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“いまどきシニア”は千差万別

着目すべきは年齢よりも「変化」

2014/09/19

【識者の目】”いまどきシニア”は千差万別 着目すべきは年齢よりも「変化」

現在は4人に1人、2035年には3人に1人が65歳以上という超高齢化が進行している日本。「電通シニアプロジェクト」は2000年の立ち上げ以来、さまざまな高齢化テーマに取り組んできた。その責任者を務める電通総研の斉藤徹氏が、団塊世代・シニアマーケット研究の第一人者である村田アソシエイツの村田裕之氏を招いて、“いまどきシニア”の実像と攻めどころについて討論した。

村田アソシエイツ代表取締役 東北大特任教授 村田裕之氏×電通総研キュレーショングループ部長 電通シニアプロジェクト主宰 斉藤徹氏

斉藤:村田さんはよく「シニア市場は多様なミクロ市場の集合体である」と言っています。60歳と80歳で価値観は全く違う。経済的な側面でも、高齢層の場合は「持てる者」と「持たざる者」の差が、若年世代と比べると非常に幅広い。また、ライフステージごとに多様なニーズがあることも考え合わせれば、シニアの中のどんな人の、どんなニーズをくみ取ってアプローチするのか起点をきっちり詰めないと、あまりに漠然としてしまう。

村田:おっしゃる通りです。例えば、高齢者を「お年寄り」というと、社会的弱者といったイメージで見がちです。一方、「アクティブシニア」というと、かなりの資産があって、高額商品もよく買うといったイメージがあります。これは実はどちらも正しくない。同じ高齢者でも、あるときは高額商品を買いつつ、一方で非常につましい生活を送っている場合もあります。私がいつも言うのは、「年齢よりも変化に目を向けよ」です。例えば、ライフステージの「大きな変化」。男性ならまず定年がある。ただ、定年になっても再雇用されるセミリタイア層が増えています。完全リタイアするのは今は65歳くらいでしょうが、その完全リタイア時期も今後はさらに高齢になっていく。

斉藤:電通の調査でも、65歳で、第二の退職を迎えた後も働き続けたいという人が非常に増えています。

村田:それでも、やがて仕事から完全に身を引くときがきます。その後、ライフスタイルに大きな変化が現れるのは健康状態の変化によりますね。おおむね75歳を過ぎると、医者にかかる率や認知症の発症率、要介護認定率が急上昇する。女性の場合は男性とは少し違い、多数派の主婦層では、最初の大きな変化が子育て終了時期。子どもが大学へ行き始めたころですね。第二が夫の退職時期。第三が子どもが独立して夫婦二人の生活になる時期。その次に男性と同じように健康面の変化があり、最後は夫が亡くなるときですね。

斉藤:ライフステージの「変化」によって消費行動も時間消費の在り方も変わってくるというわけですね。

村田:もちろん、生活実態に対するきめ細かな分析は必須です。主婦の時間消費の実態でも、夫が退職しても自由時間が必ずしも増えるわけではない。自宅引きこもり派の夫が多く、手間がかかるからです。そんな実態を踏まえれば、総菜や弁当などの「中食」市場が成長市場と読み解ける。

■「なじみ性」の強いシニアには「自分ゴト化」がキーワード

斉藤:シニア世代には、いわゆる「なじみ性」があります。自分なりの心地よさとか、こだわりといった生活価値観が形成されていて、若い世代のように簡単に流行には乗らない。シニア世代を動かすには、「自分ゴト化」が重要なポイントになります。例えば年を重ねると、骨密度や体脂肪、肌年齢といった自分の現在の状態が気になる。そういう正味の自分を体験的に理解してもらった上で、現在の状態に適した商品を訴求する。その動線づくりが大切なのではないかと思います。

村田:健康問題や財産に関わることは「自分ゴト」になりやすいですね。

斉藤:もう一つは、これまでの商品を提供する側と享受する側という関係性ではなく、高齢社会ならではの新しい関係性のモデルが構築できないか。単なる需給関係ではなく、もっと強いつながり。例えば、65歳でリタイアしても元気な高齢者がたくさんいる。そういう人たちの働く場を会社が提供しつつ高齢者との関係性を築いていくような。

村田:一種のオーナーシップによる関係構築ですね。例えばサービス付き高齢者住宅をつくるときに、入居者が出資をして、その会社をつくるようなビジネス。

斉藤:高齢者の人たちが持っている資産や知恵をうまく次世代に生かしていくような仕組みづくりは、やっぱり超高齢化社会では絶対に必要ですね。

村田:私の試算では、60歳以上が持っている正味金融資産、つまり貯蓄から負債を除くと482兆円ある。そのうち1割でも回せれば、一般会計予算の約半分の額になる。それができれば、経済も財政状況もガラリと変わる。結局、シニアの資産が動かないのは、「健康不安」「経済不安」「孤独不安」という3Kの不安があるからです。この三つを解決するのに一番いいのは、仕事をしてもらうことです。例えば月に10万円年金以外の副収入を稼げれば、稼いだ分の大半は可処分所得になります。仕事をすれば、人とのつながりもできる。メンタル的にも健康が保たれ、病気になりにくい。医療費や介護費の抑制にもなります。

■“浮気しない”シニア世代 長期的な関係構築に好機

斉藤:企業がシニアと向き合っていく上では、長期的な関係性をどうやって築いていくかという視点も重要ではないかと思います。ハードルにもなる「なじみ性」を逆手に取るような発想ですが、気に入ってくれれば浮気しないのが高齢者です。一度関係性をしっかりつくっていくと、生涯価値として企業の方にもきちんと恩恵がもたらされる。

村田:僕がずっと関わっている女性専用のフィットネスクラブでは、今、お客さんの平均年齢が60歳くらい。店舗数が全国で1480店以上になるまで成長して、現在会員数が約65万人。サポートするスタッフは、会員の年代からすると、娘や孫娘みたいな世代です。初めは、中高年の女性会員に軽くあしらわれるようなこともありましたが、でも、それを払拭(ふっしょく)しようと、あいさつの仕方や言葉掛けなど一生懸命勉強した。それで成果が出るようになると、「あなたのおかげで、私、よくなったわ。ありがとう」という感謝の言葉を掛けられるようになる。それがスタッフの自信にもなるし、評判が他のお客さんにも伝わる。結局、長期的な関係性の構築は、そういう改善の積み重ねです。スタッフとお客さんの関係が良くなれば、店舗全体の雰囲気も良くなるから、新たなお客さんの定着率も高くなる。

斉藤:信頼というのは、理屈だけじゃなく、情によって築かれるという側面がありますよね。それも、長期的な関係構築においては、重要なポイントではないかと思います。いろいろ貴重なお話、ありがとうございました。


村田アソシエイツ代表取締役 東北大特任教授 村田裕之氏

村田アソシエイツ代表取締役
東北大特任教授
村田裕之氏(むらた・ひろゆき)

1987年東北大大学院工学研究科修了。日本総合研究所などを経て2002年村田アソシエイツ設立。06年東北大特任教授。シニアビジネス分野のパイオニアとして多くの企業の新事業開発・経営に参画。高齢社会研究の第一人者として講演・執筆も多数。経済産業省などの多くの公職も歴任。主な著書に『成功するシニアビジネスの教科書』(日本経済新聞出版社)、『シニアシフトの衝撃』(ダイヤモンド社)など多数。

 


電通総研キュレーショングループ部長 電通シニアプロジェクト主宰 斉藤徹氏

電通総研キュレーショングループ部長
電通シニアプロジェクト主宰
斉藤徹氏(さいとう・とおる)

1982年西武百貨店入社。流通産業研究所(セゾン総合研究所)、パルコなどを経て、97年電通入社。現在、シニアマーケティング、高齢社会における事業開発からシニア向け商品開発、施設開発、イベントプロデュースまで幅広く高齢者関連ビジネスに関わる。著書に『団塊マーケティング』(電通、共著)、『吉祥寺が「いま一番住みたい街」になった理由』(ぶんしん出版)など。その他、雑誌などにも多数寄稿。

シニアの心をつかむ企業の取り組みいろいろ

■イオンG.Gイベントが盛況。その企画ポイントとは

Grand.Generation

イオンは中期経営計画の柱の一つにシニアシフトを掲げている。その中核を占めるコンセプトがG.G(グランド・ジェネレーション)だ。G.Gとは“最上の世代”を意味する新ワード。これからの人生を前向きに、明るく、ポジティブに生きたいと考えるシニアの人々を後押ししたいという思いが込められている。

それを象徴するイベントが「G.Gコレクション」だ。今年で3回目となる同イベントは4月11~13日、千葉市の幕張メッセおよび隣接のイオン幕張新都心店で開催された。イオングループ各社をはじめとする48社3自治体が61ブースを展開、来場者にさまざまな新しい体験価値を提供した。幕張メッセだけで5万7000人が訪れた。

店舗のシニアシフトにも積極的に取り組む。2013年5月にはイオン葛西店(東京・江戸川区)、14年4月にはイオンマリンピア店(千葉市美浜区)に「G.Gモール」を開設。「大人が“わたし”を楽しむ場所。」をコンセプトにカフェ、カルチャークラブ、フィットネスなどを設け、常設ステージでは連日多彩なイベントを開催している。顧客戦略にも積極的で、55歳以上の人が加入できる「G.Gイオンカード」や電子マネー「G.G WAON」を設け、さまざまな特典を提供している。


■終活ツアーも人気。クラブツーリズムのツアー企画

クラブツーリズム(ロゴ)
ステップアップ型登山ツアー

超高齢化社会が進む中、シニアの人々に圧倒的な支持を得ている旅行会社がクラブツーリズムだ。同社は旅行の通信販売を主としており、毎月、旅行情報誌「旅の友」を300万世帯に届け、シニアの多彩な旅行ニーズに対応する。

母娘で日帰りバス旅行という手軽なニーズから、国内旅行、マチュピチュや南極など秘境の旅に至るまで、多種多様なコースを取りそろえ、今どきの“わがままシニア”の要望に応える。ユニークなのは他社にないオリジナルな商品開発力。近年のヒット商品には、単身時代に対応した、一人でも気兼ねなく参加できる「おひとり参加限定の旅」、一から登山を始めたい人に対して机上講座から徐々に登山を学ぶ「ステップアップ型登山ツアー」、エンディングをテーマに海洋散骨模擬体験や霊園を巡る「終活ツアー」、長い距離を歩かない、70歳以上の人の参加を意識した「ゆったり旅」などがある。いずれも、かつての旅行商品の概念には当てはまらない企画である。

久保田智子広報課長は「商品開発のヒントは、お客さまや添乗員の声が元になっている」と語る。リアルな顧客から発せられた小さな声をきめ細かく拾い上げ、実際の商品にまで仕上げるところが同社の最大の強みだ。


■昭和の歌手を集め、全国で年間約400回のコンサートを企画する夢グループ

夢グループは、1960~70年代に人気の歌手が一堂に会する「夢コンサート」を全国各地で開催。昼夜合わせて年間約400回以上、50万人以上を動員している。同社の母体は通販事業の会社。夢コンサートは石田重廣社長の「従来のテレビ番組やコンサートにシニア向けの企画が少ない」という思いから始まった。コンサートのテーマは「あなたの心をワクワク」で、小林旭さん、松方弘樹さん、千昌夫さん、三善英史さん、チェリッシュや狩人ら同社所属タレントをはじめ、小林幸子さん、西城秀樹さんらベテラン歌手が出演。客層はシニア世代の女性グループ、夫婦、親子などさまざまで、かつてのヒット曲を口ずさみながら、体でリズムを取ったり、声援を送ったりと、ステージと一体になった盛り上がりを見せる。出演者グッズ販売やサイン会コーナーも多くのファンでにぎわう。

チケット注文は電話または同社サイトで受け付ける。サイトではコンサートリポートや来場者のコメント、プレゼントを告知。同社通販サイトにもリンクさせ、オリジナル商品のカラオケマイクや昭和歌謡のCDセットなどをアピールしている。9月3日には、「夢レコード」第1弾CDとして、小林旭さんと浅丘ルリ子さんのデュエット作品を発売するなど、企画のすそ野が広がっている。

シニアの心をつかむメディアの取り組み

シニア世代を気遣う
パーソナリティーの力が大きい

昨春から「ラジオパープル」という平日朝4時からの1時間番組を放送しています。パーソナリティーを務めるのは40代後半から50代のベテランアナウンサーで、話題や楽曲の選択も、シニア世代をかなり意識しています。もともとTBSラジオはシニア世代の支持が高いといわれていますが、「ゆうゆうワイド」の大沢悠里さんや、「永六輔その新世界」の永さんなど、人生経験豊かなパーソナリティーの力が大きい。「病気療養中の方もどうぞお付き合いくださいね」といったさりげない一言が、リスナーの心をつかむのだと思います。

TBSラジオ&コミュニケーションズ 編成局編成部長 石垣富士男氏

TBSラジオ&コミュニケーションズ 編成局編成部長
石垣富士男氏

また、TBSラジオでは、1995年ごろからニュースを重視しています。朝の「森本毅郎スタンバイ!」では前日やその日一番のニュースを伝え、夕方の「荒川強啓デイ・キャッチ!」ではニュースを別な角度から捉えた二次情報も伝える。そして夜の「荻上チキSession-22」では、その日に起きたニュースを一つ取り上げ、リスナーと一緒にじっくり考える。そんな、一日のニュースを深掘りしていく番組編成も、社会への関心度の高いシニア世代に支持されている理由になっているのではないでしょうか。


 

「スタンダード」に触れる安心感が読者を引きつける

『サライ』読者の平均年齢は50代後半。ですが、日常生活はアクティブで知的好奇心も旺盛です。旅や食、装い、国内外の偉人や伝統文化などのテーマを取り上げますが、最近では「日本の良さ」「日本人の心」に通じる企画が受けています。仏像の特集にも大きな反響がありました。単に美術的な素晴らしさをめでるだけでなく、自分の人生と重ね合わせて関心を持つ読者が多いですね。知識を得ること自体が目的なのではなく、その知識を通して自分がどう生きるべきかを考えたい。そんな思いが強いのだと思います。

小学館 『サライ』編集長
小坂眞吾氏

 

どんなジャンルの企画であれ、私たちが伝えようとしているのは、その年代にふさわしい「スタンダード」です。趣味の道具一つ取っても、「これさえ持っていれば一生もの」という製品を紹介する。そのスタンダードに触れる安心感が、長年にわたり支持されてきた大きな理由ではないかと思います。創刊25周年を機に今後は、本誌読者が会員にもなっているウェブサイト「サライ.jp」も、マーケティングの観点から有効活用していきたいと考えています。