カンヌライオンズ 国際クリエイティビティ・フェスティバル #02

チタニウム部門グランプリを受賞して

(後編)

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    菅野 薫
    株式会社電通 CDC / Dentsu Lab Tokyo グループ・クリエーティブ・ディレクター/クリエーティブ・テクノロジスト

カンヌ発バック・ツー・ベーシックの予感

 

──(電通報)カンヌを通じて感じた最近のトレンドをお聞かせください。

今年のカンヌは、若干ですが、広告本来の意義を果たす広告を評価する方向に戻ったかなという感じがあったと思います。ここ数年、例えばアメリカン・エキスプレスの「スモールビジネス・サタデー」とか、広告の枠を大きく超え、企業のビジネス課題とともに社会の課題を解決するといった大きなレベルのソリューションがトレンドだったと思うのですが、今年はバック・ツー・ベーシックというか、シンプルに広告としてすばらしい作品が多かったような気がします。

 

個人的には、これまでフォー・グッドのようなその年のトレンドを持ち上げ過ぎた感じもしています。クライアントのビジネスをもっと良くするアイデアを返すのが広告だとしたら、フォー・グッドは、クライアントが社会課題を解決することを目的とした団体でない限り、クライアントから提示された解決すべきビジネス課題だけでなく、社会課題も解決するという文脈ですから、なかなか難しい構図になっているわけです。実際、今年のカンヌでもそうしたプロジェクトの応募が非常に多かったのですが、審査する側にもある種の偽善を見抜こうとする警戒心が生まれたりしていました。審査員をやっていると、フォー・グッドがなぜ強いかがよく分かるのですが、端的にいうと広告やクリエーティブを仕事に選んでよかったと思えるからなのですね。お医者さんや弁護士、警官といった職業は明快に社会の役に立ちますが、広告業はほとんどがB2Bですし、よく考えると悲しい仕事(笑)。そういう中で、僕らの技能であるクリエーティビティーやアイデアが社会の役に立つことを証明してくれる広告があったらとっても感動する。自分もそういう広告をつくりたいとみんなが思ってしまう「フォー・グッドに救われてしまう罠」みたいなものがあるのではないでしょうか。

もちろん、両方の側面が必要だと思います。クライアントの課題を解決に導く広告をつくることは広告会社として大前提の使命。でもそれだけを考えれば同時に、広告が常に社会にとって意味があるものになりえるかというと、必ずしもそうとは言い切れない場合もある。もっと広い視野で、アイデアの力やクリエーティビティーの力でソリューションを提案していこうという姿勢がないと本当の意味でクライアントのためにはならないですから、その両方の視点で評価されるのだと思います。

クリエーティブ・テクノロジストとしての挑戦と今後の課題

 

──(電通報)クリエーティブ・テクノロジストとして今後チャレンジしたいことをお聞かせください。

海外のエージェンシーの広報の方から、「クリエーティブ・テクノロジストと名乗ってやっているけど、実際のあなたの手掛けた仕事は、随分と変わっている。そういうのってエージェンシーのやる仕事だったんだ、みたいな領域にまで越境して手を出していること自体が面白いから、そこをもっとPRすればいいのに」と言われたのは、ちょっと印象的でした。

僕自身はもともとクリエーティブではなく、マーケティング・ストラテジーや研究開発の領域にいた人間で、データやマイニングの領域でマニアックにやってきた技術をクリエーティブ領域で生かすようになったんです。コピーライターやアートディレクターがデータに着目することはあまりないでしょうが、僕は専門がデータですから当然そこに目をつける。そういう発見の仕方ができたことがユニーク性につながったのだと思います。だから、扱う対象がいわゆる広告の形をしていなければならないという感じではなく、持っている技が活かせるのであればどんなプロジェクトでも多方面に手を出したいと思ってやっています。

ですから、クリエーティブ・テクノロジストとして自分の持っている技術を表現の領域で職能として開発するというのが、僕の最初のミッションで、そこで一点突破した後、ちゃんと全体が見渡せるようになれるかどうかというのが次のミッションではないかと思っています。

また、テクノロジーによって人間の存在がより際立ったり、感情を引き出す方法を見つけることに興味があります。現在、フェンシングの太田雄貴選手などスポーツ選手の方と一緒に身体とテクノロジーに関するプロジェクトをやっていて、カンヌライオンズの電通セミナーで最新の成果をプレゼンしました。テクノロジーの力でスポーツの全然違った側面を表現するプロジェクトの必要性は今後もっと広がると思いますので、そういうところにも何かしらの形で役に立てたらいいな、と思っています。でも最近は、「へえ、そういうの考えたことなかったけど、面白そうだからやってみよう」みたいな感じで全部やっちゃっているのですけど、その方が自分でも想像つかない発見ができるのでいいなと。いろいろなことをやっていきたいと思います。

──(電通報)最後に、広告関連業界の若手へのメッセージをお願いします。

近年の広告業界では多様化したメディアや手段に対してニュートラルが唱えられ、最適なソリューションに繋がる方法を見つけてあげるのが真のパートナーであり、CMをつくりたいからCMプランナーを呼ぶ、ポスターをつくるからコピーライターを呼ぶという時代ではなくなりつつあります。その一方、広い視野でソリューションを出せることを求められれば求められるほど職人が減る可能性が高まっている。しかし高いレベルの統合されたソリューションを出すには、太いアイデアを出せるような高い専門性を持っているべきです。かつては、CMをつくりたいと思って会社に入ったら、一生懸命勉強してCMのアイデアを出す技術を高めればよかったわけですが、今は何の技術を磨けばいいのか分からない。プログラミングをやった方がいいんですか、コピーをやった方がいいんですか、CMプランニングをやった方がいいんですか、戦略をちゃんと考えられるようにした方がいいのですかって、若手はみんな悩んでいる。クライアントの課題解決手段の多様性は、可能性を大きく広げた一方、業界における教育システムや技術を学ぶという点では非常に悩ましい状況を招いていると思います。

僕自身はプログラミングとかコーディングとか、デジタルのテクノロジーに関する技術を、広告表現という領域において機能させようとしたことで、ある意味、偶然のような形でクリエーティブ・テクノロジストという職能になったようなところがある。そういう意味では今の若手も、それが何であれ、まずは自分の好きなこと、自分の専門、僕はこれが得意です、これだったら人様からお金を頂けるようなプロフェッショナルな仕事にできるように頑張れるはずだ、と思えるものを自ら見つけていくしかないと思います。

プロフィール

  • 087
    菅野 薫
    株式会社電通 CDC / Dentsu Lab Tokyo グループ・クリエーティブ・ディレクター/クリエーティブ・テクノロジスト

    2002年電通入社。データ解析技術の研究開発業務、国内外のクライアントの商品サービス開発、広告キャンペーン企画制作など、テクノロジーと表現を専門に幅広い業務に従事。
    2014年に世界で最も表彰されたキャンペーンとなった本田技研工業インターンナビ「Sound of Honda /Ayrton Senna1989」、Apple Appstoreの2013年ベストアプリに選ばれた「RoadMovies」、東京オリンピック招致最終プレゼンで紹介された「太田雄貴 Fencing Visualized」、国立競技場56年の歴史の最後の15分間「SAYONARA 国立競技場 FINAL FOR THE FUTURE」企画演出など活動は多岐にわたる。
    JAAA クリエイター・オブ・ザ・イヤー(2014年)/ カンヌライオンズ チタニウム部門 グランプリ / D&AD Black Pencil / One Show -Automobile Advertising of the Year- / London International Awardsグランプリ / Spikes Asiaグランプリ/ ADFEST グランプリ / ‎ACC CM Festival グランプリ / 東京インタラクティブ・アド・アワード グランプリ / Yahoo! internet creative awardグランプリ/ 文化庁メディア芸術祭 大賞 / Prix Ars Electronica 栄誉賞 / グッドデザイン金賞など、国内外の広告、デザイン、アート様々な領域で受賞多数。

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