企業の積極的な参加に期待高まる

「カケアガレ! 日本」

東北発、世界へ_産官学で取り組む津波防災プロジェクト_「カケアガレ!日本」企業の積極的な参加に期待高まる
 

「カケアガレ!日本」は、東北発の新しい津波防災プロジェクト。産官学連携の下、東日本大震災の経験や教訓の伝承、避難行動の習慣化を目的に、2012年9月、宮城県岩沼市で初めて行われ、実施エリアを拡大している。復興庁の「新しい東北」先導モデル事業に選ばれ、タイでも訓練が行われた。従来の訓練とどう異なるのか。その具体的な活動と成果や課題、今後の展開について、インタビューを交えて紹介する。


 
   

地域特性に応じた訓練プログラム開発目指す

プロジェクトのコンセプトは「津波避難の“グランド・メニュー”」、すなわち地域事情を踏まえた訓練プログラムの開発だ。プログラムを活用した訓練を繰り返すことで地域ごとの避難課題を解決、避難行動の習慣化を推進し、全国各地や海外での展開も図っている。

訓練の実施に当たっては、河北新報社(地域対応)、東北大災害科学国際研究所(科学的根拠)、電通グループ(企画、企業マッチング)の3者で構成する「カケアガレ!日本」企画委員会を中心に、自治体や地域、企業やNPO・NGO、全国のメディアが連携(下図参照)。産官学それぞれの知見やノウハウを活用し、役割を果たしながら活動を展開している。

実施体制図

 

   

より高く、高速道路へ。より速やかに、自動車で

プロジェクトは、「津波避難訓練+ワークショップ」を基本スキームとしている。訓練終了後は住民参加型のワークショップやアンケートを実施。市民団体によるブース出展なども通じて防災意識を高める。

岩沼市での第1回訓練では、周囲に山や高い建物がないことから、唯一の“高台”である仙台東部道路(高速道路)路側帯の避難階段を避難場所に設定した。対象住民の約3割、約1450人が参加。「高速道路に駆け上がる」地域ルールが注目され、多くの全国メディアが報道した。

岩沼市同様、周囲に高台がない宮城県山元町での訓練(13年8月)では、「車避難」をテーマに定め、約3000人、車両600台が参加し、その課題を検証した。今年6月には河北新報社の巡回型ワークショップ「むすび塾」と連携し北海道釧路市大楽毛地区で実施。今年度中には岩手、福島の両県でも展開される予定だ。

「カケアガレ!日本」の第1回は岩沼市で実施
高速道路路側帯の避難階段を避難場所に設定した   住民の防災意識向上を目指し、訓練にワークショップ
「カケアガレ!日本」の第1回は岩沼市で実施し(上)、高速道路路側帯の避難階段を避難場所に設定した(左下)。住民の防災意識向上を目指し、訓練にワークショップ(右下)を組み合わせている点がプロジェクトの特徴だ

 

   

スマトラ沖地震から10年。プーケットでもカケアガレ!

  プーケットでも"カケアガレ!"。約70人の児童が校舎の裏山に駆け上がった
 
プーケットでも"カケアガレ!"。 約70人の児童が校舎の裏山に駆け上がった

04年に発生したスマトラ島沖地震によるインド洋津波で甚大な被害を受けたタイ・プーケット。10年の節目に当たり、6月18日、東北大災害研が中心となって、防災授業と津波避難訓練を現地バンカリム小学校で実施。4年生から6年生まで約70人が参加した。

同小学校は当時、校舎の2階まで全て浸水した。現在の3階建て新校舎では3階を避難場所としている。今回の東北大災害研による授業では、津波のメカニズムやその恐ろしさを説明した後、「今、津波が来たらどこに逃げるか」をテーマにグループワークが行われ、児童らは津波の浸水域マップと照らし合わせて安全な場所を確認し合った。訓練では、現在の校舎を超える津波発生を想定し、児童らは校舎より高い裏山に駆け上がった。

 
   

国連防災世界会議では東北発の取り組みを発信

国内外で着実に実績を積むカケアガレ!日本。訓練だけでなく、ペット同行避難や、高齢者、障害者らの誘導をテーマとするワークショップやシンポジウムの開催、ポータルサイト(kakeagare.jp)の開設などを通じ、情報の共有、発信にも力を注ぐ。こうした活動の成果が認められ、13、14年度の復興庁「新しい東北」先導モデル事業に選ばれた。

プロジェクトへの期待が高まる中、活動のさらなる充実、活性化に向けた鍵はどこにあるのか。企画委員会の木村浩人氏(河北新報社)は、「鍵は企業参画にある。企業の商品・サービスを避難プログラムに組み込む可能性は大いにある。来年3月には仙台で第3回国連防災世界会議が開催される。命と地域を守る被災地・東北発の取り組みを国内外に発信し、世代を超えて地域で受け継がれ、定着するよう努力したい」と語っている。


 

   
インタビュー

「防災」への取り組みは、企業の事業活動にも直結する

 
   
今村文彦氏(東北大災害科学国際研究所所長・教授)
 

今村文彦

東北大災害科学国際研究所所長・教授
 

専門は津波工学・自然災害科学。東日本大震災以前から巨大津波対策の弱さに警鐘を鳴らし続けてきた。自然災害学会前会長、内閣府中央防災会議専門調査会委員など歴任。

 

「カケアガレ!日本」プロジェクトの中核研究機関になっている東北大災害科学国際研究所所長で、津波工学の第一人者でもある今村文彦同大教授に、同プロジェクトの課題と今後の方向性について聞いた。

プロジェクトでの避難訓練のコンセプトは、各地で大きく異なる地理的条件や人口規模、交通環境などに則したきめ細かいメニュー化と訓練の習慣化だ。それを実のあるものにするためには、解決すべき多くの課題がある。

この中で二つ挙げるとすれば、一つは住民の世代間格差。高齢者は防災意識が高く訓練への参加意欲もあり、子どもたちは学校間の差異はあるものの訓練や行事に参加している。一方、働き盛りの世代は比較的参加が難しい。どの世代も習慣的に参加できる訓練の在り方を検討し、取り入れていきたい。

もう一つは、過去の経験や研究を超えた規模の地震や津波への対応。実際、東日本大震災では指定避難場所にも津波が押し寄せ、約90人が亡くなってしまった。歴史的な教訓が地域に残っていたり、ある程度の訓練を行ってきたとしても、想定を上回る事態が起これば、最後は個々の状況判断力が生死を分ける。その力を養っていくための教育・啓発活動も訓練の一環となる。これらの課題解決に向けた対応策を検討し、多様なメニュー開発につなげていきたい。

今後、カケアガレ!日本の取り組みをワンステップ上げるためには、より多くの企業の本業での参画が必要と考えている。防災への取り組みが、企業の事業活動に直結する可能性があることをぜひ知っていただきたい。例えば、自動車やカーナビメーカーにとって、このプロジェクトは防災機能実装のための実証実験の場として大きな意味を持つだろう。東日本大震災のときも、乗車したまま津波に流されて多くの人たちが命を落とした。カーナビで即時的な避難誘導をするシステムの開発や、津波に流されても車内の安全を確保できる構造の研究など、ドライバーの命を守る防災技術のテーマはたくさんある。ITや交通、インフラ関連などで、これまで津波や防災と関連が薄いとされてきた企業の参画も期待している。

東日本大震災からの復興はまだ道半ばだ。避難訓練よりもまちづくりが先ではないかという声もあるが、今でなければできないことがある。避難への意識が低下する前に、経験や記憶を共有し、産官学一体となってこのプロジェクトを推進していきたい。


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