Dentsu Design Talk #34

『電通デザイントークvol.1』発売記念

広告界を目指す若者たちへ! 今「広告」は、何を目指すか(後編)

  • 嶋 浩一郎
    博報堂ケトル 博報堂ケトル代表取締役社長/クリエイティブディレクター/編集者
  • Takasaki
    髙崎 卓馬
    株式会社電通 CDC エグゼクティブ・クリエーティブ・ディレクター/CMプランナー
  • 岸 勇希
    株式会社電通 コミュニケーション・デザイン・センター エグゼクティブ・クリエーティブ・ディレクター

 

書籍『電通デザイントーク Vol.1』(発行:電通、発売:朝日新聞出版)の発売を記念した、電通デザイントークの番外編。書籍の対談に参加した電通のエグゼクティブ・クリエーティブ・ディレクターの髙崎卓馬と岸勇希、博報堂ケトルのクリエーティブ・ディレクター嶋浩一郎の3氏によるスペシャル・トークイベントが7月4日に電通ホールで行われた。広告の未来をめぐるスリリングなトークのダイジェスト、その後編をお届けする。

企画プロデュース:電通人事局・金原亜紀
記事編集:菅付事務所 構成協力:小林英治

 

メディアのマネタイズの方法はまだまだある

「ラジオと雑誌」

嶋:これは、表現とメディアは一体化しなきゃいけないという話です。もちろん、表現がずば抜けて良ければ、どの媒体に載っても効果はある。けど、自分がつくったグラフィックの広告をどの雑誌に載せるのか、「CanCam」に載るのか、「CLASSY」に載るのかで全然意味が違うわけで。表現と媒体を統合化して考えなくてはいけないはずが、実際それができる人は少ない。雑誌協会とか新聞協会でお話しさせていただく時にいつも言っているのですが、媒体をエクセルの表で売るのは本当にやめた方がいい。例えば、30代の女性に広告を出したいっていうクライアントさんにエクセルの表を持っていくんですよ。「『VERY』『Mart』『ESSE』『LEE』どれにしますか? 価格はいくらで部数はこれくらいです」って。でも、自分の担当している商品は、「ESSE」に載せるべきとか「VERY」に載せるべきというのが分からなきゃダメだろ、と思うわけですよ。雑誌に広告を出すというのは、雑誌の持っている世界観を拝借するということなので、どれにしましょうかとエクセルの表を出してる時点で、もう自分はその商品のことは分かってませんと言っているも同然です。

 

岸:そういうことは、ここ最近の話じゃなくて、もうかなり前から重要と言われてきたじゃないですか。でも何で浸透していかないのでしょう。

嶋:媒体の持っている世界観や文脈こそが読者をつかんでいるのに、やっぱり部数と裏1と裏2でこの価格で、というふうにスペースを売る発想になってしまっている。でも、この雑誌は部数は低いけれど、あるカテゴリーの主婦を引きつけている文脈があるとしたら、そちらにより高い金を出しても全然構わないわけです。課題解決度でいえば、そのターゲットを押さえていることの方が、部数が多いよりよっぽど効果的で、クライアントにとっても幸せなんですよね。岸君が最初に、広告会社はもっと社会に役立つ筋力を持っているみたいなことを言ったけど、それと同じで、メディアもいろんな筋力があるんですよね。つまり、もっとラジオも雑誌も、換金ができる潜在能力がいっぱいあるということを話したかったんです。

岸:新聞でも、僕が以前行った全国イベントのときには、地方新聞社にコンサルティングをしてもらいました。メディアとしてではなくて、地域のことを一番知っているコンサルティング会社として、地方新聞社と仕事をさせていただいたわけです。新聞の地域経済に対するナレッジ、時に第三の権力として世論を動かしてきた「知」というのは、もっともっとマネタイズできると思っています。今の嶋さんの言葉を借りると、みんなその価値を認識しつつも、ビジネスという意味ではメディアリーチの評価の部分だけになっている。こんな話をしていると、電通か博報堂が本来の価値転換をやらなきゃいけないということに戻っていきますよね。

嶋:本当にそうですよ。今日、会場にいる600人がまず動けば、きっと何かできると思うんです。

岸:メディアの役割は、より大事になっていくという気はしています。では、次にいきましょう。

同調圧力に伴うリスクにどういう対応していくか

 「寛容」

髙崎:これはどうやって話せばいいか、難しいテーマですね。2020オリンピック招致のプロジェクトをやったときの宿題のひとつが「世論」だったんです。でもこの「世論」っていうのが非常に分かりにくい、つかみにくい。いまだに分かりません。普段広告をつくっているときもある程度意識はしているつもりだったんですが、それは商品・ブランドや企業との関係を構築していくためのものだから分かりやすい。でも広告がよりコンテンツ化したり、単純な表現じゃなくなってきたら、僕たちはそのうちまた、この「世論」というものに向き合うことになる気がします。コマーシャルはここ数年シェアとか拡散とかする必要があると言われ続けてきています。でもなんかそれが本質には思えない。「炎上」と「拡散」は実は似ていると思うんです。その正体は同調圧力で、「いい」と言わないといけない圧力が発生するか、「ダメ」と言わないといけない圧力が発生するかの違いではないかと。僕たちが同調圧力を発生させるような表現を目指し始めたら、それはとても危ない。表現はどんどん均質化して既視感のあるものになるだろうし、より一般論化していくだけになる。「みんな」という謎の存在が主人公になる。

嶋:同調圧力の中で、アドバタイジングは主張をしなければいけない。モノをつくる人が考えなければいけない重要なテーマです。

 

髙崎:僕らのアウトプットは今、常にクレバスに囲まれています。なにかあるとすぐたたかれる。ネットのせいで僕たちは一時的な感情をそのまま吐き出せるようになった。瞬間的な感情って数分でやわらぐものだけど、その感情を表面化させるとそれが本人の意思と無関係にどんどん膨張していく。自分と違う意見を見た瞬間、自分を否定してると感じてしまう人間の弱さがその原因だと思います。弱い部分が表に出てきちゃった。その影響を今、もろに受けている。

岸:特にこの1、2年ぐらい、CMのオンエアが中止になったりとか、多いじゃないですか。でも自分がいち消費者として見ていると、これは一体どこがクレームだったんだろう?というのが8割、9割ぐらいになっている。あくまで個人の感覚ではありますが。世の中全体が「寛容」さを失っているというか。今の世の中のコンディションがギリギリのところで、すごく危ないバランスのところに来ている感じがして、その中でどうやって刺激、拡散というものを味方にしていくのか、クライアントをどのようにリスクから守るか。

髙崎:クレームはゼロにはできない。この世界はそういうシステムをもう手に入れてしまったから。嫌だと思ったらすぐ嫌だってツイートできる。テレビ局とかクライアントに電話するような面倒くささがない。でもそのことにびびってたらダメだと思うんです。過去のクレーム事例を見て自分のアウトプットの過剰な部分を削ることを無意識にやってはいけない。むしろこれからは何かあったときに上手にどう機転を利かせて切り返していくか。そういうリスクとの向き合い方のスキルを身に付けた方がいいと思う。

 

嶋:オルタナティブがどんどんなくなってきていますよね。同調圧力と同じではないんですが、集合知に依存する体質もありますよね。前に博報堂の新入社員研修の後ご飯を食べに行こうとおもったら、「嶋さん、この店は評価サイトで3.01なんですけど大丈夫ですか?」って言うヤツがいた。そのお店が好きな僕がそこに行きたいわけじゃないですか。サイトでその店について投稿している見も知らぬ人たちの得点の方を信じてしまうのはなに?もちろん、集合知はムチャ便利だけど、「この集合知野郎が!」って思っちゃいますよ(笑)。それは選択基準のあくまで一つであって、いろんな情報の選び方があっていいはず。広告のつくり方とか商品開発の仕方でも、ソーシャルメディアが出てくると、みんなの意見や集合知で広告や商品をつくるみたいなところがあったりして。それはそれで面白いんですが、一人がぶっ飛ばして何かをつくったCMとかが、もっとあってもいいのになと思うんですけどね。その多様性もバランスです。

偏執的な好きを掘り下げ、無関係なものを結びつける

 「バイオミミクリー」

岸:あまりに広告とは関係のないキーワードですが、嶋さんもとても注目されているということなので、挙げさせていただきました(笑)。「バイオミミクリー」、「バイオミメティクス」ともいわれますが、これは「生物模倣技術」のことで、分かりやすくいうと、今の新幹線の500系のデザインはカワセミの口の形からできているとか、電力をとるパンタグラフは風を受けても音がしないようにふくろうの羽根の構造をまねてつくられているとか。生き物が持っている能力を、いかに人間の技術、ビジネス、生活に活用していくかという分野のことです。
なぜこんなキーワードを出したかというと、今回出るこの本の中でレイ・イナモトさんと対談をしたときに、レイさんが新しいクリエーターを採用するときに何を重視しているかという僕の質問に、「広告と関係なく、その人が何がやりたくて、何が好きかっていう話をとにかく時間をかけて聞くようにしている」とおっしゃったんです。今日嶋さんが、600人いたら600通りの仕事のやり方があり、広告の未来があるとおっしゃったんですけど、どんどん仕事の域がこれまでの常識を超えていき、今できる想像をも超えていって、今の広告に使っている言葉が100だとすると、あっという間に1000とか2000になっていくかもしれない。このバイオミミクリーという言葉も、今は広告とはまったく接続しない、関係のない言葉ですが、ひょっとしたら10年ぐらい後に、普通に広告と接続するかもしれないわけです。もちろん接続しないかもしれませんが(笑)。昔は趣味は趣味、仕事は仕事と、ON・OFFみたいに領域や専門にも程度があったと思うんですが、これからは皆さんの中にある自分の偏執や強烈に好きでこだわるものの中に仕事の方法論が宿っている時代が来るんじゃないかなという気がしていています。それこそが広告の新しい道をつくるかもしれないと。

嶋:「イノベーションのジレンマ」という本で「破壊的イノベーション」の理論を説いたクレイトン・クリステンセンが、21世紀の経営者に求められるのは、関係ないものと関係ないものを結びつける力だということを言っていて、本当にそうだと思う。回転寿司をつくった人は、ビール工場でベルトコンベアの上を流れているビールを見て、これで回転寿司がつくれる!と思ったわけだし、関係ないものを結びつけるスキルってめっちゃクリエーティブですよね。僕は大滝詠一さんって、ビートルズの「イエロー・サブマリン」と音頭をくっつけて「イエロー・サブマリン音頭」にしたりして、すげーバイオミミックスな人だなと思っているんですけど、それこそ日本人はそういう「見立て」が得意だと思うんですよ。さっき出た、広告会社の言語化能力は経営に使えるとか、そういうのが大事。

遠回りすることが役に立つ時代が来る?

 

岸:最後に、「広告界を目指す若者たちへ」ということなので、若者たちへ一言ずつメッセージを述べて終わりにしましょう。今はこういうすごい成功者がいるとか、こういうふうに世の中を動かした人がいるみたいな、すごい人たちの情報がソーシャルメディアなどを通じてどんどん入る世の中。自分がもし今20代だったら、どうやって成功者になっていくのかみたいなことであせると思うけど、よくよく考えてみると、その人の人生はその人の人生で、自分の人生は自分の人生でしかないんです。それよりも、これからは目標に対して最速でアプローチする時代から、遠回りすることが役に立つ時代が来るんじゃないかなと個人的には思っています。早くしなきゃいけないという空気が蔓延している気がするので、そういう意味では、僕はいろいろな遠回りをしながら穏やかに広告業界の変化を楽しんだらいいと思っています。そう言いながらあせってしまいますけど(笑)

髙崎:僕は広告がすごく好きで、今の話でいうと、偏執的に広告が好きなんです。広告のいいところって、やっぱりどんなものとも組み合うところだし、変化に対してちゃんと対応できるところ。その変化も、20年前のものに対して今はこうだというのは今の現象でしかなくて、これからもずっと変化し続けていくはず。だから、メディアや人やいろんなものの変化をずっと見て、自分のつくっているものやつくりたいものがどういうふうに人に伝わるかをいつも考えて、それを楽しんでいくのがいいんじゃないかな。今日はいいと思えても、明日本当にいいのかどうか常に疑い続けないと広告がやせちゃうし、広告が面白く見えないと僕たちの仕事自体がつまらなくなって悪い循環に陥る。自分たちのつくっているものがどれだけ面白いかということを、しっかり見極めてやっていく責任があると思います。

 

嶋:若者たちへのメッセージということでいうと、やっぱり無駄がいっぱいあった方がいいですね。効率的すぎるとロクなことがないと思っていて、発注のない仕事をバンバンやった方がいいです。僕も20代のころは、東京都内の公園にある動物遊具を全部写真に撮るとか、多摩川と荒川と隅田川の河口で待っていて流れてきたものを全部捕まえるとか。誰の発注なの?って話ですが(笑)。そういうふうに、アトランダムに無駄な情報に出合うようにしていた。この話をジョブズ風にカッコ良く言うと、「若いころ、カリグラフィーに凝ったり、禅に凝ったり、いろんなことをやっていたわけで、そういう点がいっぱいあったから、後で星座が描けるんだよ」みたいなことかな(笑)。

〈了〉

プロフィール

  • 嶋 浩一郎
    博報堂ケトル 博報堂ケトル代表取締役社長/クリエイティブディレクター/編集者

    93年博報堂入社。コーポレート・コミュニケーション局配属。企業の情報戦略に携わる。01年朝日新聞社に出向。スターバックスコーヒーなどで販売された若者向け新聞「SEVEN」編集ディレクター。02〜04年博報堂「広告」編集長。06年既存の手法にとらわれないクリエーティブ・エージェンシー博報堂ケトルを設立。トヨタ、KDDI、味の素、ソニーなどの統合キャンペーンを企画・実施すると同時にネットニュース配信、カルチャー誌「ケトル」の発行などコンテンツビジネスにも力を入れる。04年本屋大賞の設立に関わり、現在NPO本屋大賞実行委員会理事。11年ブックコーディネーター内沼晋太郎と共同経営の形で東京下北沢に本屋B&Bを開業。11年、13年のカンヌ広告祭PR部門の審査員もつとめる。著書「なぜ本屋に行くとアイデアが生まれるのか」(祥伝社)など。

  • Takasaki
    髙崎 卓馬
    株式会社電通 CDC エグゼクティブ・クリエーティブ・ディレクター/CMプランナー

    2013年、2010年クリエーターオブザイヤー、TCCグランプリ、ADC賞、ACC賞など国内外の受賞多数。エイベックス・エンタテインメント「dビデオ」、JR東日本「行くぜ、東北。」、サントリー「オランジーナ」、 ANA、Intel、JRA、朝日新聞などのキャンペーンを担当。2020東京五輪招致のクリエイティブディレクションを担当。著書に「表現の技術」(電通)、小説「はるかかけら」(中央公論新社)など。

  • 岸 勇希
    株式会社電通 コミュニケーション・デザイン・センター エグゼクティブ・クリエーティブ・ディレクター

    2004年電通入社。08年に執筆した『コミュニケーションをデザインするための本』で、コミュニケーション・デザインという概念を広告業界に発表。11年に電通史上最年少でクリエーティブ・ディレクターに。広告に限らず、商品開発や事業デザイン、テレビ番組や音楽などのコンテンツ制作、空間デザインに至るまで、幅広い領域で活躍。カンヌ国際広告祭金賞、アジア国際広告祭グランプリ、日本マーケティング大賞グランプリ他、国内外の賞を多数受賞。

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