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仕事の創り方を変えよう!No.6

森永真弓×廣田周作:自分で手を動かす人の仕事術

2014/06/26

近未来の予測もできないほど、変化の激しい今の時代。前例、慣習にならうのではなく、自ら社会の中に新しい役割、働き方を見つけていく必要があります。広告業界に限らず、そんな新しい働き方を見つけ、実践する方に電通プラットフォーム・ビジネス局の廣田周作さんが話を聞きに行きます。

工学部出身の経歴も生かし、ソーシャル上のデータから消費者ニーズ、情報拡散の流れなどを分析。さらにその知見をコミュニケーション活動、クリエーティブ開発に生かしてきた廣田周作さん。現在は電通の中で、「コミュニケーション・プランナー」という新たな仕事のスタイルを開拓しようとしています。そんな廣田さんが今回、対談相手に選んだのは、博報堂DYメディアパートナーズの森永真弓さん。廣田さんのクライアントからも「話が面白い」と評判の森永さんは、大学時代からサーバー構築やホームページ作成などを自ら楽しみ、手を動かしながらその魅力を体験してきました。今もソーシャルメディアを積極的に利用し、情報発信することで、仕事を生み出しています。電通と博報堂という日本を代表する広告会社に所属するふたりが、変わりつつある業界での働き方や、未来について語り合います。

Theme① 仕事と個人活動の結びつきについて

廣田:森永さんは、個人的にツイッターで情報発信されていますが、仕事と個人活動の結びつきについてどのように考えていますか。

森永:一番仕事に近いのはネット上で発信している人同士のつながりがあります。クライアント同士のつながりで「どこどこの代理店が使えねぇ」なんて愚痴が飛び交っている大変恐ろしい場にも仲間として入れてもらえたり。SNS内の秘密のグループのこともあるし、リアルで飲み屋でということもありますね。

業界の上の年代の方はそういう交ざり合いを見て驚かれることが多いですよね。世代が近くてネットの使い方やスタンスが似たもの同士の感覚で、分かり合える仲間だと思ってもらえていて、声をかけてもらえるのは良いことだと思います。

──広告会社の社員とクライアントという相対する仕事上の立ち位置以前に、人としてネット上のつながりを共有する「仲間」という感覚は新しい価値観といえるでしょう。

Theme② 至高の完成品を納品する「納品文化」から一緒に作り上げる「協働」へ

廣田:ちょっと上の世代の人たちには、独自のマーケティングの手法というものは絶対に外に漏らしてはいけないっていう考え方の人がいます。僕は、シェアできる部分はした方が情報が集まってくるという感覚です。守秘義務は当然守りながら、企画書や考え方をシェアすることで仕事が増えていく。

シェアの発想で仕事をしていると、大人数集まって、「ご提案さしあげます」みたいな今までの仕事の作り方から、個人的なつながりが仕事を生むように変わってきていると思います。

森永:世代というか、時代なのかもしれませんが、これまでの広告の仕事って「納品文化」だと私は捉えています。クライアント向けに完璧にカスタマイズされた極上の完成品を納品し、求められるのは完成品のクオリティーなんです。で、究極と至高の対決じゃないですけど(笑)、各広告会社の完成品には違いがあって、それがクライアント側の選択ポイントだったと思います。

最近は、まず世間一般共通のベータ版みたいなものがあって、その上に乗ってクライアントと一緒にその会社らしさを加えたり、少しずつ変えながら完成品にしていく、というよりは永遠に育て続けるという方が感覚に近いかもしれません。そして育てていく中で生まれた手法やデータなどの知見の中で、みんな共通認識として持っていた方が便利だなと思うものがあれば、「差別化項目」として囲い込まずに、外部にも共有してしまう。そうやって内部で知見をためつつ外部と情報交換しながら業界全体で伸びていきつつクライアントの案件をさらにより良くしていくという感覚もセットですかね。こういう仕事のやり方は、納品文化の人からは非難…というか分かり合えないままにらみ合いになったりしますけど。「納品するまでがお仕事」の人からすると、「納品してからの運用がお仕事です」の人って初期で手を抜いているように見えてるんですよね、多分。でもそうではなくて、最終的に最高のものにするために、初期段階でいじりすぎたり固めすぎたりせず、柔軟に状況に応じて方向転換できる状況と体制の提案なんです、ってことなんだけどなぁと…むつかしいですね。

廣田:提案のときにはホワイトボードを置いてクライアントさんと一緒に話し合いながらその場で作り上げていくこともあります。クライアントと広告会社というふうな線引きがしにくい仕事が増えている気がします。データの共有や、クライアントの社内体制が変わるタイミングに一緒に入って組織改変を手伝うとか、こういうのは納品文化に対して何て言うんでしょう。

森永:一緒に作っていく「協働」するっていう感じかもしれないですね。前職でITコンサルをやっていたときの考え方が役に立っているなぁと感じる場面が最近増えたんですよ。それは、「クライアントが言っていることが必ずしも本当に求めている要件だと思うな」というものです。クライアント担当者がシステムに詳しくない状態で「欲しい」と言っているものが、必ずしもその会社の悩みに応えるものかどうかは分からないんですよ。他にもっと良いものがあるかもしれないんです。なので、こちらがITコンサルが提供すべきことは、クライアントはどんなことで困っていてどんなものを必要としているのかをしっかり聞いて、理解し、それに対してプロとして最適の選択肢を提示する、そして使ってもらいながらさらに水面下で発生している問題を察知して改善し続けることが大事ということです。つまり、コンサルに求められる能力はヒアリングだという話です。

──森永さんは、クライアントの話を聞き、ニーズをヒアリングすることで最適な提案を行うことを「協働」のポイントに挙げました。また、納品文化と協働の違いを世代ではなく、時代で分けているのも興味深いところです。

Theme③ 「自分でやってみる」ことへのモチベーション

廣田:森永さんは個人的なプロジェクトもいっぱい持っていて、ご自身でLINEのスタンプの制作もトライされていますよね。そういうのはどういうモチベーションでやるんですか。

森永:プロジェクトというほど大層なものでは…単純にやってみたいなーって(笑)。ホームページも作ったし、スマホの着せ替えも作ったし…でもこれ、家でカゴ編んでますとかベランダ・ガーデニングしてますとかと自分の中では同じ扱いなんですよね。ただネットだと、さまざまなジャンルに先人がいることが見えるじゃないですか。彼らが楽しそうにしているのが、いいなぁ、楽しそうだな、仲間に入りたいな、じゃあまず自分でやってみて会話が通じるレベルになって、それから認められて対等に仲良くなりたいな、よしやろうっていう欲求もありますね。

廣田:代理店って、「代理」なので自分は手を動かさないとか、上位概念だけ作って、あとは人に任せることが多いと思われがちですけど、森永さんは手が動くのがすごいですね。

森永:うーん、私は頭悪いので…自分でやらないと分かるようにならないタイプだと思ってるんですよね。知識だけでもっともらしく語るの無理なんです。緊張してプルプル震えてきちゃう(笑)。そういう意味では広告会社の人としては才能がないのかも…というのは半分本気半分冗談だとしても、特にネット領域においては、クライアント側も自分自身で触って、運用して、分析して、生身の知見や経験も積んでいる中で、経験に基づかない薄っぺらい知識に基づいた発言ってすぐに化けの皮がはがれるんじゃないかなぁって。これはすごく恐ろしいことですよね。

廣田:実際に運用して、クライアント側にも知見のある中で、僕らがさらに価値を出すのは相当大変です。こちら側にクライアントを上回る知見と経験と面白い話がないと聞いてもらえない。隙がなくなってきています。

──森永さんの「その分野にいる人と対等に仲良くなりたい」という欲求が、実際に手を動かすことのモチベーションになっています。同時に、そうして手を動かすことによってはじめて仕事上でクライアントと対等に話ができる経験と知見が身についていきます。

Theme④ 坂本龍馬ではなく、勝海舟の立場が果たすべき役割

森永:最近のメディアや広告業界を幕末に例えて語ることをよく見かけるんですけど、不満として、「なぜみんな龍馬になりたがるのか」ということがあります。子どもの頃のレンジャーごっこでみんなレッドみたいな。フリーで活躍しながら若くして亡くなった龍馬を、いい年してフリーでもないあなたが何をとか…いやこれは失言ですね(笑)。

どちらかといえば、勝海舟とか山岡鉄舟とか、幕府の中にいて江戸城を開城した側が私のポジションじゃないかと捉えています。倒幕側というか、業界やコミュニケーションのあり方を変えようという私の仲間は既に外側にはいっぱいいます。既に龍馬だらけですよ(笑)。そういう同世代の龍馬的な人たちが世の中を変える行動を起こす流れの中で、内側から扉を開いてつなげる役割の人が必要になるはずなんですよ。それができるようになるためにも私はこのまま広告業界の総合広告会社の中ですべきことを積み上げるべきだと思っています。

廣田:つなぐという意味では、人間が共感できるのはプラスマイナス15歳まで、みたいな話があります。僕は今33歳なので、プラス15歳は48歳。会社でもけっこう偉い人のことはギリギリ想像でき、一方15歳下は大学生くらいまでになりますが、彼らの気持ちがギリギリ分かるということになります。

僕は小学生のときにファミコン、中学生でスーパーファミコンに触れて、勉強ではぎりぎり詰め込みの時代も経験していて、今のデジタルシフトとかデジタルデバイドのど真ん中の世代でもあるので、その辺りのカルチャーや知識をつなぐような仕事が多いのかなとは思います。
今日はありがとうございました。これからもよろしくお願いします。

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