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顧客を動かすデジタル・マーケティングの実践No.14

EコマースのRe-Invention(後編)

~顧客体験価値を最大化するEコマースの仕組みづくり~

2014/09/18

Eコマース(EC)を成功に導くためには、カスタマージャーニーマップで顧客の購買行動プロセスをマッピングし、体験価値をデザインしていくことが重要となる。

事例から見るカスタマージャーニーマップと体験価値創出

今回は、カスタマージャーニーマップ活用方法や、体験価値を創出する方法について、株式会社ロフトワークの松井氏と株式会社エスキュービズム・テクノロジーの武下氏に、それぞれの取り組み内容やポイントについて話を聞いた。


「カスタマー・エクスペリエンス・デザイン」

株式会社ロフトワーク プロデューサー 松井創氏

例えば自社で運営するデジタルものづくりカフェ「FabCafe Tokyo」の場合は、カフェ利用、ワークショップへの参加、 FABマシン(3Dプリンターやレーザーカッターなどのデジタル工作機器)の利用など、総合的な体験から顧客のロイヤルティーを高めることをゴールとしてカスタマーエクスペリエンスをデザインしています。

また、プロジェクトでカスタマーエクスペリエンスをデザインする際は、カスタマージャーニーマップをつくります。対象顧客が最初に場所や空間、プロダクトに出会ってから買ってもらうまでのコンタクトポイントと顧客が取る行動、感情を時系列にマッピングして、ゴールに対して、その間にどのような施策を打てるのかを一つ一つ図式化、ビジュアル化していきます。(下の図は、企業の採用サイト用に就職活動中の学生の行動と感情をカスタマージャーニーマップで可視化したもの)

具体的には、顧客の購入に対する感情の高まりを時系列で捉えて、ウェブとリアル、メルマガやSNS、テレビの取材などさまざまな施策をプロットし、各コンタクトポイントにおいてどのような取り組みをすべきか、顧客の感情はどうか、顧客の感情に対してできていない課題は何かなどを全て洗い出します。この作業はプロジェクトに関わるスタッフや経営者などみんなでディスカッションしながら行います。

カスタマージャーニーマップをはじめとするカスタマーエクスペリエンスのデザインに際しては、以下の6つのステップがあります。①顧客を理解する(Understand)、②顧客を観察する(Observe)、③取り組みを決める(Point of View)、④ブレスト・企画する(Ideate)、⑤小さく実験してみる(Prototype)、⑥検証する・評価してもらう(Test)です。これを何回も繰り返し、改善しながら本番で実践していきます。カスタマージャーニーマップはできたら完成ではなく、状況を見ながら常に改善していくことがポイントです。

そして、実際に施策を打つ場合には、青写真(サービスブループリント)を描く必要があります。顧客体験をマネジメントするECサイトや店舗以外のコンタクトポイントを含め、時間をかけて総合的に考えることが必要です。テクノロジーは進化しますので、コンタクトポイントに関してPDCAを行う技術やアクセス解析などはいろいろと用意されていきます。その中でわれわれがすべきことは、カスタマーエクスペリエンスの企画にどれだけ時間をかけるかということです。


「Zoff、丸善&ジュンク堂の顧客体験を高めたテクノロジー」

株式会社エスキュービズム・テクノロジー 代表取締役 武下真典氏

顧客体験価値を高めるためのテクノロジーの活用について紹介します。近年、O2Oやオムニチャネル(販売・流通チャネルの統合化)の話題が多くありますが、有効な活用についての解は出ていない状況で、われわれも追求している最中です。オンラインに限らずオフラインでもタブレットを使用する事例が多くなっています。店頭の接客、決済から配送に至るまでシームレスな体験を提供してくことがポイントになっています。

ECサイトの設計、構築に関して大きく2つの視点があります。1つは店舗中心の小売りがECサイトを持つ意味で、もう1つは顧客体験価値を向上させるためのテクノロジーの選択です。例えば眼鏡小売りの「Zoff」は、リアル店舗の購買行動をECサイトでも再現するために、目的の眼鏡が決まっていない顧客が、お店で眼鏡を選ぶのと同じような視点から好みの眼鏡を見つけられるようにしました。そして、度付きの眼鏡を購入できるECサイトを構築しました。「丸善&ジュンク堂」はアマゾンや楽天ブックスなど他の専業ECサイトに対抗するために、リアル書店を持つ同社にしかできない視点で、確実に今日手に入れられることを売りにしたECサイトを立ち上げました。どちらの事例も、リアル店舗のある小売りが、独自の視点で顧客体験価値を創出するECサイトを考え、テクノロジーを活用することで実現し、具体的な成果につなげています。

今後は、ECサイトでデータを蓄積し、より効率的なマーケティングを実現するための分析をするフェーズに入ります。ECサイトのオープンは、マーケティングの始まりです。得られたデータを基にして、体験価値を改善していくことが重要になります。


カスタマージャーニーマップと体験価値や理想的な未来像を描くことがファーストステップ

ロフトワークの松井氏にお話しいただいた、カスタマージャーニーマップを使った顧客の体験価値向上施策を行うには、自分たちでブレストを行い、アイデアを出し合っていくことが必要で、これには相当の時間を必要とします。

一方で、エスキュービズム・テクノロジーの武下氏にお話しいただいたECサイトの運営に関しても、多様なデータを抽出・分析し、施策に反映させて運用を行い、得られたデータをフィードバックしていくなど、相当に労力を要するものになります。これらの作業を効率化するために、電通とエスキュービズム・テクノロジーで「売れるシナリオが見つかる、ECプラットフォーム DECIDE」を開発しました。「DECIDE」はEコマースに関わる機能とデータを一元管理し、施策に展開できるツールで、ECサイト運営をシンプルにし、作業を省力化できます。特長としては「顧客体験(シナリオ)の設計」「運用の負荷軽減」「変化に対応できる柔軟なシステム」の3つがあります。

顧客視点でシナリオを設計して各種APIでフレキシブルにシステム環境を構築可能で、実行の成果をデータで一元管理し、簡単にPDCAで改善することができます。このようなツールを活用することで、本来重要なカスタマージャーニーマップを描く作業に注力できる環境がつくられるとよいと考えています。

カスタマージャーニーマップを描き、体験価値や理想的な未来像を描くことがファーストステップで、それらをテクノロジーにより仕組み化・省力化し、得られたデータを基に体験価値を改善し続けていくということが、独自性を持ち、顧客から長期的に支持されるECサイトづくりに役立つと考えています。


松井 創 (まつい はじめ)
 
 
 
松井 創(まつい はじめ)
株式会社ロフトワーク/プロデューサー
1982年生まれ。千葉大工学部卒。ポータルサイト運営会社を経て2012年にロフトワーク入社。マーケディング部門で企業ウェブサイト構築の企画や建築空間、コミュニティー計画、企業の新製品・新サービスにおいて、コンセプト策定からコミュニケーション戦略までプロデュースしている。

 

武下 真典  (たけした まさのり)
 
 
 
武下 真典(たけした まさのり)
株式会社エスキュービズム・テクノロジー/代表取締役
2002年フューチャーアーキテクト入社、2008年からエスキュービズムに参画。Eコマースサイト構築パッケージEC-Orangeのマーケティングから営業・商品開発、クライアントへの納品まで全てに携わる。2014年持株会社への移行に伴いエスキュービズム・テクノロジーの代表取締役に就任。