スポーツというビジネス #01

多様化するスポーツマーケティングと

ビジネスチャンス

  • 坂牧 政彦
    株式会社電通 スポーツ局 2020東京オリンピック・パラリンピック室 マーケティング部長
 
一概にスポーツビジネスといっても、シューズやユニホームなどスポーツ用品を専門的に扱うメーカーからゴルフ場やフィットネスセンターなどのスポーツ施設、プロ野球やJリーグ、大相撲のような職業スポーツまで多種多様な業態がある。われわれ広告業界もさまざまな形でそれぞれの業界とかかわりを持っているが、今回は広告的な立場から、スポーツビジネス=スポーツマーケティングに特化して説明する。なお、学術的なスポーツマーケティングの研究に関しては多くの研究者や業界の先輩がまとめているので、本連載では、第1回に視聴型スポーツの歴史的変遷、第2回に参加型スポーツの隆盛、そして最終回に2020年東京オリンピック・パラリンピック(東京2020)におけるスポーツマーケティングの役割に関して、事例を中心に解説する。
 
東京五輪招致決定
 
Members of the Tokyo 2020 delegation jubilate after the announcement of the Olympic 2020 Host City at the125th IOC Session at the Hilton hotel in Buenos Aires, Argentina, 07 September 2013. 
[Photo: Arne Dedert/dpa]/出典:dpa/時事通信フォト
 
 

■スポーツマーケティングの始まりはSEEスポーツ

スポーツマーケティングを考えるとき、スポーツを視聴型(SEEスポーツ)と参加型(DOスポーツ)に分けると理解しやすい。プロ野球やJリーグが観客や視聴者をターゲットとしたSEEスポーツの代表格。市民マラソンが参加ランナーをターゲットとしたDOスポーツの代表格といえる。広告主から見ると、ターゲットへの関与の距離感が間接的(SEE)か直接的(DO)の違いがある。
1970年代後半にスポーツマーケティングという言葉が登場した当初はスポーツマーケティング=SEEスポーツの市場が中心だった。商品を販売する立場からすると、より広範なターゲットに直接的にアプローチできることがベストだが、イベントへの参加者をターゲットにするDOスポーツはどうしても参加人数に限界があるため、マスメディアを通じて発信されるSEEスポーツが効果効率的にも重視されてきた。最近になってランニングビジネスを中心としたDOスポーツ市場が急速に成長しているが、まずは、SEEスポーツを中心にスポーツマーケティングの変遷を簡単に振り返ってみる。

現代のように多チャンネル化が進み、視聴者も世界中から好きなスポーツを選択できる時代と違い、メディアも少なく娯楽が限定されていた時代からプロ野球、大相撲といったプロスポーツはエンターテインメントの中心で、まさにスポーツは見るスポーツだった。

1970年代初頭から、国内のプロゴルフトーナメント(JPGAツアー)が始まり、企業や放送局がホスト(主催者)となって大会を運営する形態が確立した。ジョン・マッケンロー、ジミー・コナーズ等の一流選手が出場するテニス大会も始まり、スーパースターのプレーを楽しむSEEスポーツにスポンサーの協賛金が集まるようになった。電通のスポーツビジネスの始まりも、まさにスポンサー主催型のSEEスポーツだった。スポンサーのスポーツイベントへの関与の方法は、①協賛金などの費用面でのサポート、②大会運営への支援(競技器具の無償提供のような大会支出を抑えるサポート)、③選手への支援(移動交通費、宿泊費など)、④広報サポート(大会告知など)が中心であり、今も大筋は変わらない。

20世紀後半になり、1991年世界陸上東京、1994年アジア大会広島、1998年長野冬季オリンピック・パラリンピック、2001年世界水泳福岡、2002年FIFAワールドカップとスポーツイベントが国際化、大型化する中で、開催資金の主要な収入源としてマーケティング収入の重要性が更に高まり、スポーツマーケティングの内容も多様化してくる。多チャンネル化時代の到来とともに、新たな収入源として放送権販売が注目され始めたのもこの頃からである。
スポンサーにとっての協賛メリットはといえば、①人気のあるスポーツ中継を通じて露出される広告看板、②選手等を広告に起用しての企業イメージの向上、③選手が身に着けるシューズなどの用具の露出を通じて商品ブランド力を高めるなどが挙げられる。
当然SEEスポーツがDOスポーツに与える影響も大きい。プロ野球選手やプロゴルフファーに憧れて野球やゴルフを始めた人も多く(私もその一人だが)、競技人口が多ければ、当然用具やウエアやゴルフ会員権といった周辺ビジネスも盛り上がる。Jリーグ開幕、FIFAワールドカップ開催によるサッカー人気の活性化は、SEEスポーツがDOスポーツに影響を与えた最大の成功例だといえる。日本人が大好きなオリンピックもまたSEEスポーツの代表格でDOスポーツに大きな影響を与えている。北島康介の活躍を見てスイミングスクールがいっぱいになるなどはその顕著な例だといえる。
ただし、限界もある。SEEスポーツを通じてDOスポーツの多様化が進む一方で、スポーツ人口そのものは増加していないのも現状で、DOスポーツの多様化はスポーツ競技の分散化を広げるだけで同じパイの中のシェアの食い合いであり、結果かつての巨大マーケットだった野球やゴルフの人口の減少につながっていることも事実だ。

そんな中、ここ数年で急成長を遂げている分野がランニングビジネスである。それはDOスポーツの参加者に直接関与していく市場であり、SNSなどのソーシャルメディアを通じて参加者個人が口コミメディアの中心になって発信していく新しい形のマーケティング価値をつくり出している。次回は、ランニング市場の驚異の成長に関して解説する。

(本連載は、『JAAA REPORTS』2014年6月号に掲載されたものをリライトしたものです)

プロフィール

  • 坂牧 政彦
    株式会社電通 スポーツ局 2020東京オリンピック・パラリンピック室 マーケティング部長

    1990年電通入社、スポーツ・文化事業局に配属。以後一貫してスポーツマーケティングの分野に従事し、世界体操選手権鯖江大会、大相撲地方巡業プロジェクト、スポーツスタジアムのネーミングライツ、東京マラソンなどのスポーツイベントに携わる。2013年11月、2020東京オリンピック・パラリンピック室 マーケティング部長。

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