Dentsu Design Talk #33

『電通デザイントークvol.1』発売記念

広告界を目指す若者たちへ! いま「広告」は何を目指すか(前編)

  • 嶋 浩一郎
    博報堂ケトル 博報堂ケトル代表取締役社長/クリエイティブディレクター/編集者
  • Takasaki
    髙崎 卓馬
    株式会社電通 CDC エグゼクティブ・クリエーティブ・ディレクター/CMプランナー
  • 岸 勇希
    株式会社電通 コミュニケーション・デザイン・センター エグゼクティブ・クリエーティブ・ディレクター

 

 

過去に行われた電通デザイントークの中から厳選した3本の対談に、追加取材を入れ増強した書籍『電通デザイントーク Vol.1』(発行:電通、発売:朝日新聞出版)。その発売を記念して、書籍に登場する博報堂ケトルのクリエーティブ・ディレクター嶋浩一郎氏、電通のエグゼクティブ・クリエーティブ・ディレクターの髙崎卓馬氏と岸勇希氏の3者によるスペシャル・デザイントークが7月4日に電通ホールで行われた。満席の熱気あふれる会場での、広告の未来をめぐるスリリングなトークのダイジェストを前後2回に分けてお届けする。

 
企画プロデュース:電通人事局・金原亜紀    記事編集:菅付事務所 構成協力:小林英治

 

多様化の時代に、広告で培ったスキルを他業種で生かす

岸:今日は、「広告界を目指す若者たちへ! 今『広告』は、何を目指すか」というテーマが設定されているようですが、このテーマに縛られて話すというよりは、今それぞれが思っている、またこのメンバーで議論したいキーワードを各自用意してきたので、そこから話を展開していければと思っています。最初に嶋さんから順に、自己紹介プラス、簡単にテーマに触れたお話を頂けますか。

嶋:博報堂ケトルの嶋と申します。競合プレゼンで時々お会いするお二人とお話できるなんてちょっと不思議ですね。僕は、「広告」はこれから相当さまざまな方向に進化していくと思っていて、例えば今日ここに600人いるとしたら、600通りの仕事の仕方があるんじゃないかと考えています。同じ問題解決をするといっても、ある人はCMを提案するし、ある人は全然関係ない事業計画を提案するかもしれない。そういう異種格闘技みたいなことが普通になって、提案する方も多様化が求められますが、逆にいえば、いろんなアイデアが実現しやすい環境になって、誰もが自分なりの成功方程式をつくれるということなので、僕はこれからの「広告」を楽しみたいと思っています。

髙崎:電通CDCの髙崎です。今日集まった3人は、軸になっている部分が全然違うので、まさに嶋さんが言っている多様化の一例ですね。同じ作業で僕と嶋さんが別々に呼ばれて、全く違う答えを出して、クライアントがいろいろ考えて結果その両方とも採用するみたいなこともありました。とはいえ僕は自分がクラシカルなスタイルで仕事をしているとは思っていません。マスを使いこなす形で戦っていますが、常に変化の中にいる意識はあります。いいCMをつくればいいという時代はたしかに終わっていて、広告そのものが面白く見えるためには何をすればいいかということ自体を深く突き詰めて考えなければいけない時代です。ただ、その状況を新旧みたいな言い方で片付けるのは何も生まない。いつの時代だって変化の途中のはずですから。

岸:CDCの岸です。僕は初めに、上司である古川エグゼクティブ・クリエーティブ・ディレクターの、言葉を引用したいと思います。2年ほど前に会話の中で古川さんが語った言葉ですが、「もはや『広告』で世の中を変えたり、  大きなイノベーションを起こそうという考え方自体が、古いのかもしれない。 広告という場で、さまざまな技術、筋力を身に付けた『人』が、世の中のさまざまな場所で必要とされ、 活躍するようになるのだろう」というものです。実は広告人が持っている優れたスキルというのはいろいろあると思います。言語化する能力、伝える能力、論理的に整理する能力、交渉して実現する能力などなど。広告の仕事をやっているとおのずと身に付く力といってもいいかもしれませんね。言語化はこの仕事で身に付く非常に強い力だと思いますし、人を魅了するプレゼンテーションも大きな武器です。複雑な物事を説明する力なんていうのも、多分他の業界の人たちよりも、だいぶ訓練されているはずです。こうした力は決して広告だけで生きるものではないと思うわけです。究極的には経営こそ、こういう力が必要なはずですし、それ以外にもさまざまなフィールドで活用できると思います。そう考えると、これから広告はどうなっていくかを考えること以上に、われわれが持っているスキルを生かして、何ができるか。「すべきこと」以上に「できること」を考えていくことが、結果的に広告界の可能性につながっていくと思っています。

ネクスト・ジェネレーションを育てるには?

岸:さて、ここからは、各自用意してきたキーワードをベースに話をしていきたいと思います。シャッフルしてあるので、出てきた順番に話していきましょう。

「育成」

岸:これは嶋さんが出したキーワードですね。

 

嶋:ケトルという会社は、木村健太郎と僕が9年前につくりましたが、木村はマーケティング畑出身で、僕はずっとPRの仕事をしていました。僕たちはコミッションビジネスではなくて、フィービジネスをしています。最初はとにかく自分たちの知恵をいかにお金に換えるかということに必死で、自分がいきなり市場に出て値札が付けられて売られるような世界に突入していったんですけれど、しばらくたって思ったのは、ちゃんと下の世代を育てようということです。先ほど岸さんも、言語化するという能力は広告会社のすごいスキルだと言っていましたが、僕と木村は、自分たちの仕事をとにかく言語化して第三者に伝える指向性があったんです。自分も木村は「この仕事の成功ポイントはココ」とかまとめる。言語化してシェアするんです。だからこそ、自分たちを継ぐネクスト・ジェネレーションが育つ環境になっているんじゃないかと思う。ケトルでは2、3年前から、次世代の「木村×嶋」を意識的に育てる取り組みをやってきました。ちょうど木村と嶋の10歳年下に、ケトルを僕らがつくったときと同じ年頃の橋田くんと石原くんという2人が同期でいるんですが、その橋田くんが去年やったヤフーの仕事で、3Dプリンターと検索をくっつけて、例えば「スカイツリー」と言うとスカイツリーの形をした立体が3Dプリンターで出てくるという、「さわれる検索」というシステムの開発があります。これはカンヌで賞も頂いて、ケトルの「育成」の一つの成果かなと思っていますが、そういうことをすごく意識的に考えてやっています。

岸:僕も次のジェネレーションを育成することに関してはここ数年、人一倍努力してきたつもりです。結果的にそれなりの戦力というか、すごく頼もしい仲間が増えてきてはいるんですけど、じゃあ本当に全く新しい、これまでの流れを変えてしまうようなスーパープレーヤーが生まれているかというと、実はまだまだだと思っています。一方で、今年のカンヌでホンダ(「Sound of Honda / Ayrton Senna 1989」)で賞を総なめした菅野薫さんみたいな人がポーンっと登場してくるわけで。自分もそうだったように思いますが、それまで全く存在しなかったような新種というのは、もしかしたらそもそも育成なんてできないのかも、と最近では思ったりしています。髙崎さんみたいなコンテンツの名人というのは、育成することで生まれたりするものなんでしょうか?

 

髙崎:さっき古川さんの話が出ましたけど、古川さんに会う前の10年間、僕は野蛮人みたいな生活をしていたんです。20代最後のあたり。その1年半くらいの間は完全にマンツーマンで毎日ロジカルに考えることの面白さをたたき込まれていた。今思えば予備校時代のような感じでした。そういう意味だとある程度のことは継承できる。確かに、ロジカルに考える前の、何ともいえない価値観のようなものは先天的なもので、個人の持ち物だから継承も育成も不可能だと思う。でも、あらゆることをきちんと自分で言語化していくことはスキルを磨くという視点で最も重要なことだと思います。吸収する力ですから。

高いところを目指してそれぞれの方法で山を登る

岸:CDCのことを社外の人に説明するときに、「とにかく全員、最速で山の頂上を目指している人の集まり。そういう意味では同じ。ただ、その方法がまったく違う。そんな組織です」と比喩したりします。髙崎さんみたいに真っすぐ最速で登る人もいれば、菅野さんみたいにヘリコプターで降りてくる人もいる。樋口景一さんに至っては、そもそも今ここが頂上だったんだ!みたいなパラダイムシフトを起こしたり(笑)。それぞれ方法が異なるわけです。この、必殺技が異なるというのは魅力でもありますが、一方で育成という面では、これまでと違い答えが複数あるわけで、難しくなったように感じます。

嶋:僕の感覚でいうと、自分たちは編集者的な役割でいいんですけれど、全員が編集者になったらおかしなことになるわけで、イラストレーターや写真家や文章書く人も必要。だから、デザイナー、コピーライター、CMプランナーがちゃんと育つキャリアパスと、編集者っぽい人を途中から抜き出す育成パターンがあるのが、大きな広告会社の育成としていいのかなと思いますけどね。統合キャンペーンができる人を新卒でつくれるかもしれないと思った時期もありました。実際にそういう人を採って、すごく教え込んだ時期があったんですけど、やっぱりダメでしたね。

岸:そこでうまくいかなかった理由ってなんですか?

嶋:やっぱり広告はチームでやる仕事だから、いくら知識があってもリスペクトされないと難しい。まずはこの領域でこれをやり遂げた人、というのじゃないと周りが付いてこないというか。結局、人間力とか、すごみということかもしれないですね。

髙崎:仕事ってそうですよね。実績は分かりやすくリスペクトを生んでくれる。でも時々、ものすごく人間力のある若いヤツがいきなりヘリでドンと出現してくる。今までのことを古いと否定することもなく新しいことをやってのけて、何かを鮮やかに古くしてしまう。僕らは自分たちも常にそうありたいと思って今までの文脈と戦っているんだけど、やっぱりその実績が、力をくれると同時に足かせにもなったりするんですよね。

岸:僕も知りたいです(笑)。ではこのあたりで2つめのキーワードに行きましょう。

徹底的に数字と向き合って身につくこと

「ひとり」

髙崎:僕は「ザ・CMプランナー」とよく言われるんですけど、自分ではCMプランナーの中では特殊なタイプだと思っています。映画の経験は自分の意識を大きく変えました。「ホノカアボーイ」という映画をつくった時、上映期間中全国のどの映画館に何人入ったか毎日ファックスが届くんですね。プロデューサーでもあったので。福岡の母親から見に行ったよ!ってメールが来て、ファックス見たら福岡の入場者数が1(笑)。あの瞬間のあの気持ちのせいで数字に対するスイッチが入ったんです。広告のクリエーティブって、ものすごく制約がある中でやっている。けどそのおかげで自分たちを過保護な状態にしがちだし、逃げ道がたくさんあるのも事実。でも、クライアントはこういう数字にさらされているんですよね、特に経営に近いところにいる人たちは。その怖さとか吐きそうになる気持ちを知ったから、結果から逆算する意識が身に付いたんです。

 

岸:数字の話ですが、個人的にはちょっと違和感を感じるくらい、数字と無縁で仕事をしている人が多いと思っています。僕みたいにインターネット出身だと、数字というものは常に見えてしまうわけで、気にしたくなくても無視できない。

髙崎:岸たちが登場した時は非常に痛快だった。みんな当たり前に数字を気にしていて。僕にはそれが新しく見えたし、正しい姿にも見えたんです。数字に萎縮するのではなく、責任を持つというのはこれからもっとナチュラルに必要になると思います。でもそれは、ただの数字の大きさを競うべきだという意味ではなくて、数字の濃さのようなものを気にすべきかなと。もっと言うと世の中をもっと生々しく気にしておいた方がいいと思っています。

嶋:広告はある意味守られてきて、コントローラブルな部分だけでつくっていたと思いますよ。でも僕はPR出身なので、記者会見をやったらどう出るか分からないし、プレスリリース出してもどう出るか分かんないし、基本アンコントローラブルなものと戦うっていうスタンスが根っからある。そのアンコントローラブルな世界をいかにマネージしていくかっていう気概で臨んでいます。その感覚を広告の人が持つとすごいなって思います。

岸:僕は全部の仕事ではないですけど、できる限り毎日、売り上げなどの指標が届くようにしています。売り上げを見ながら、即座にコピーを変えたりグラフィックを変えることは頻繁で、それによって数字が回復したりすることも何度も経験しています。ですから一回完パケしたものを、ギリギリで入れ直したりというのは結構やりますね。迷惑かかってますが。僕の机には、常にいつまで直せるのかのリアル・デッド一覧が張られています(笑)。数字があるからこそ判断ができるわけで、僕には大事な指標です。そういう意味で、クリエーティブの数字に対する意識改革は急務だと思っています。

以下、後編に続く。8月8日掲載予定。

プロフィール

  • 嶋 浩一郎
    博報堂ケトル 博報堂ケトル代表取締役社長/クリエイティブディレクター/編集者

    93年博報堂入社。コーポレート・コミュニケーション局配属。企業の情報戦略に携わる。01年朝日新聞社に出向。スターバックスコーヒーなどで販売された若者向け新聞「SEVEN」編集ディレクター。02〜04年博報堂「広告」編集長。06年既存の手法にとらわれないクリエーティブ・エージェンシー博報堂ケトルを設立。トヨタ、KDDI、味の素、ソニーなどの統合キャンペーンを企画・実施すると同時にネットニュース配信、カルチャー誌「ケトル」の発行などコンテンツビジネスにも力を入れる。04年本屋大賞の設立に関わり、現在NPO本屋大賞実行委員会理事。11年ブックコーディネーター内沼晋太郎と共同経営の形で東京下北沢に本屋B&Bを開業。11年、13年のカンヌ広告祭PR部門の審査員もつとめる。著書「なぜ本屋に行くとアイデアが生まれるのか」(祥伝社)など。

  • Takasaki
    髙崎 卓馬
    株式会社電通 CDC エグゼクティブ・クリエーティブ・ディレクター/CMプランナー

    2013年、2010年クリエーターオブザイヤー、TCCグランプリ、ADC賞、ACC賞など国内外の受賞多数。エイベックス・エンタテインメント「dビデオ」、JR東日本「行くぜ、東北。」、サントリー「オランジーナ」、 ANA、Intel、JRA、朝日新聞などのキャンペーンを担当。2020東京五輪招致のクリエイティブディレクションを担当。著書に「表現の技術」(電通)、小説「はるかかけら」(中央公論新社)など。

  • 岸 勇希
    株式会社電通 コミュニケーション・デザイン・センター エグゼクティブ・クリエーティブ・ディレクター

    2004年電通入社。08年に執筆した『コミュニケーションをデザインするための本』で、コミュニケーション・デザインという概念を広告業界に発表。11年に電通史上最年少でクリエーティブ・ディレクターに。広告に限らず、商品開発や事業デザイン、テレビ番組や音楽などのコンテンツ制作、空間デザインに至るまで、幅広い領域で活躍。カンヌ国際広告祭金賞、アジア国際広告祭グランプリ、日本マーケティング大賞グランプリ他、国内外の賞を多数受賞。

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