DMCラボ・セレクション ~次を考える一冊~ #19

スタートアップのバイブル!~ハマる仕掛け「フックモデル」とは?

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    京井 良彦
    株式会社電通 ビジネス・クリエーション・センター  プランニング・ディレクター

今回は、『Hooked ハマるしかけ 使われつづけるサービスを生み出す[心理学]×[デザイン]の新ルール』(翔泳社)というビジネス書を取り上げましょう。主著者のニール・イヤール氏は、心理学とテクノロジーを経営学に取り入れて活動しているコンサルタントです。

原書のサブタイトルに、「How to Build Habit-Forming Products=商品の習慣化を築く方法」とあるように、本書は一貫して「いかにして商品やサービスを習慣的に使ってもらう仕掛けをつくるか」をテーマにしています。

例えば、フェイスブックやツイッター、LINEなどのサービスは、皆さんの日常生活で自然と使われていますよね。ビジネス的な視点でいうと、これらは誰もが認める成功したサービスといえるでしょう。でも、もちろん、成り行きで何となく成功したはずはありません。これらのサービスが皆さんに選ばれるのには、きちんと理由があるようです。

それは本書によると、顧客に対して「習慣を提供すること」に成功したからだといいます。つまり、戦略的に「人々がハマるように仕掛けた」結果だというわけです。

本書では、このような豊富な事例から、人々の行動が習慣形成されるメカニズムを心理学的に解明しています。そして、そのメカニズムを「フックモデル」と名付け、ビジネスに活用できるように体系化しています。このモデルは、早くもスタートアップ企業にとってのバイブルといわれているようです。

本書が唱えるフックモデルは、顧客に対する4つのアプローチから成り立っています。まとめると、おおよそ以下のようなものです。

①トリガー(きっかけをもたらす)
これは、顧客に「次にどういう行動をしてもらうか」を促すものです。たとえば、よくウェブサイトに出てくる「今すぐクリック」などという直接的な誘因などはまさにそう。こういったものは、外的トリガーと定義されています。
しかし、もっと大事なのは内的トリガーと定義される、人の心の奥にあるトリガーを引くことです。たとえば、孤独やさみしさを感じた時に友だちの様子を知りたくてフェイスブックを見たりしますが、これはそもそもフェイスブックというサービスが、内的トリガーを引くプロダクトとして設計されているからなのです。まずは、このトリガーをどう引くかからフックモデルは始まります。

②アクション(行動を促す)
これは、③のリワード(報酬)に期待を持たせ、シンプルな行動をしてもらうことです。シンプルな行動とは、例えばフェイスブックやツイッターなら画面をスクロールする(報酬=友だちの近況)とか、グーグルなら検索ワードを入れてクリックする(報酬=欲しい情報)とか、iPhoneカメラならシャッターを押す(報酬=写真が保存されること)などのことです。
当たり前のことように思えますが、顧客にとってみれば、ここがシンプルであるほど習慣化しやすいということなのです。

③リワード(報酬を与える)
報酬とは、顧客が行動の結果として獲得できるものですが、これは予測不能なものであることが大事だといいます。たとえば、フェイスブックの画面をスクロールしていく場合の報酬は友だちの近況ですが、ここにどんな情報が出てくるか分からないことが大事です。
またフェイスブックに投稿するという行動も、報酬としてどれだけの「いいね!」をもらえるか分からないことがミソなのです。LINEでメッセージを送るという行動もそうです。そのあとの報酬として、友だちからどのような返信が来るか分からないからいいのです。つまり、どのような報酬かが予測できないからこそ興味が持続し、ワクワクが継続するわけです。

④インベストメント(投資させる)
これは、顧客にちょっとした労力を掛けてもらうというものです。イケアの家具は自分仕様に組み立てるというちょっとした作業が入っていることで、自分にとって繰り返し使いたい家具が完成します。それと同じく、たとえばツイッターではアカウント作成時に、数名フォローすることを強要されます。
しかし、このちょっとした労力によって、次回また訪問しようというモチベーションが生まれます。

 

顧客にこれら4つのステップをグルグルと循環してもらうことで、日常生活における習慣形成がなされ、どんどんそのサービスにハマっていくというわけです。さらに本書では、フックモデルを実際に組み立てる際に役に立つよう、これらをチェックする5つの項目も用意されています。

1.ユーザーが望んでいることは何だろうか?(外的トリガー)

2.なぜユーザーはあなたのプロダクトを使い始めるのだろうか?(内的トリガー)

3.報酬を期待したユーザーがとるもっともシンプルな行動はなんだろうか?その行動を起こしてもらうためにプロダクトをシンプル化できるだろうか?(アクション)

4.ユーザーは現在の報酬に満足しているのだろうか?もっと報酬を欲しがっているのだろうか?(リワード)

5.ユーザーはあなたのプロダクトにどのような「ちょっとした作業」を行ってくれるだろうか?その作業は次のトリガーを生み出し、プロダクトを使用すればするほど改善が見込めるような価値を蓄積するだろうか?(インベストメント)

これらの質問項目に答えることができれば、そのサービスは、晴れて顧客に「習慣を提供する」ことができるでしょう。

ところで、本書の翻訳を手掛けられた株式会社VASILYのCEO金山裕樹さんとは、本書を読む前からお付き合いがありました。金山さん持ち前の野心と論理に裏付けられた経営姿勢には、いつも感服させられていました。

iQON

実際、VASILYが展開するファッションコーディネートアプリ「iQON」は、100万ダウンロードを超える成長を遂げていますが、今回、本書によってその成功の陰にはフックモデルがあるということを知り、とても興味深く思いました。

その金山さんは、サービスの提供はもちろん、その広告においても人々を行動させることにこだわりたいと、いつも言っています。そういう意味では、この理論は僕たち広告に関わる者にも、大いに参考にできるものです。

もはや広告に求められるものは、単なる認知の獲得だけではありませんよね。人々を行動させ、その行動を習慣にするところまで期待されていくものです。本書で紹介されたフックモデルは、そんなこれからの広告を考える際にも、大きな示唆を与えてくれるものだと思います。

【電通モダンコミュニケーションラボ】

 

プロフィール

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    京井 良彦
    株式会社電通 ビジネス・クリエーション・センター  プランニング・ディレクター

    1969年生まれ。大手銀行でのM&Aアドバイザーを経て、2001年電通入社。
    営業局でグローバルブランドや官公庁など多岐にわたるクライアントを担当し、現在はソーシャルメディアやデジタル領域を中心とする戦略プランニング、コミュニケーションデザイン、共創マーケティングを手掛ける。東京都市大非常勤講師。著書に『ロングエンゲージメント』(あさ出版)、『つなげる広告』(アスキー新書)などがある。

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