マスター・オブ・イノベーションマネジメント #03

『イノベーションマネジメントとは③』 イノベーションという生き物と向き合う

  • 志村 彰洋
    株式会社電通 関西支社 マーケティングデザイン局

こんにちは。電通関西支社マーケティングデザイン局 コンサルティング部の志村彰洋です。第2回に続き、今回は、イノベーション・マネジメント・ツールを用いたネットワークによるイノベーションの実際の流れと、関連するトピックについてお話しします。

実施観点でのイノベーションマネジメントの全体フローは、Plan(計画) ⇒ Design(デザイン) ⇒ Mobilize(動員) ⇒ Launch(ローンチ) ⇒ Manage(管理)と5つに分かれており、Launch以外は第2回のIMO(イノベーション・マネジメント・オフィス)の役割の中で説明してきた通りです。今回は、主にLaunch(実際の創発活動)について、IMOの果たすべき具体的なポイントを見ていきましょう。

実施前に創発中の動きを読み切る

一般的なオンラインでの創発活動は、第1回で説明したイノベーション・マネジメント・ツール上で行います。イノベーション・マネジメント・ツールは、創発サイト(企業のイントラネット、内部や外部のポータルサイト)に、SNSのような体裁で構成されます。創発期間中、参加者はこの創発サイトにアイデアを投稿し、他者のアイデアを評価したり、自分のアイデアを修正したりしながら、ブラッシュアップしていきます。

創発サイト上には、アイデアを出しやすくするための参考資料や取り組みの主旨などを掲示し、アイデアの育成と共に、参加者の状況に合わせて内容を変えて行きます。このように、ユーザーにとってなじみ深く簡単な構成であり、アイデアのスクリーニングもマス・スクリーニング機能により自動で行われるので、操作上の難しさはありません。

しかしながら、イノベーションマネジメントについて日頃から様々なことを考えているIMOの担当者でも、社員一人一人のコンディションまで把握することはできません。どれだけ創発活動中のストーリーを事前に練っても、アイデアや人の動きは日々刻々と変わるものであり、事前の想定と全く違う状況に成り得ます。そうならないために、IMOは第2回でご紹介したように、様々な事を再帰的に決めて運営を行うのですが、それでも全てを読み切ることは困難です。

しかし、どのような母集団でも、ある程度の動きを読むための方法があります。それは、リワード(報酬)設計です。創発活動におけるリワードには、大きく「マネタリーリワード」「インナーリワード」「ソーシャルリワード」の3つがあります。

・マネタリーリワード:直接的な金銭にひも付くリワード(換金性のあるポイント、景品、割引クーポン、など)

・インナーリワード :個人の意識にひも付くリワード(自己実現、達成感に関連する事象、など)

・ソーシャルリワード:他者や社会とのやりとりにひも付くリワード(名誉、賞賛、社会的ステータス、など)

この3つのリワードは、創発期間中、時間経過と共に「マネタリーリワード」 ⇒ 「インナーリワード」 ⇒ 「ソーシャルリワード」の順で、参加者に響くリワードが推移していきます。

「マネタリーリワード」は、オープンイノベーションに参加する、日々忙しい社員の一番の疑問「何でそんな取り組みに参加しなくてはいけないの?」という課題にとてつもなく寄与し、創発活動に(ひとまず)多数の人間を参加させるには、最も効果的なリワードです。イノベーションマネジメントは、目安箱のような一過性の旧態依然とした取り組みとは違い、一度創発活動の場に入れば、3つのリワードにより創発活動の維持が可能です。つまり、通常のアイデアコンテストでの「マネタリーリワード」よりも戦略的な活用ができるのです。

例えば最初は○○がもらえる!のような「マネタリーリワード」で入ってきた参加者も、一回でもアイデアを投稿して他者からの反応を得ると、徐々に「インナーリワード」に求める価値がシフトしていきます。他者からの反応があればあるほど、「自分のアイデアを認められたい、よりしっかりとしたアイデアに書き直したい」というように気持ちが変わっていきます。IMOとしては、ここでアイデア評価を専門とするような人員をイノベーション・マネジメント・ツールに投入するなどして、「インナーリワード」を強化します。

そして、創発の終盤、アイデアの精度が上がって来ると、今度はアイデアをプロトタイピングして社会に問いたい、認めてもらいたいという「ソーシャルリワード」に意識が変化していきます。IMOは「あなたのアイデアが世間に出た際には…」という、魅力溢れる会社からのサポートなどの青写真を、しっかりと伝える必要があります。

このように、少なくとも3つのリワードの設定タイミングだけは、順序を間違えないようにストーリー設計して、なるべく実施前に参加者やアイデアの動きを読むことが重要です。

予測不能な行動をする参加者たち

創発活動中の全体ストーリーをコントロール出来たとしても、猛烈にのめり込んだ参加者の中には、イノベーションマネジメントをハックしてくる「イノベーションマネジメントハッカー」が存在します。ゲーミフィケーションの要素が強過ぎると、諸刃の剣になってしまうことがあります。

ここで言うハックとは、イノベーション・マネジメント・ツールの一部が、ステージゲート方式(※1)を採用しているため、次のステージへのクリア条件を推測し、推測した結果を別の参加者に公開することを意味します。

ハックの抑制に効果を発揮する方法が2つあります。1つは、権威ある人間(例えば社長)の参加および情報発信です。社長や上長が創発自体に参加しているとなれば、なかなか常軌を逸した行為は出来ないものです。

もう1つは、色々と推測される前に、取り組みの全体像を一枚絵で提示してしまうことです。皆さんお気付きのように、イノベーションマネジメントの取り組みは複雑なので、『一枚絵』という部分が重要で、欧米の企業はこの一枚絵の作成にとてつもなく気を使っていることが多いです。(実際に使われた実績がある一枚絵はもちろん出せないのですが)例えば、以下のようなイメージです。

実際、第2回で説明した、いけすからいけすへの、すり鉢のような構造自体を全体像として捉え、これを参加者に常に開示することによって、今自分がどの状態にあるかを認識してもらうこともできます。アイデアも人もイノベーションも生きているため、今の状態が分かることが大きな安心材料になるのです。

イノベーションと機会均等の関係性

予測不能なのは、アイデアオーナーの行動だけではありません。故意であろうとなかろうと、アイデアの中身とそのアイデアの投稿タイミングは、誰もコントロールできません。それにも関わらず、イノベーション・マネジメント・ツールの一番の強みであるマス・スクリーニング機能は、自動でアイデアがスクリーニングされていきます。こうした状況では、当然いくつかの問題が発生します。

よくあるのは、同じようなアイデアが別々のタイミングで投稿されるケースです。イノベーションマネジメントは、実施までフォローする手法であるため、同じような内容であれば投稿タイミングの前後より、アイデアに対するフォロー数(≒仲間の多さ)や賛同数が多い方に実施主体となってもらいます。これはよっぽどのことが無い限り、イノベーションは1人(少人数)では起こせないからです。そのような意味では、機会均等であることを前提としていないのです。

しかしながら、同じようなアイデアを先に考え付いていたアイデアオーナーの気持ちはどうでしょう。こんな時は、アイデアの統合を行います。運用上、創発活動を始める前に同じアイデアが投稿された時のルールを明確に示した上で(まずは、同じアイデアが無いか検索してから投稿するという大前提もルール化しておきます)、勝ち進んだアイデアのフォロワーに回っていただきます。もちろん、アイデアオーナー同士が合議の上、主従関係を決定しても良いですし、最初から主催者側の意向が強い場合は、ワイルドカード(※2)を設定しておくこともあります。こうすることで、結果的に同じ意思を持つ者同士を、アイデアを媒介として結合し、実施に向けてより強固な体制を自然な形で作っていきます。

もう1つのケースは、数十万の規模で創発している場合、ある瞬間に数十~数百のアイデアが投稿され、アイデアが埋もれてしまうケースです。そうすると、他者に評価をされる機会もないわけですから、先程のケースよりももっと不満が出てきます。そんな時はアイデアのペアワイズ評価機能の登場です。

ペアワイズ評価とは、今迄に投稿されている全アイデアからランダムで2つのアイデアが抽出され、A or Bの形で評価するものです。この機能を使うことで、たまたま大量の投稿が重なった時期に投稿されたアイデアを救いあげることが可能となります。アイデアに対して何かしらのアクション(この場合は評価)があれば、イノベーション・マネジメント・ツールは、そのアイデアを(画面の)最上位に表示することができるので、あとはその他の参加者の目にも自然に触れることになり、通常の評価活動の輪の中に入っていけます。

ペアワイズ評価画面のイメージ図

 

実際の創発期間中のユーザーは、予想もできない行為をたくさん行い、更に予想もし得ないアイデアがいくつも出てくるため、まさに「多様性を吸収した民意」は生き物だと言えます。IMOは、これらイノベーションのうねりを常に把握し、再帰的に実際の創発活動であるLaunchフェーズを乗り切っていくことになります。

次回以降は、今回までの概論から離れて、アイデアの棚卸やアイデアストレッチ手法、IMOをサポートする草の根サポーターの組成方法などの応用編と、アウター×インナーのネットワークによるイノベーション、より高度なスクリーニング手法などについても、トピックを分けてお話ししていきますので、ご期待ください。

(第4回以降に続く)

※1 ステージゲート方式:クリア条件が設定されたゲートを用いて、アイデアをいけす(ステージ)から次のいけす(ステージ)へとスクリーニングする方式

※2 ワイルドカード:通常の抽出フレームからではない特別枠のこと

プロフィール

  • 志村 彰洋
    株式会社電通 関西支社 マーケティングデザイン局

    2006年電通入社以来、国策事業・スマートシティーのプロデュース、先進技術・システム開発のコンサルティングなどに従事。インテレクチュアルプロパティーデザインを専門として、新規事業開発や国際標準化活動も推進。その他、コンピューターサイエンスや数理モデルに関する国際会議、講演、審査員、論文掲載多数。IEC国際標準化策定エキスパート、IWRIS最優秀論文賞など受賞歴多数。

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