チーム・クールジャパンが行く #03

読売新聞深沢氏講演レポート:アジア市場にジャパンブランドを浸透させるには

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    深沢 淳一
    読売新聞東京本社

2014年7月、電通の全社横断プロジェクト「チーム・クールジャパン」は、読売新聞東京本社宣伝部長の深沢淳一氏を招いて勉強会を開きました。深沢氏は、経済記者としてシンガポールやタイに駐在し、2000年代以降のジャパンブランドの影響力を見てきた経験を持っています。日本のソフトパワーはアジアからどのように見られ、韓国とどのような違いがあるのか、深沢氏が語りました。

現地のニーズを細かく捉える韓国ブランド

2001年から04年までシンガポール支局に駐在し、10年から13年までバンコク支局でASEAN、中国、韓国、インドなどのアジア経済を見てきた深沢氏は、アジア市場では韓国勢の勢いが強く、物だけでなくソフトやコンテンツも含めた韓国ブランドが激しく台頭してきていることを説明します。

日本の取り組みにもどかしさを感じる中で、アジアにおける日本の良さを個別分野ごとに紹介し、実際に日本がアジア市場に踏み込んでいけているのかを示した特集連載「ソフトパワーの作り方」を統括してきた深沢氏は、まず日本のメーカーがアジア市場で伸びない理由について説明します。

新興市場でのメーカーの失敗は、日本製品のオーバースペックが原因と語られることがありますが、深沢氏は「オーバースペックという問題だけでは片付けられない、根本的な体制の違いがあるような気がします」と話します。韓国企業などと価格競争を行うことで、日本メーカーはブランド力を自ら毀損させてしまっていると指摘する深沢氏は、スペックの問題よりも価格戦略を間違ってしまっていることを説明し、メーカーがアジア地域統括会社などに対し権限や裁量を与えていないことを問題視しています。物を売る姿勢やパワーが日本メーカーには足りず、現在の韓国企業には高度成長期の日本企業のようなパワーがあるというのです。

現地のニーズとコストバランスの考え方も、日本と韓国では異なるものとなっています。洗濯機を例に挙げると、タイのバンコクでは、共働きが多く、少子化問題もあるため、容量が小さくてもドラム式の全自動洗濯機が売れます。一方、インドネシアでは、洗濯機の普及率が低く、田舎では大家族が川で洗濯しているような状況であるため、全自動でなくても安くて大容量の洗濯機に需要があります。このように、同じASEANでも国ごとにニーズが違う市場に対して、韓国企業ではアジア地域統括会社に権限が与えられ、国ごとのテイストに合った商品開発が行われています。「日本メーカーは、利潤を上げるために世界共通の仕様にしてコストを下げ、効率化を行っています。どちらも正しい手法だと思いますが、結果として韓国企業の方がきめ細かいマーケティングでシェアを取り、現地に権限を与え、大きなPR予算をかけてアジア市場に攻め込んでいるのです。スペックの問題よりも、指揮系統の違いや根本的な体制の違いが両国のアジア進出の違いの背景になっていると思います」と深沢氏は話します。

日本の情報をシンプルに発信する

アジア市場や欧米市場で通用する日本のブランド力について、深沢氏は「粋・わびさび」「ポップ」「クール」の3つのキーワードを挙げています。

この中で深沢氏が特に注目しているのが「粋・わびさび」です。日本の若者にとって年寄りくさいとも考えられるものが、外国人にとっては一つのカルチャーとして捉えられ、異文化の新鮮な発信力を持っているのです。これらのコンテンツは、光の当て方に気を付けて打ち出し方を工夫すれば、魅力のあるものとなっていくはずです。

日本のメディアはこのようなコンテンツを文化的に紹介しているのに対し、「ソフトパワーの作り方」は経済部の記者が記事にしていることに意味があったと深沢氏は強調します。「アジアでの日本文化の紹介は、より親しまれる文化として文化部が記事にするのではなく、経済部がソフトパワーとしてどれくらい経済力につながるのかと言う視点で書くことに意味がありました」

一方で、日本の国内向けのドラマが視聴率獲得のために刺激の強いものとなっており、アジア市場では受け入れられず、版権などの関係で海外に出すことも難しい状態であることを説明する深沢氏は、韓流ドラマがアジアで受け入れられている理由を家族的で安心できるコンテンツであり、出演者の版権がしっかりと取られていることであると話します。

「海外で受け入れられる日本のテレビ番組は、情報番組や旅番組です」と話を続ける深沢氏は、アジアでは、温泉や日本料理、景色などの評判が良く、日本をもっと知りたいという人が多いことを明かします。実際に、タイでは、現地のタレントがハンディーカメラで日本を旅する番組が人気となっており、情報を打ち出す際にもシンプルに発信していくことも重要となってきます。

ガールズバンドがキラーコンテンツに

「ポップ」な日本ブランドについて話題を移した深沢氏は、「アニメやマンガには大きなパワーがありますが、日本のカルチャー系のソフトパワーは広がりがないことが課題となってきます」と説明します。現在、日本はアニメやマンガに関しオンリーワンの提供国ですが、韓国ではアニメやマンガのデジタル制作の専門学校を本気で整備しようという動きがあります。登場人物のキャラクターやストーリー展開をまねされてしまう中で、日本もアドバンテージがあるからと安心せず、デジタルコンテンツでの展開も含めて工夫していかなければ、すぐに韓国に追いつかれてしまうと深沢氏は懸念しています。

コスプレなどのオタクカルチャーも、アジアや欧米で高い人気となっていますが、深沢氏は、これらのコンテンツはマスにはなり切れず、一部の愛好家の人たちにとどまってしまうことを指摘しています。ただし、日本では多少ネガティブイメージも伴うオタクカルチャーも、海外ではポジティブに捉えられることが多いため、Jカルチャーと絡めて、うまく工夫して打ち出すことができれば、大きな魅力のあるコンテンツとなります。

アイドル文化について、韓国の少女時代と日本のAKB48グループの比較を示す深沢氏は、少女時代はアジアで広く知れ渡っているのに対し、AKB48は日本では大人気だがアジアではほとんど知られていないと説明します。これは、日本では「カワイイ」「プリティー」が受けるのに対し、アジアや欧米の市場では「クール」や「セクシー」が受けることが原因だと考えられます。日本のアイドルは、コスプレ同様、一部のファンには支持されますが、マスとはならないと説明する深沢氏は、次のように話します。「欧米の歌姫のようなセクシーさはアジア人にとっては異質なものとなる中で、少女時代のように同じアジア人のアイドルがクールでセクシーであれば、20億人近いアジア市場を狙うことができ、ビジネスとして成立させることができます」

このような状況に対して深沢氏は、一つのアイデアとして「ガールズバンド」をアジアで売り出すという案を提示しています。ガールズバンドは、アジア市場に出てきていないため競合がなく、純粋にかっこよく、民主主義、豊かさ、多様性を認める社会、女性の社会進出などのシンボルとなれるため、打ち出し方次第でキラーコンテンツとなり得る存在となります。これらのコンテンツを打ち出すことで、日本の「うらやましさ力」や「あこがれ力」を強化し、「嫌いだけど好きな国」という捉え方をしてもらうことも、一つの手段となります。

民間の力と体系立てた戦略が重要

現状のクールジャパンやジャパンブランドの打ち出し方について深沢氏は、「事実誤認かもしれません」と前置きしながらも、「一過性のイベントで終わってしまっている印象があり、1年後、3年後、5年後に何をどのように振興させていくかという継続性に欠けているような気がします」と話します。韓国のように相互にブランド力を高め合うような動きがなく、さみだれにジャンルごとに日本を売り込んでおり、連動性がないというのです。

10年以上前から韓国ブランドが大きく台頭し、魅力的なブランドとなっていると話す深沢氏は、日本では日韓関係の影響で下火に見える韓流ブームもアジア市場では根強く続いており、数年前の軍事政権下のミャンマーでも受け入れられていたと説明します。その中で、ジャパンブランドが対抗していくには、民間の力が非常に重要となってきます。「03年くらいから、経済産業省の人などと何とかしなければならないと話していました。政府が表に出ずに広告会社などが中心となって“いつの間にか日本好きになっていた”というプロジェクトを行う必要があります。韓国は、国家戦略としてKポップや韓流ドラマを海外展開していると考えられがちですが、実情は違います。コンテンツ企業が頑張って輸出して売れるようにし、国の政策が後から付いてきたのです。コンテンツを浸透させるための兆しは、民間がつくる必要があります」

一方で、政府に対しては、次のような役割を求めていく必要があると深沢氏は説明します。

たとえば、和食チェーンをアジアで展開しようとしても、国によっては現地法人と組む必要があり、現地の資本を51%以上にしなければならない場合もあります。しかし、これでは現地のパートナー主導となり、のれん分けという形でロイヤリティーだけを受け取って、肝心な味が落ちてしまう可能性があります。これらの相手国の規制緩和などは政府に外交で働き掛けてもらうしかありません。

また、知的財産権の保護もジャパンブランドを守るためには重要です。アジアでは著作権保護の意識がまだまだ低く、今後の大きな課題となってくることも考えられます。さらに、国際交流基金に対しては、ソフトやコンテンツの紹介だけではなく、英語でしか提供されていないドラマや映画の字幕を現地語にするなど、日本ブランドが売れるような工夫を行っていくことを求める必要があると、深沢氏は強調します。

最後に深沢氏は、次のような言葉をチーム・クールジャパンの面々に投げ掛け、勉強会での講演を終えています。

「政府や役所は縦割りではなく、民間が中心になった横串の戦略が必要となります。現在のクールジャパンは、プロモーションがメーンであるような気がしますが、ターゲットとする市場で、イメージ戦略、プロモーション、制度・政策への対応を体系的に行っていくことが重要です。政府任せにするのではなく、民間でしっかりとコントロールし、コーディネートして、打ち出していく必要があると思います」。

参考:読売プレミアム「ソフトパワーの作り方」

プロフィール

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    深沢 淳一
    読売新聞東京本社

    1987年読売新聞入社。主に経済部に所属し、経産省、財務省、外務省、経企庁(現内閣府)、国土交通省などの経済官庁や民間各クラブの総合キャップ、経済部及び国際部の各デスク、アジア経済特派員(シンガポール駐在)、アジア総局長(バンコク駐在)などをこれまでに担当。

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