人もペットもうれしい社会を。 #02

セッション#1-1

『いぬのきもち』創刊のきっかけと、現在

  • 伊藤 正明
    株式会社ベネッセコーポレーション
  •            r
    明石 英子
    株式会社電通 ビジネス・クリエーション・センター

新しいペット産業をつくり出すために、電通とベネッセコーポレーションが立ち上げた異業種参加型のコンソーシアムDesign with Pet Project。ペット産業に秘められた多くの可能性を探るべく、今回はベネッセコーポレーションの『いぬのきもち』『ねこのきもち』創刊責任者である伊藤正明さんと、電通でペットに関する社内専門チームThink Pet Projectを立ち上げた明石英子さんが語り合いました。

家族の“絆”を深める存在

明石:伊藤さんが『いぬのきもち』を立ち上げられたのが12年前。『ねこのきもち』は9年前ですね。私も大好きでよく読んでいるのですが、まずは創刊の経緯を教えていただけますか?

伊藤:当時、私は「家族は社会の最小単位だから、家族が仲良くなれば社会ももっと優しくなれるはず」と考えていて、家族の絆が深まるような事業をたくさん生み出したいと思っていました。そのためにどんなアプローチができるかを模索していた時に、パッと思い浮かんだのがペット分野でした。

明石:どうしてペットだと思ったのですか?

伊藤:新聞の記事からのひらめきです(笑)。はじめは本当に思いつきで。そこから既存のデータを調べてみると、犬や猫を飼っている家庭の子どもは命に優しくなるとか、家族のコミュニケーションが向上するといった調査結果が出ていたのです。さらに、気になって図書館で(当時ネットはまだまだの状況でしたので)ペット業界について調べてみると、市場規模としては1兆円以上もあるのに、情報はそれに応えられていないと思えた。その当時、私は「ニッチマス戦略」といって、分野はニッチだけど市場が大きいものに着目していたので、そこで思いつきが確信に変わりました。それで、徹夜で企画書を作り上げて(笑)。

明石:すごい勢いですね(笑)。それまでにベネッセさんではペットに関する事業を手がけていなかったと思うのですが、周囲の反応はいかがでしたか?

伊藤:最初に役員会議で企画を出した時は、みなさんほぼ反対でした。無理ないですよね、教育の会社ですから。今ほどペット産業が市民権を得ていなかった時代ですし。でもペットと家族に関する様々なデータを集めて、動物と触れ合っていると子どもの犯罪率が減ることがアメリカでデータ化されていたことや、命の大切さを学べることなどを力説しているうちに、当時の福武社長が「面白そうだからやってみれば?」と言ってくれたのです。懐が深いなと、うれしかったですね。

明石:結果的に大成功でしたよね。Think Pet Projectチームで「ペットに関するメディア」についての認知度調査をした時も、『いぬのきもち』『ねこのきもち』はペットオーナーからの認知度は競合がいないほど圧倒的でした。

伊藤:創刊時から反響はとても大きかったですよ。直販で始めたのですが、毎日問い合わせの電話が鳴りっぱなしで、3日間かけ続けてやっとつながった方から「『いぬのきもち』もいいけど、おれの気持ちも考えてくれ」と言われてしまったことも(笑)。それだけ潜在的なニーズは大きかったということですよね。

明石:書店売りではなく直販の形態を採用したことには、どのような意図があったのですか?

伊藤:ひとつに、読者の方にペットのことを継続的に見ていただきたいという思いがありました。「いのち」に関わることなので、しつけや健康管理といった機能的な情報を部分的に知るだけではなく、社会的な側面も含めて理解を深めてほしいと願ったのです。ですから、代々、私たちスタッフ自身も愛玩動物飼養管理士の資格を必ず取っています。あとは、マーケティングの要因もありました。たとえば『サンキュ!』などの生活情報誌は書店で手に取りやすいメーンの場所に置いてもらえることが多いのですが、ペット関係の本は奥の棚に置かれる可能性が高い。それならば、ベネッセが持っているシステムとノウハウを生かして直販で展開した方が皆さまの手に届くと考えたのです。創刊当初、書店さんから「扱えないのですか」とお叱りを受けましたが。

番犬としての役割から、家族のより近くへ

明石:創刊から10年以上がたちますが、ペット産業に携わってきた中で何か変化を感じることはありますか?

伊藤:「ペット=家族のコミュニケーションに大切な存在」という認識が、社会的にも浸透してきたと思います。映画やテレビドラマでも最近は、以前のように人を助ける存在として描かれるのではなく、家族としての心のつながりを描くことが多いですよね。その背景には、戸建てよりもマンションが増えて「番犬」としての役割が薄れたことや、一世帯あたりの構成人数が減ったことなど、様々な要因が考えられます。

明石:飼っている人にとっては以前から「家族」という認識はあったと思うのですが、飼っていなくてもその気持ちを理解してくれる人が増えました。入社当時、ペットの具合が悪い時に上司からの飲みの誘いを断ったら周囲から大ひんしゅくを買ったのですが、今なら許してもらえる気がする(笑)。もちろん、飼っていない人のうち2~3割は動物が嫌いともいわれているので、それらを考慮した上でどのように共生していくかを考えなくてはなりませんが、それでも社会的に認められてきたという実感はあります。

伊藤:共生という点で考えると、日本人は昔から自然や「いのち」に寄り添う民族です。国土の3分の2が森林で動物もたくさんすんでいる中で、石や木、オオカミや熊などの動物を尊んだりするなど、自然と対立せずに共生してきた。だから、ペットとの親和性は比較的高い民族だと私は思います。

明石:ペットの家族化がここまで浸透して社会的にも認められた背景には、そういった民族的な相性の良さも関係があるかもしれませんね。次回はペット産業が秘めている可能性と、今後必要になるサービスなどの可能性について、さらに話を続けたいと思います。

※対談後編は6/18(水)に更新予定です。

プロフィール

  • 伊藤 正明
    株式会社ベネッセコーポレーション

    事業アドバイザー
    『ESSE』(フジテレビ)、『サンキュ!』編集長を経て、『いぬのきもち』『ねこのきもち』など複数の新規事業を立ち上げたのち、ベネッセコーポレーション生活事業本部(雑誌、通販、ウェブサイト、食事宅配、地域活性化など)担当執行役員。現在フリーでペット事業や高齢化社会、生活関連のアドバイザー。

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    明石 英子
    株式会社電通 ビジネス・クリエーション・センター

    1991年電通入社。食品・飲料、化粧品、流通などの商品開発・マーケティング戦略等に携わる。
    2002年の身体障害者補助犬法の施行をきっかけに、日本における“人とペットの共生社会づくり”に関心を持ち、2011年、ペット産業の創造を目的とした社内横断プロジェクト「Think Pet Project」を立ち上げる。

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