セカイメガネ #26

ベイルートの壁

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    Alain Schoucair
    アラン・シュカール
    ドライブ電通(レバノン)
 

壁はいつもレバノンの政治や社会の対立を表現し続けてきた。首都ベイルートの人通りの多い道を散策すると、壁の一つ一つが物語を伝えている。15年に及ぶ内戦が始まった70年代の政治宣伝のステンシル画。90年代後半、派閥色は薄まったものの依然政治的主張の強い、色とりどりの画。それらに交じって最近ではストリートアートの新しい潮流が最盛期を迎えている。

新しい世代のアーティストは、ベイルートの壁をキャンバスに使う。カラフルな作品で街を日々変貌させ、人々を断絶でなく統一へと促す。そうしたアーティストたちの創作活動を、近隣の住人や時には警察官まで好意的に眺めている。

代表的なアーティストの名前を挙げてみよう。Ashekman、P+G、REK、Ph@2、Ramim3alim、Kabrit、Kimewe、Yazan(写真)。彼らは自力で、瞬く間に文化を象徴するアイコンになった。西洋のグラフィティやイラストレーションと、アラブ模様や文字を独特の感覚で組み合わせる。壁を従来のメディアチャネルとは異なるマスコミュニケーションとして成立させ、ユーモラスな社会批判を自分たちの個性と結び付けることに成功している。

ストリートアートは今やこの国で顕著なトレンドだ。もはやアートは壁だけにとどまってはいない。文化現象そのものだ。ファッションや家具のデザイナーは壁のグラフィティを創作に取り入れ始めた。有名ブランドはアーティストと契約を結び、壁からメッセージを送っている。大学はグラフィティアート講座を開講した。街のあちこちでワークショップが開催されている。音楽イベントはグラフィティアートのライブパフォーマンスを取り入れている。ギャラリーやアートセンターは展示を始めた。そうした現象を列挙すれば切りがない。

素晴らしいのは、トレンドがどちらに向かおうと、壁が既に広く社会に受け入れられていることだ。壁のアートは街や人々の、生き生きとした、元気の出る物語を伝え続けている。

あなたがベイルートを旅すれば、名所旧跡、食べ物、美しい女性たち、私たちの伝統であるもてなしを楽しんでくださるに違いない。その時、ベイルートの壁に見とれてしまう時間がきっと訪れるだろう。

(監修:電通イージス・ネットワーク事業局)

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