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顧客を動かすデジタル・マーケティングの実践No.11

ECサイト活用のポイントと将来へ示唆するもの

2014/09/04

マーケティングプラットフォームへ変貌するECサイト

まず、進化を続けるEコマース(EC)サイトについて、活用のポイントを考えてみます。

私は、かつて、主としてナショナルブランド(NB)の日用品を販売するEC事業の責任者をしていました。後発の部類であったので、担当になった当初は頭を抱えたものです。というのも、大半の人はECというと「安い」「ポイントがたまる」「何でも売っている」「すぐ届く」と期待するわけです。そう、EDLP(EveryDay Low Price)で、ロングテールで、即日(翌日)配送という、規模の経済がモノを言う競争環境であったので、規模の小さい後発事業者がどうやって戦っていくか、山積する課題に直面し、うむむとうなっていました。

しかし、悩んでいても何も始まらない。商品を増強したり、倉庫移転をしたり、クレーム対応したりして事業基盤を整える一方で、ちょっとした組み合わせ商品をつくってみる、商品の説明にさりげない工夫を加えてみるということをやっていると、お客さまの反応が違うと感じる局面が多々ありました。価格以外の訴求に手応えを感じたのです。

「ECはただモノを売るだけの場から大きくシフトしようとしている」

トランザクション取引のプラットフォームから、マーケティングのプラットフォームへ変貌が確実に進んでいる、そう感じました。その可能性をよりさまざまな視点から追究してみたい。今は、そんな思いで、多くのクライアント企業と仕事をしています。

このシフトを意識して、あらためてECを見るといくつかポイントがあります。

1.EC単独で考えてはいけない
ECはEC、リアルはリアルということでなく、コミュニケーション(認知・理解)上も、販促上も、全体戦略の中での位置付けを明確にする必要がある。逆に言うと、ECの特長を適切に把握し、他のメディア、販売チャネルとの組み合わせを考える必要がある。

2.ECにおけるNB商品訴求はメーカー主導で行った方がよい
NB商品の場合、売り場任せにすると、価格訴求中心になってしまう。ネットでは、どんなに一生懸命商品説明を行っても、購入するのは同じモノをより安く売っているお店ということになりかねないため、売り場側に積極的に商品説明を行う理由がない。また、他の場所でのメッセージ出しとの組み合わせを考えられるのはメーカーである。

3.コスト構造の壁
ECサイトでは、商品説明を見て、その場で購入できるため、理解促進~販売促進の一体型顧客アプローチが可能である。ところが多くの企業において、理解促進は広告担当、販売促進は営業担当が予算管理を行っている。結果として、せっかくのECが持つ機能をフルに発揮できないか、実施までの社内調整に時間がかかることが多い。

4.顧客接点
インターネット上での行動はデータ化され蓄積が可能であり、また、コミュニケーションも双方向である。レビューも含めECはモノを買うことに関するデータの宝庫であり、「態度変容の見える化」実現において、非常に大きな役割を果たせる。

これらのポイントを押さえECサイトをマーケティング活動の中でどう位置付けるかを考えることが重要です。例えば、以前、弊社のセミナーに楽天の方をお招きして対談した際には、こんな図を用いてECサイトの持つメディア価値について触れました。

メディアを俯瞰してECサイトを捉え、購買意欲の強い人が集まっている場、購買に直結している場であるという特長を生かすべく、メディア特性に応じたコンテンツの出し分けや適切な場でのキャンペーン展開、ネットからリアルへの波及効果なども意識した全体設計・実施を、組織の壁を乗り越えて柔軟に行えるか。今後はそうしたことが求められます。

実際に、多くの企業の中でEC専門部署が立ち上がり、中には上述の広告と販促の組織の壁を打ち破る試みを行っている企業もあります。

将来への布石としてのECサイト活用

次に、ECサイトをマーケティングプラットフォームとして活用することが将来に向けてどんな意味を持つのか考えてみます。

今後について考える際、忘れてはならないのは、流通におけるパワーバランスが、確実に、顧客寄りになっているということです。今後は、顧客視点で、さまざまなマーケティング活動が有機的に組み合わされ一体となって顧客サービスが展開されます。いわゆるマーケティングコンバージェンスです。

一方で、長年かけて築き上げられた業界構造があります。製・配・販の分業、広告と販促の区分などを一気に壊して、「マーケティング活動を有機的に組み合わせる」ところまで一足飛びに実現するのは難しいと思います。

そう考えると、ECサイトのポテンシャルの大きさに思い至ります。そもそもメディアとして理解促進を図りながらモノを売ることができるハイブリッド型の機能を持っていますし、データを活用して態度変容を見える化することもできます。業界構造改革に先んじて、まずはEC領域で、明確な目的意識を持って実験を始めることこそが、来るべきマーケティングコンバージェンス時代への対応の第一歩となるのではないでしょうか。

最後に、顧客の態度変容をつかむことはゴールではないという意識が大切であることを申し上げたいと思います。いかにスピード感を持って柔軟に顧客の要望に応えられるか。そのためには組織体制を構築し、実施力を高めることが重要であり、また、企業間連携も今後ますます進むでしょう。

次世代のマーケティング開発のため、ECサイトの利用価値を適切に生かす、新しい取り組みを実践していきたいと願う毎日です。