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ソーシャルビジネスの新しい仕組みが

世界を変える/中村俊裕(コぺルニク)

2014/08/22

途上国支援にはさまざまな公的・民間の機関が取り組んでいるが、今も多くの地域、人々が支援を必要としている。コペルニクは、「技術」を通しての新しい途上国支援の仕組みづくりを実践し、注目を集めている国際的なNPOだ。その仕組みや活動の背景、今の時代に求められる国際的なNPO活動などについて、共同創設者でCEOの中村俊裕氏に話を聞いた。


安価でシンプルな技術こそが途上国で求められている

私たち米国NPO法人コペルニクはこの4月に、日経ソーシャルイニシアチブ大賞の国際部門賞を受賞することができました。「技術」を途上国に波及させるために、個人や企業の寄付者と途上国の活動団体、そして製品製造者の3者をつなぐ事業モデルを通じて、貧困の削減を推進することがコペルニクのミッションです。今回の受賞は、その取り組みが経済の一端を担うビジネスとして、さらには社会一般の企業活動の方向性と合致するものとして評価されたものと受け止めています。

一口に技術といってもさまざまですが、私たちは、途上国の課題を解決し、生活を改善するものとして捉えています。例えば、ソーラーランプや浄水器、調理用コンロなど、安価で使いやすく壊れにくいシンプルな製品が求められています。
対象分野は、エネルギー、水、衛生、教育、農業、保健など多岐にわたります。

事業の基本的な仕組みとしては、まずコペルニクが途上国向けに開発された技術を探査し、現地パートナーに情報提供する。現地パートナーは、どの製品を普及させるか提案書を作ります。それに基づいてコペルニクがプロジェクトを立ち上げ、クラウドファンディングや企業からの寄付金などで必要な資金を募る。資金が集まったら、コペルニクは現地パートナーに製品を届けます。現地の人々は、現地パートナーを通じて、その地域の適正価格で製品を購入。現地パートナーは、手数料を除いた売上金をコペルニクに返済。その返済金が、新たな技術の購入資金に回されます。

インドネシアのパートナーたちと(2011年7月、ロンボクで)
インドネシアのパートナーたちと(2011年7月、ロンボクで)

「ラストマイル」に支援が届かない現状を打破したい

コペルニクを立ち上げた背景には、途上国でさまざまな国際的な公的・民間機関の支援活動が行われていても、「ラストマイル」といわれる、インフラも未整備で最貧層の人たちが住む遠隔地域、農村地域にはなかなか届かない、という現状があります。また、安価な製品を開発できる技術力のある民間のベンチャーなどが、自分たちで販路を広げるのはハードルが高い。その「技術」さえあれば、目に見える形でラストマイルの人々の生活をすぐにでも変えられるのに、です。

ソーシャルビジネスの観点からいうと、「技術」を起点にすることによって、草の根的により多くの企業の参画を促すことができます。途上国でのニーズが高く、市場インパクトが強い技術が必要と聞けば、ベンチャーの技術者たちは意欲的に製品開発にも取り組んでくれます。一方、寄付金を拠出する企業にとっては、技術に裏付けられた製品は、支援対象として分かりやすいので、参画意欲も高まります。技術が核にあれば、製品開発・経済的支援両面でのパートナーシップの輪が広がりやすいのです。

相互依存の時代に必要な革新的な発想

企業とのパートナーシップの構築 企業とのパートナーシップの構築は、私たちが非常に重視している点で、技術や寄付金がどのような社会的リターンをもたらしたのか、数値化された「インパクトアセスメント」として情報提供するようにしています。その調査のために大学院生らを現地に数カ月派遣するフェロー制度も積極的に推進しています。

一方、企業側の意識としても、最近は本業とCSR的な活動を画然と分けて考えるのではなく、社会貢献活動をステップに本業のビジネスの在り方を考えたいというケースが増えています。そのような企業とは私たちもとことん議論を重ね、できることを一緒にプランニングしたり、支援先の国に足を運んでもらい、現地のニーズを肌で感じてもらうよう働き掛けたりしています。

これから先、途上国での直接的な支援のインパクトを大きくしていくために、より多くの個人や企業を巻き込んでいくプラットフォーム機能を強固なものにしていきたいと考えています。それぞれが持つリソースや知恵をつなぎ合わせ統合していけば、国・地域間の不均衡や、途上国が直面している貧困問題をより効率的に解決していけるはずです。

NPO活動といえば、かつては国や公的機関から受ける資金的な援助が頼りでしたが、今は企業や個人も含めた多様な支援の仕組みをつくることができます。ソリューションにおいても、独創的なプロジェクトにも積極果敢に取り組むことができます。一方、国民一人一人の意識としても、国・地域の相互依存化がますます強まっていく中で、世界の出来事を自分ゴト化して考えなくてはいけない時代になっています。

そういう時代だからこそ、これまでの制度や習慣にとらわれない革新的な発想が必要になってきます。コペルニクという名称を付けたのは、あの地動説を唱えたコペルニクスのように、世の中の見方をガラリと変え、途上国支援の世界に大きなインパクトを与えたいと考えたからです。