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金融ビジネスにイノベーションを!No.8

“正解のない時代”の金融機関の生き残り策とは?

2014/09/01

地域の企業と金融機関が共に成長を支え合う「バリューチェーンファイナンス」。前回に続き、電通国際情報サービス(ISID)の江上広行さんに、バリューチェーンファイナンスが求められている理由や金融業界を取り巻く変化について聞きました。

高度成長期を支えた、“パワーの金融”

――前回のインタビューで“パワーの金融”という言葉が出てきました。なぜ日本の金融ビジネスは、パワーの金融になってしまったのでしょうか?

江上:お金を持っているものは常に強いので、日本に関わらずどこの国でもパワーの金融ビジネスを行っています。ただ、日本にはもともと、“愛の金融”を育む土壌がありました。信用金庫や信用組合の元となった「無尽講」など、日本文化として古くから持っていた共同体による相互互助の精神があったのです。地域に根差した銀行が、中小企業の経営者や地元の生活者と密にコミュニケーションを取り、温かい信頼関係を築き上げ、一緒になって地域や社会を盛り上げるというベースが存在していました。

ところが戦後に欧米型の投資金融をベースとした手法が入ってきて、徐々に金融機関が顧客をコントロールするという“パワーの金融”にシフトしてしまったのです。

高度成長期の日本の企業は、投資をすれば必ず儲けが出せました。成長は右肩上がりだし、作れば売れるし、スーパーマーケットなどアメリカの経営手法を導入すれば成功できたビジネスも多かった。つまりそこには、成功モデルと呼ぶべき、だれかの真似をすればよいという正解がある状態でした。こういう時代は、金融機関が自らの儲けを中心にビジネスを構築する“パワーの金融”を行っていても、借り手も貸し手も成長することができました。事業者や生活者は、お金を借りられるという権利を得ることに必死だったのです。だから、「お金」を持つものは強い。今日でも、金融成長期に形作られた金融ビジネスモデルのベースは変わっていません。

複雑な問題が多面的に絡み合う、今日の金融ビジネス

――現代はどうなのでしょう? “パワーの金融”は、通じなくなっているのでしょうか?

江上:現代は、いくつもの問題が複雑に絡み合う正解のない時代です。グローバル化が進展し、競争相手はもはや国内だけではとっくにない。国内では人口減少が進行し、どう考えても経済は成長し続けることは考えにくい。真似をする誰かもいなければ、お金を借りまで、ビジネスをする人も減ってくる。まさに課題先進国といってよい状態でしょう。

金融のビジネスは、実態経済を支えるものだから、金融ビジネスだけが成長することはない。だから、相対的に「お金」がもつパワーは弱くなっている。そうなってくると、金融機関が果たす役割も複雑になってきますよね。顧客と銀行といろんな利害関係者が複雑にからみあって、成長しない経済のなかでお互いに悩んでいる。顧客の問題を自分と切り離して、処理することができなくなってくる。

この構造は、子育てにも似ていますね。ゲーム機を取り合う兄弟喧嘩をしている子どもに向かって、それを子どもだけの問題として注意しても解決はしませんよね。子どもの問題は親の問題でもある。子どもだけの問題だと思って対応しても、うまくいかない。親である自分が変わらなければ子どもは変わらない。

今までの金融機関は“パワーの金融”を重視し、顧客が抱える問題を、あくまで顧客だけの問題としてコントロールしていればやっていけました。しかし、日本が課題先進国になってしまった現代においては、それでは通用しません。金融機関は、地域や企業の一員として、今、さまざまな問題に自ら関わっています。こうした複雑で正解のない課題を“われわれの悩み”として捉え、どう動くか考えなければなりません。金融機能は地域社会という身体に血液を送り出している心臓である、その自覚と愛情を持って、どう振る舞うべきか、どんな影響を与えるのかを想像する必要があると思います。

7割の確率で倒産を言い当てる!? 進化する金融システム

――金融機関が変わるために、どのようなことが必要だと思いますか?

江上:業務改革と意識改革でしょうか。銀行員の仕事は、時代の変遷とともに複雑化しています。多くのデータを扱い、管理し、モニタリングをしなければなりません。業務が多様化しているので、支店の現場の銀行員はとても忙しくしています。忙しくなってくると、形式的にルールに従って処理するような業務がどんどん作られます。生きているお客様を、型にはまったデータとして処理してしまう。データを作っているのは間違いなく人間なのですが、その中にある人の意識とか行動には着目せずに、出た結果だけを管理してしまうんですよね。

金融機関のシステムはかなり進んでいて、実は決算書の数字を入力するだけで、「この企業の倒産確率は〇%です」という数字が出るプログラムまで存在しているんですよ。既に7割ぐらいの精度で当たるモデルができているのです。そうなってくると「不確かな情報や、自分の目を信じるよりは…」と、誰がやっても同じ結果になるオペレーションを頼りにしてしまう。この状態にどうメスをいれていくかが重要ですね。

――意識改革についてはいかがでしょう? どういった意識を変えるところから始めるとよいのでしょうか。

江上:まずは「短期的なスパンで結果を出さなくてはいけない」という固定概念を手放すといいのではないでしょうか。

金融は地域の成長とともにある長期のストックビジネスです。しかし、将来どんな経済社会の変化が起こるかなんてわかりません。「それなら」と、ついつい力を入れ過ぎてしまうのが短期的なフロービジネス。投資信託や保険の販売など、住宅ローンの肩代わり競争のようなビジネスをイメージしていただけるとわかりやすいかと思います。それは、短期的には成果はあるけれど、飲めば飲むほど健康を害するドーピングのようなものなのです。

もちろん、銀行員も一生懸命なんですよ。結果を残そう、成果を上げようと、生き残りを懸けてがんばっている。でも、短期的な成果を追えば追うほど、長期的に付き合える顧客が減ってしまう。結果的に、自分たちの根っこである地域という土壌を腐らせてしまうことにもなるんです。ですから、お互いが幸せになることを目指して長期的なお付き合いをすることが欠かせないのです。