Dentsu Design Talk #30

日本のアイデアは、世界と戦えるのか?今世紀の“アイデアの定義”

  •                           r
    レイ・ イナモト
    AKQA AKQAチーフ・クリエーティブ・オフィサー/ヴァイス・プレジデント
  • 岸 勇希
    株式会社電通 コミュニケーション・デザイン・センター エグゼクティブ・クリエーティブ・ディレクター

Design Talk Session第106回(2013年10月4日実施)は、AKQAヴァイス・プレジデント、チーフ・クリエーティブ・オフィサーのレイ・イナモト氏をニューヨークからお招きし、電通エグゼクティブ・クリエーティブ・ディレクターの岸勇希氏を相手に、広告会社のビジネスの本質を問う貴重なトークセッションが行われた。

レイ・イナモト氏
岸勇希氏

 

#80%のビジネスは、15年後には消えている

この日のトークでは、まず前半にイナモト氏が“The End of Advertising As We Know It”というタイトルでレクチャーを行い、それを受けて岸氏がイナモト氏に質問をする形でセッションが進行していった。レクチャー冒頭でイナモト氏は、「成功に基づいて仕事をしても、結局はそれを超えられない。人間という生き物は、失敗から学んだことの方が成功につながるのではないか」と話し、リーマン・ショック以降にその傾向は強まっていると述べた。続いて、アメリカン・エキスプレスの副社長の「80%のビジネスは、15年後には消えている」という発言と、1955年にあった世界上位500社のうち90%の会社は現在なくなっているという事実を紹介。中でもここ10~15年は、「デジタル化によって新しい企業やビジネスが構築される半面、デジタルというものはフィジカルなものをどんどんなくし、既存のビジネスを崩壊させてしまう恐ろしい面もあります」と述べた。

#あなたのビジネスが本当に何のビジネスであるかを常に考える

その実例として、紙の印刷を廃止しデジタルの発行だけになった『ニューズウィーク』誌、ストリーミング配信の普及で急激に店舗数が激減したビデオ・DVDレンタルチェーンのブロックバスター、経営破綻したレコード・CD販売会社のHMVやフィルム会社のコダックなどを挙げた。いずれもデジタル化の波で「思いもよらないところから飛び出すビジネスアイデアが、広告で築き上げる価値よりもはるかに速いスピードで既存ブランドを食いつぶす」という事実に注目すべきだとイナモト氏。そのような状況の中で重要なのは、「あなたのビジネスが本当に何のビジネスであるかを常に考える」ということ(1960年にマーケティングの足元を見ろと提唱したハーバード大学の元教授セオドア・レヴィットの言葉)。そして、突然会場で観客と共に記念撮影をしてフェイスブックにアップしたイナモト氏は、「写真を撮ることの人々の興味は50年前よりはるかに高まっているのに、コダックは倒産した。その失敗から分かるのは、イメージメーキングではなく、イメージをシェアすることがビジネスになるとコダックが気付かずに、フィルムビジネスから抜け出せなかったこと」と指摘。ひるがえって、広告というビジネスの本質が、「認識させることなのか、販売促進なのか、ブランド構築なのか。またメディアに依存していないか」と会場に問いかけた。

#失敗を恐れずに、常にポジティブに動いていくこと

さらに、「メディアに依存していたビジネスが変わるためには、新たなビジネスの発明が必要だ」とした上で、今後考えられる新しいビジネスが起こる変化のタイプとしてイナモト氏は、今までビジネスとされていたものが一般人のコミュニティーによって構築されていくという「ビジネス対コミュニティー」タイプ、従来は人間がやっていた作業がソフトに変わっていくことで新しいビジネスが構築されていく「人間対ソフトウエア」タイプ、アナログだったものがどんどんデジタルに変わることで起こる「物理的なもの対デジタルなもの」タイプの3つを挙げた。さらに自身の失敗例も紹介しながら、「失敗を恐れずに、ということも大事ですが、常にポジティブに動いていくことも大切」という持論を述べて、レクチャーを終えた。

#どう社会に貢献できるか、何がイノベーティブか

前半のイナモト氏のレクチャーを受けて岸氏は、「これからはプレゼンテーションからファシリテーションに、キャンペーンからプロジェクトという方向に、クライアントへ提案するというよりも、共ににつくっていくことが重要になっていくと思う」と感想を述べた。その上で、「その重要性、可能性をいかにしてクライアントに理解してもらい、共に変わっていくのか悩んでいる。AKQAではそこをどうアプローチをしているのか」とイナモト氏に質問。イナモト氏は「AKQAはものを制作してお金をもらうフィービジネスが基本のビジネスモデルなので、そもそも広告をつくっているという意識があまりない」とした上で、「こだわっているのは、どう社会に貢献できるか、そして、何がイノベーティブなのかということ」だと明確に述べた。

#組織の前にビジョンが何なのかということが大切

続いて岸氏は、コピーが書けたりデザインができたりすることをある種の「手段」とした上で、その先にある能力開発について「AKQAはどんな人材やスキルを求めているのか」また「スキルを育む組織とはどういうものなのか」と質問。イナモト氏は、「重要なのはアントレプレナーシップがあるか」と即答し、「5年後、10年後にはAKQAのビジネスもクライアントのビジネスも変わっているはず。そういうときに、既存のやり方ではなく、個人の趣味や情熱でつくり上げていく気持ちのある人が、過半数ではなくても組織の中に何人かいた方がいいし、そういう人たちにチャンスを与えることが大事」と述べた。そして、ケネディ大統領が1960年代に「人類を月に送り込む」というビジョンを明確にして科学技術を発展させた例を挙げ、「組織の前にビジョンが何なのかということが大切」だと強調した。その言葉を受けて、岸氏は「今はビジョンを持つにしても、何が正解か分かりにくく、目標を言語化しにくい時代だ」と述べ、AKQAではどのようにハードルの設定をしているかを質問。イナモト氏は、「われわれはあくまでクライアントをベースにした仕事」とした上で、「イノベーションをもとに、クライアントのビジネスをトランスフォーム(変身)させること」だと答え、AKQAは今後「ものをつくるコンサルティング」に近づいていくと示唆した。

#突破口の糸口は、「なぜですか?」

イナモト氏は、実際の例として、あるクライアントから「もっとソーシャルにならなきゃいけないから、フェイスブックの“いいね!”のボタンを付けてください」というリクエストが来た際に、「なぜ“いいね!”ボタンなのか?」と問い詰めた結果、新たなコンテンツをつくることがソーシャル化への解決になった事例を挙げた。「特にデジタルの領域では、どこまでがサービスで、どこまでがプロダクトで、どこまでが広告かが混ざっています。AKQAにくる依頼のほとんどは、実は、“マーケティングをしてください”というリクエストで、その中から突破口を見つけるようにしています」と述べ、「“広告をやってください”と依頼されると断ることが多い」と明かした。岸氏も、「広告という領域に固執せず、クライアントの想像を超えたものや、手法を変えたものまで提案できるか問われていると思う」と考える一方で、「日本ではメーカーのものづくりへの自負があって、広告会社に開発を頼みたくないという意見もある」と述べた。それに対してイナモト氏は、「エージェンシーの仕事は、クライアントの目的やビジョンをはっきりさせるためのお手伝いができるので、それを舳にやっていくのも十分に意義がある」として、プロダクトやサービスはその手段でしかないことを強調。最後に、ここ数年で日本に帰ってくる機会が増え、「海外に身を置く日本人としても、2020年の東京オリンピックに向けてぜひ何かをやりたい」という発言も飛び出して、今後のイナモト氏の日本での活躍も期待させるトークの終わりとなった。

企画プロデュース:電通人事局・金原亜紀    記事編集:菅付事務所 構成協力:小林英治

 

『電通デザイントークVol.1』
(B6変形上製、192ページ、
1,600円+税、ISBN978-4-02-100914-3)

白熱した本セッションの詳細は、7月8日から好評発売中の『電通デザイントークVol.1』内で、Session1「広告をトランスフォームする」として収録されています。ぜひご覧ください。

 

 

 

 

 

プロフィール

  •                           r
    レイ・ イナモト
    AKQA AKQAチーフ・クリエーティブ・オフィサー/ヴァイス・プレジデント

    Creativity誌「世界の最も影響のある50人」、Forbes誌「世界広告業界最もクリエーティブな25人」の1人にも選ばれる一方、ニューヨークを拠点に世界を舞台に活躍するクリエーティブ・ディレクター。04年からAKQAに所属。07年に行われたインタラクティブ・クリエーティブ・ランキングで、世界のトップ5に選ばれる。
    10年には日本人として初めてカンヌ国際広告祭チタニウム&インテグレーテッド部門の審査員に抜擢される。世界中で受賞多数。

  • 岸 勇希
    株式会社電通 コミュニケーション・デザイン・センター エグゼクティブ・クリエーティブ・ディレクター

    2004年電通入社。08年に執筆した『コミュニケーションをデザインするための本』で、コミュニケーション・デザインという概念を広告業界に発表。11年に電通史上最年少でクリエーティブ・ディレクターに。広告に限らず、商品開発や事業デザイン、テレビ番組や音楽などのコンテンツ制作、空間デザインに至るまで、幅広い領域で活躍。カンヌ国際広告祭金賞、アジア国際広告祭グランプリ、日本マーケティング大賞グランプリ他、国内外の賞を多数受賞。

バックナンバー

関連記事

続きを見る
ページ先頭へ