企業の未来のためにできること #13

セルフィーの時代に、自己表現価値をつくる7つの方法

―デジタルが変えるブランド戦略の今(第3回)

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    小西 圭介
    株式会社電通 マーケティングソリューション局 コンサルティング・ディレクター

■セルフィーの時代と自己表現価値の変化

こんにちは。皆さんは「セルフィー」という言葉をお聞きになったことがあるかと思います。最近では、いわゆる写真やビデオなどで「自分撮り」をして、ソーシャルメディアで共有することが世界的なブームになっています。

生活者が主役のソーシャルメディアの浸透によって、自分のライフストーリーを発信・共有することの価値を認識した結果、こうした自己表現が脚光を浴びており、まさに現代は「セルフィーの時代」ともいえるでしょう。

ブランドも、こうした価値を支える重要な存在です。そもそもブランドには、モノやサービスなどの機能的な価値(〜な機能が得られる)だけでなく、それによってユーザーが得られる気持ちなどの情緒的な価値(〜な気分になれる)、そして自己表現的な価値(〜な自分になれる)が存在しています。

あるブランドを購買・所有したり、利用することによって、なりたい自分に近づけたり、自分らしさ、価値観やスタイルを表現できる価値をもつわけです。誰しも自分のお気に入りのモノや、ライフスタイルへのこだわりを表すブランドがあるでしょう。

しかし、こうした自己表現価値の意味もかなり変わってきています。生活者が成熟し、自分の価値観をより大事にするようになって、いわゆる「ブランド信仰」―憧れとしてのブランドを所有する価値から、自分の生活や価値観のパーツとして使いこなしたり、編集したりすることが好まれるようになりました。
今日ではラグジュアリーブランドでさえ、こうした傾向と無関係ではいられません。

さらに、デジタルやソーシャルメディアを通じて、セルフィーに象徴されるような、生活者が自身の表現やストーリーを発信することが世界的に広がっています。例えば、「YouTuber」と呼ばれる人たちがオンラインで動画コンテンツ発信を拡大し、企業発信のオンラインコンテンツを上回るアクセスを稼いだりしており、ブランドもそれを活用してマーケティング・インパクトを生み出す時代になっています。

実はこうした生活者の変化は、ブランドが新たな自己表現価値を創造する大きなチャンスを生み出しているのです。

ブランドが自己表現価値をつくる7つのアプローチ

■ブランドストーリーは、フィクションからドキュメンタリーへ

例えばあるアクションカメラのブランドはユーチューブなどを活用して、エクストリームスポーツなどを通じ自己表現するユーザーによるコンテンツ発信・共有を促進し、一気にブランド構築とビジネスの躍進に成功しました。

現代のブランディングにおいては、こうしたファンやユーザーの自己表現を通じて、価値を共に生み出していくことは不可欠な手段になりつつあるとすらいえます。
ブランドのストーリーも、作り上げられたイメージやフィクションから、共感できるリアルなユーザー体験=ドキュメンタリーにシフトする傾向にあります。

そのブランドを使うことで、自分がどんな個性を表現できるのか。自分の生活や人生にどんな意味や自己肯定感をもたらすのか。
このように、自己表現ツールというカテゴリーに入ったブランドは、製品のコモディティー化を脱して高いロイヤルティーと付加価値を得ることができるのです。

ここでは、ブランドが自己表現価値を創るための、7つのアプローチ手法について述べてみましょう。

1.ブランド自体が明確な個性・人格を持つ
ブランドの個性や人格、大切にする価値観、徹底したこだわりがファンや支持者を生み出すとともに、明快な自己表現スタイルを提供する。人が主役の時代、ブランドパーソナリティーはより重要になっている。

2.ターゲットやコミュニティを特定する
ブランドに共感できる、自分にふさわしいと思ってもらうために、ターゲットを絞って価値観を提示する。またブランドがサポートするコミュニティを特定する。これは必ずしも市場を狭めることではなく、強い自己表現価値は賛同者とフォロワーを生み出し得る。

3.ユーザーのブランドストーリーを発見・共有する
製品からユーザーに焦点を当てる。ユーザーがブランドを通じて実現している人生や生活のエピソードを発見し、共有することで共感や感動を生み出す。アンバサダー(ブランドの代弁者となる著名人やユーザー)の体験共有を活用する。

4.製品やコンテンツをカスタマイズ、編集可能にする
自分仕様のデザインや自己編集のしやすさ自体が価値となる。デジタル技術によるマス製品のカスタマイゼーションの進化を活用する。編集・カスタマイズ可能なアクセサリーやコンテンツを提供する。LINEのスタンプも感情表現ツールとなったブランド要素の例。

5.生活テーマを主語にコンテンツやサービスを創造する
モノやブランドの訴求ではなく、ユーザーにとって魅力的な生活と、自分らしさを実現するためのコンテンツマーケティングを強化する。また、ブランド使用を通じて生活の目標達成をサポートするパーソナルサービスやアプリなどのプラットフォームを提供する。

6.コラボレーション(コ・ブランディング)を活用する
自己表現ツールとしてのブランドにとっては、柔軟性も大切な要素となる。異なるブランドとのコラボを通じて、多様なライフスタイルにブランドが柔軟に適応し、ユーザーが価値を「キュレーション」(編集)できる魅力を生み出す。

7.人やコミュニティを軸にブランドと交流する、関わる
ブランドのコミュニティを形成して、ユーザーが参加・交流する場を持つことで自己承認や帰属意識、自己表現の機会を生み出す。あるいは既に存在する、ブランド価値実現と親和性の高い生活者のコミュニティを応援することも効果的である。


もちろん、自己表現価値にも文化性・国民性の違いがあります。例えばよく日本のコンシューマーは受動的といわれたりしますが、必ずしもそうではありません。
日本においては、あるコミュニティで共有されたコンテクストやルールの中で個性を発揮することや、違いよりもむしろ共感を求めることが重要であるようです。また、キュレーション能力の高さも特徴として挙げられるかもしれません。

いずれにせよ、顧客と直接つながれるデジタル時代のブランドには、ファンやサポーターの力を借りて自己表現価値を一緒に創り、共有していくことで、価値向上を図れる大きなチャンスが生まれているのです。

機能価値だけではブランドの差別化が難しくなっている時代だからこそ、顧客にとっての自己表現の価値を軸にしたブランド戦略を、あらためて検討してみてはいかがでしょうか。

(第4回以降につづく)

プロフィール

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    小西 圭介
    株式会社電通 マーケティングソリューション局 コンサルティング・ディレクター

    1993年入社。2002年米国プロフェット社に出向し、デービッド・アーカー氏らとグローバル企業のブランド戦略構築に携わる。現在はコンサルティング・ディレクターとして、数多くのクライアントのブランド・マーケティング戦略サポートを行うとともに、多数の講演、執筆などで、デジタル時代の新しいブランドおよびマーケティング戦略モデルを提唱している。著書「ソーシャル時代のブランドコミュニティ戦略」、訳書に「顧客生涯価値のデータベースマーケティング」(いずれもダイヤモンド社)他。

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