅子バスケットボールを体験するといった機会は、さまざまなことを気づかせてくれます。
また、横浜で開催されたパラトライアスロンも、心を動かされるものがありました。
こういった観戦の機会を身近にし、増やし、さらに一緒に体験してみることも非常に重要なことだと思います。

■コミュニケーションのチカラを“拡張”し、社会の意識を変える

谷昭輝

私たちは東日本大震災で、それまで失いかけていた優しさや、みんなで手を差し伸べ合うことの大切さに気がつきました。それが、時間を経るごとに風化し始めてしまう。
東京でパラリンピックが開催されることを一つのきっかけに、もう一回、本当に大切なことに気づくことができる。みんなで手を差し伸べ合うことが自然にできる優しさを持つ、これこそが「真のおもてなし」ではないでしょうか。

私も、日本に対する社会的な印象やイメージを変え、人々の意識を変えることに向かって、コミュニケーションのチカラを駆使して挑戦するつもりです。ストラテジーの持つチカラも、クリエーティブの持つチカラも活用し、その思いをクライアント企業と共有し、2020年、さらにその先も続く日本という国を、より良い社会にしていきたいと思っています。

これまで、電通が100年かけて培ってきたコミュニケーションのチカラを、狭義の広告の中でしか伝えていなかったというのは、もちろんわれわれの責任だと思います。
電通は今、さまざまな領域で多くの挑戦をしています。領域の“拡張”にチャレンジする段階に来ているのです。
パラリンピックを一つのきっかけとして、われわれの培ってきたコミュニケーションのチカラを使い、この日本で「Meet the Superhumans」と言えるようになるために、さらには社会的なイメージや印象の変化をこの日本で実現するために、ロンドン大会以上の盛り上がりを実現したいと思っています。

2020年、そしてその先の未来に向けて、コミュニケーションの仕事に携わる人が新しい分野に挑戦し、可能性を切り開くことによって世の中の意識が変えられるはずです。
コミュニケーションの仕事の中で培ってきたことを生かして、その可能性を広げていくことが大切なんだと思います。

プロフィール

  • 095     049 404
    谷 昭輝
    株式会社電通 CDC ストラテジックプランナー

    大学卒業後、自動車会社に入社、企画業務を担当後、2007年 電通入社。
    様々な業界のブランド戦略開発、企業ブランディング、CI/VI開発などのコンサルティング・プランニングから、キャンペーン戦略の開発まで、幅広い業務を担当。多くのインナーコミュニケーション業務も担当。

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