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髙崎卓馬x樋口景一x磯島拓矢 鼎談No.3

「考える技術」(後編)

2014/08/29

考えることの重要性は理解できる。しかし、日々の仕事や生活の中で「考える技術」を深めていくためには何から始めればいいのだろう――。最初の一歩をどう踏み出すべきか悩んでいる人のために、3人が自分の経験を振り返りアドバイスする。

要求のバーを自ら上げ、考える技術を磨く

髙崎:このシリーズでは、3人とも「考える技術」の大切さを伝えているわけですが、若い人たちは具体的にどうやって、身につければいいのでしょう?

樋口:まず、要求されるバーを常に上げたままにすることが大事。“まあ、このくらいでいいだろう”と思ってしまったら、その人は伸びません。昔は、口うるさい先輩や社会的な期待感がバーを引き上げてくれたけれど、今は消えがちなバーを自ら設定しないといけない。クライアントを思い浮かべて、あの人のためにはここまで越えないと、というのも方法でしょう。もう一つ、ありとあらゆる仕事を同時にやることに、どれだけチャレンジできるか。忙しくなるとクオリティーが下がると考えがちですが、逆。一つ一つの仕事の側面が影響を与え合うことで、普遍性のある大事なものが見えてくるし、それぞれの仕事のクオリティーを保つことにつながるんじゃないでしょうか。

磯島:『言葉の技術』で、四つの扉で考えることを紹介したのですが、そのうちの一つ、「時代・社会」の扉を若い人ほど意識してほしい。自分らしい表現を考えるのも当然だし必要だけれど、狭いところに入りやすい。今の社会や人々の気分を自分はどう思っているのか、その人たちに何を見せれば喜んでくれるのか。バランス良く考えてみるといいと思います。

樋口:コミュニケーションは、どれだけの意味を世の中に投げかけられるのか、だと思います。成立させるためには、多くの人と共有できる部分がないといけない。SNSなどを使っていると、自分の周りの限られた何人かだけが世の中だと思いがちだから、逆のベクトルを常に考えるべきなのかもしれません。

髙崎:チームの中で、自分という個人がどう機能し、どこに責任を持っているのかを意識することも大事です。外野に犠牲フライが上がったとき、みんなで同じ球を追いかけるのは効率が悪いし無意味。プロなら、球を追いかける人の肩の強さを認識し、自分はどこで中継すれば失点を防げるのかを考えるべき。自分に責任を与え、それを周囲が認識してくれ、さらに期待してもらえるように結果を出す。仕事はそうやって循環するものだと僕は思います。プロとしての存在価値をどこにつくり、どうそれを磨くかの自己認識を最初につくらないと。いっしょに仕事してワクワクするのはそういう人たちですから。

樋口:日々、違うことが始まる中で責任を背負うためには、必要な技術を自分で更新せざるを得ない。その繰り返しですよね。

髙崎:『表現の技術』を読んでくれたクライアントさんから、プレゼンが終わった後に「サプライズはどこですか」って言われたことがあります(笑)。本を書いて、自分でバーを上げてしまった。

日常的に、どんな“筋トレ”をしている?

髙崎:2人は、技術を磨くために続けている “筋トレ”はありますか?

磯島:映画を見て、いろんな文章を読むことかな…。映画って、みんな必死に作ってますからね。それを見るだけで有意義だけれど、成功作でも失敗作でも、そのポイントを考えることがとても勉強になる。誰もが必死なのに、ある時は成功してある時は失敗する。それはなぜかを考えながら作品、監督のインタビューや評論、自分が見てきた蓄積と照らし合わせてみるのが勉強になります。表現のことだけでなく「これでヒットするんだ」みたいな興行的発見もありますし。

髙崎:世の中が受け入れるものと、自分の感覚の距離をつかむってことですか?

磯島:そうそう。いろんなことを効率良く考えられるというか。

樋口:月20冊、本を読むことを何十年も続けているのですが、表紙だけを見て買うんです。パッと目を引くものの中にある正体を考えることは、広告の仕事に通じているし、内容に興味がなくても、考える足場はたくさんあった方がいい。それから、マーケティング局出身なので、調査データを非常に細かく見るようにしています。続けていると、新しいデータの中で起きている特別な変化に気付けます。

髙崎:僕は結構いろいろやっているんです。テレビは3日分、全局録画しています。役者さんやタレントさんに来ている波のようなものを自分の肌で感じていたいから。確信を持って起用したいし、何をやるとどう見えるかを自分で分かっているかどうかは大きい。責任という意味でも。あと、「広告警察」というのを長くやっています(笑)。電車の中吊りを見た瞬間に、何が良くないのかをすぐに考えて、原因を推測して、作業プロセスをシミュレーションして、それで勝手に修正して。さらにその修正版がどのくらい世の中にインパクトありそうかを考える。そういう脳内ゲームみたいなのを高速でやっています。僕はそれが楽しくて仕方ないからもう趣味みたいなもので。一緒に移動する後輩はたいてい引いています。

磯島:引くだろうね(笑)。

樋口:新入社員だったころ、1年間、夕飯を先輩が連れて行ってくれました。最初の週は毎日トンカツで、先輩厳選の5軒に日替わりで行く。同じものを食べ続けると、それぞれの良さが分かってくる。さらに、次の週は餃子で5軒、次の週は焼肉5軒とやっていると、カテゴリーの隆盛も見えてくる。お店ごとの差とカテゴリーの差。「マーケティングとは、こういうことか」って、身をもって学んだ1年でしたね。

髙崎:すごい話。その先輩はそういう理解のさせ方を意図してやっているわけだよね。

樋口:はい。あれは“筋トレ”だったんだと今、思い出しました。

髙崎:面白いなあ。そういう変わった人がいっぱいいた方がいいですよね。

磯島:しかし、トンカツ5日間はきつい(笑)。

髙崎:きついですね(笑)。本日は、面白い話をたくさん聞けました。ありがとうございました。

磯島・樋口:ありがとうございました。

(了)