ネットがもたらす新しい価値 #05

【立石諒×馬郡健 対談】
アスリートとインターネット(前編)

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    馬郡 健
    株式会社電通 デジタル・ビジネス局
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    立石 諒

【前編】アスリートにとってのインターネット、情報収集とは?

かつて慶應大日吉キャンパス切磋琢磨した2人のスイマー。一人はその後、ロンドンオリンピックの平泳ぎ200メートルの銅メダリストとなり、SNSを積極的に活用し情報収集・発信をしながら、アスリートとして活躍。もう一人はコミュニケーションビジネスの世界で、ソーシャルメディアのプロモーションなどを手がけるプロデューサーに。アスリートにとってのインターネットはいかなるもので、何をもたらしたのだろうか。競泳選手の立石諒選手と、電通・デジタルビジネス局の馬郡健氏の対談を前後編にわたってお届けします。

わずか10年で、情報収集の手法は劇的に変わった!

馬郡:ロンドンオリンピックから早2年。感動の200メートル平泳ぎで銅メダルを取ったのは大学4年の時でしたね。僕は今、大学の監督として競泳に関り続けているんですが、一方で広告会社のプロデューサーとしてデジタルの仕事をしている。そこで、今回は立石選手にとって、またアスリートにとってのインターネットというテーマでざっくばらんに語ってもらえればと思っています。

立石:分かりました。10歳も上の先輩を前にすると緊張しますね(笑)。僕は今、25歳、馬郡さんは35歳ですが、この10年間で、アスリートの情報収集や共有の手段・手法は大きく変わったはずです。僕自身は、競泳選手の中でもインターネットやSNSを積極的に活用しているほうですから、主に自分と周辺の話になりますが、何でもお聞きください。

馬郡:私が現役だった15年くらい前、日本選手権はNHKの放送を見るしかなかった。アメリカや欧州選手権の結果も、直接、現地で見るか1カ月後くらいに発行される専門誌を見るしかなかった。でも今は、日本選手権の予選はユーストリームで全部見られるし、海外の試合結果などもすぐにユーチューブに上がってきます。ライバルの結果や調子、ランキングがリアルタイムでわかると同時に、国内外のライバルたちがどこで、どういう練習をしているかもある程度分かると思うのです。立石選手は、それが当たり前だと思って育ってきたでしょうが、私からすると目覚ましい発展と変化です。そういう時代にあって、立石選手はどういうふうにインターネットやソーシャルメディアと接しているんですか。

立石:一つは予定の立案に使います。例えば、毎年最低でも1~2カ月は渡米して練習をするので、アメリカのコーチをはじめとする現地の人々とメールやSNSで質問やリクエストを交換します。自分の現状を把握した上で「こういう練習をやりたい」と事前に言うことで、若干の反映はしてくれます。もう一つは、練習方法を考えるに当たっての情報収集ですね。具体的には、新しいテクニックやトレーニング手法についてです。今世界でどういう練習がはやっているのか、自分には何が足りないのかなど、調べると情報がどんどん出てきます。文字に加えて写真やユーチューブなどの動画も含め、海外の選手や北島康介選手の泳ぎやトレーニング法を見たりしてどのテクニックが足りないのか、そういったことを調べています。

馬郡:情報収集は全部自力で能動的にやっているんですか? それとも高城直基コーチ(2010年から指導している)らとも相談するんですか。また知り得た情報をどのように取捨選択して生かしているのか、ぜひ聞きたいですね。

立石:情報収集については、五分五分でしょうか。能動的に調べることもあれば、普段ナショナルトレーニングセンターでトレーニングをしている関係で、高城コーチをはじめ日本代表クラスのコーチらから新しいトレーニング法を聞いてお互いに情報共有することもあります。ただし、自分に合う方法なのか、もちろん精査は必要です。

馬郡:立石選手は、結構若いときから自分の意見をしっかり持っている。自分で意見を持って考えるから、SNSやユーチューブの情報を集めてきて、それを咀嚼して自分のものにする力があるのでしょう。

集めた情報は実際に試し、合うものを残していく

立石:実際、情報収集では人任せのこともありますが、ただテクニックだけは、自分で見ないとどうしようもない。そのため、泳ぎの研究に関する映像はかなり見ていると思います。ですが、僕より多く情報を集めているマニアのような選手は周囲にもいて、そういう人がみんな速く泳げるかというと、そうとは限らない。マニアだけじゃ速くなれないんです。

馬郡:ナショナルトレーニングセンターではなく学校やスイミングクラブで練習していたとしても、自分で興味があれば、引っ張ってこられる情報が増えている。今後は、情報を賢く活用する選手だけが残っていく可能性がますます高まっていると思います。

立石:僕は昔から、テクニックに関してコーチから何か言われたことがあまりなくて、自由にやってきた。自律的にやっている分、コーチに言われたことを100パーセントやるというのは苦手です。そんな自分の性格やスタイルに、取捨選択ができるインターネットの情報は親和性があると感じます。

馬郡:実際、インターネットで世界とつながることによって、国内外の競泳のレベルは確実に上がったと思います。でも、レベルアップには、やはり情報の取捨選択が肝心なのでしょうね。

立石:いろいろなトレーニング方法が、インターネット経由で入ってきています。例えば(プール外の)陸上トレーニングの多様さでいったら、アメリカは日本の倍ぐらいあります。それらも、試してみないことには始まらないですからね。やってみて合うか合わないかは個人の問題で、もちろん身体能力の違いもあります。いずれにせよ、インターネットの情報は、競泳に限らず全競技にとってプラスに作用しているんじゃないかなと思います。

馬郡:技術面以外の、例えば体調管理や食事制限といった情報も集めているのですか。

立石:僕は、泳ぎに関しては、かなり論理的に考える方なんですが、私生活は逆。食事制限はしたくない(笑)。一度だけ、高校生のときに食事制限のようなことをやってみたんですが、食べたいものが食べられない、食べたくないのに食べなきゃいけない。それがストレスになって、できなかったんです。ですから、そういった情報には無頓着です。

馬郡:それも一つの取捨選択というわけですね。

立石:日々の食事や睡眠などについて、国内外の情報を大量に集めている選手もいます。けれど、例えば海外に行って計算通りに食べられるかといえば、足りない食材があったり、あってもすごくまずかったりということがある。僕自身は、日常生活から普通に、節度を持って食事をしていれば問題ないというスタンスです。取捨選択した情報も参考に、練習して自信さえつければ、試合で不安になることはないと思っています。

 

(後編につづく)

プロフィール

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    馬郡 健
    株式会社電通 デジタル・ビジネス局

    YouTubeなどを活用したソーシャルメディアプロモーションやARや画像認識技術を使った企画開発を手がける。その後、Facebook社との提携に参画し、公認ナビゲーションサイトFacebook naviやソーシャルを活用した地域活性プログラム「いいね!JAPANプロジェクト」を立ち上げる。また、母校である慶應義塾大学の體育會水泳部競泳部門監督も務める。

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    立石 諒

    競泳 ロンドン五輪200m 平泳ぎ銅メダリスト

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