loading...

マスター・オブ・イノベーションマネジメントNo.5

「Created by you / Made in world」的な世界

2014/09/11

こんにちは。電通関西支社マーケティングデザイン局 コンサルティング部の志村彰洋です。第1回第4回は、主に企業内のイノベーションマネジメントについてお話ししてきましたが、今回は「社外も含めたネットワークによるイノベーション」の、いくつかのタイプについてお話しします。

一般的に「社外も含めたイノベーションプロジェクト」というと、一般参加者を対象にしたアイデアコンテストが圧倒的に多く、次に多いのが大学などの非営利団体とのコラボレーションです。一部の企業においては、創発環境の場に他社を招き入れ、未活用の知的財産も含めてアイデアを磨くというケースもありますが、これは欧米でもそれほど多くありません。なぜ、このような導入傾向になるかについて考えていくと、重要なポイントが見えてきます。

「出す」というより、「取り入れる」思考になりがち

「社外も含めたオープンイノベーション」において、どうしても必要なのがイノベーション・マネジメント実施主体側の共創への意識です。住民を対象としている行政機関や、市場シェアが固定化した共生型のカテゴリー以外の企業は、社外からアイデアを募集しても利害の衝突への恐れから共創にまで踏み込めず、その成果の報告についての情報発信も広報やCSR、プロダクト提供などのフェーズで行うという「インプットとアウトプットが分かれてしまう」ケースが多く見られます。これでは社外からの参加者に対するリワード(報酬)が不十分になりがちなため、アイデアを出し合う創発が行われず、一方的に社外からアイデアを聞く調査とほとんど同じになってしまいます。

インプットとアウトプットの不一致
インプットとアウトプットの不一致

これを解決するものが「パーミッションコントロール」です。イノベーション・マネジメント・ツールは、ID/パスワードの発行により、社内・社外、あるいは利害関係など立場の違うさまざまな参加者の属性に応じて、アイデアの投稿、閲覧、評価などの機能や表示をオン・オフし、権利関係と情報共有をコントロールできるため、インプットとアウトプットを同じ場で実施することを可能にします。

スクリーニングを要しないものが多くなる

「社外も含めたオープンイノベーション」の取り組みは、参加者同士で課題や悩みを解決するような、ソーシャル系知恵袋のような形も多く見られます。ソーシャル系知恵袋の場合、その内容から、優先度や流行が把握できるようになります。この方法は、問い合わせ窓口に寄せられる意見やクレームの内容を分析するCRMの考えに近く、なじみ深いのではないでしょうか。

ソーシャル系知恵袋は、その創発テーマとしても、社会的ビジョンの国民への浸透や、防災・環境・教育などの社会的意義が問われる内容が多くなり、優劣などを付けない社会性の強いカテゴリーに寄っていきます。

 普遍性が高く社会性が強いテーマに対しては、締め切りという概念が必須ではなくなっていくため、リアルタイムかつシステマティックに処理しにくいオフラインのセッションやセミナーなど(ハッカソン※1やアイデアソン※2も含む)が有効になります。ここで出た意見やアイデアをイノベーション・マネジメント・ツールに集約し、オフラインイベント参加者の事後のつながりの場としたり、参加者の一部によるオフラインイベントの情報拡散に寄与します。つまり、スクリーニングというよりは、つながりを意識したチーミング、コラボレーションという形に近づくことになります。

IT業界では「誰かが創造し、世界が実現する」が当たり前

IT業界では、ハッカソンやアイデアソンといったオフラインイベントはもとより、広義の「ネットワークコラボレーション」が盛んに行われています。具体的には、ソースコードのシェアやコラボレーションツールを用いたサービス共同開発です。今では、コード自体も簡単にSNSでシェアされる時代になってきています。この場合、利用者は「無償」で提供されるプラットフォーム上でアイディエーションを行うため、主体が明確でなくなり、仲間内のチームという概念が重要視されるようになります。

また、ソースコードシェア系のウェブサイトは、開発者だけでなく誰でものぞける場であり、例えばウェブ系サービス会社のリクルーティング担当者や、サイバーセキュリティー会社のゼロデイ脆弱性(※3)バイヤーの見張り場でもあります。開発者と各ステークホルダーとの間に介在するものが少なく、契約や取引を含めほとんど直接つながってしまえます。サービスはウェブ上で発表されることが多く、アイデアの具現化されるまでの道のりがとても短くなっています。

ネットワークによるイノベーション

特定の仲間と共に、オープンプラットフォームを軸に付加価値を開発しサービス化するようなスタートアップベンチャーであれば、サービスのアイデアを創造した者と実現する者がほとんど同じですが、これからは「社外も含めたイノベーションプロジェクト」により、アイデア創造者と実現者が分かれていくでしょう。その時には、「誰が創造して、誰が作ったかを(分けて)明記するルール」などもビジネス上の観点では必要になると考えられ、テクニカルに証跡を残す意味でもイノベーション・マネジメント・ツールの重要性が増してくると思われます。

「社外も含めたイノベーションブロジェクト」においては、実施主体の問題と設定されるテーマの特性(社会性)によって、社内のみのイノベーションとは大きく状況が異なり、極論「誰かが創造して、別の誰かが実現する」という世界に近づきます。アイデアの種は大海原に簡単に流れていってしまうので、社外も含めたイノベーションを営利目的で実施する場合は、(当たり前のように聞こえるかもしれませんが)アイデア発案者の特定とパーミッションコントロールという大前提を押さえるのが重要です。

次回以降は、国内外で先進的なイノベーションに取り組む企業の担当者との対談を通して、イノベーションマネジメントの実態を紹介したいと思っていますので、ご期待ください。

(第6回以降に続く)

※1 ハッカソン:
同じテーマに興味を持った開発者が集まり、協議・協力しながら集中的にコーディングを行う催し。ハック(Hack)とマラソン(Marathon)を組み合わせた造語。

※2 アイデアソン:
特定のテーマについてグループ単位でアイデアを出し合い、それをまとめていく形式のイベント。アイデア(Idea)とマラソン(Marathon)を合わせた造語。

※3 ゼロデイ脆弱性:
システムの脆弱性が発見されて公表された場合に、修正プログラムの提供が開始される前に、その脆弱性を突くマルウェアを開発して攻撃する「ゼロデイアタック」を受ける可能性があるシステム上の欠陥や問題点のこと。