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DMCラボ・セレクション ~次を考える一冊~No.20

広告やメディアで人を動かそうとするのは、もうあきらめなさい。

2014/09/19

今回は、戦略PRの第一人者でブルーカレント・ジャパン代表取締役の本田哲也氏と、多種多様なメディアに関わり、現在はLINE株式会社上級執行役員法人ビジネス担当を務める「メディア野郎」こと田端信太郎氏の共著『広告やメディアで人を動かそうとするのは、もうあきらめなさい。』を取り上げさせていただきます。

タイトルに釣られました

広告やメディアやマーケティングに携わる人間にとって、非常に挑発的なタイトルです。私も、まんまと手に取ってしまいました。いやいや、そんな乱暴な言い草はないだろう、と憤慨しながら読み進めていくと、最終的には「本書の書名をより正確に言い換えると〜」というくだりで以下のように言い直されます。

(これまでのように)広告やメディア(だけ)で(たくさんの)人を動かそうとするのはもうあきらめなさい。

なるほど、そういうことであれば、同意するのもやぶさかではない。(偉そう)
「これまでだって(ただ無為に)広告やメディアだけ使えばたくさんの人に動いてもらえるなんて(簡単な)もんじゃなかったですよ!」と言いたい気持ちをぐっと飲み込み(書いてますが)、確かに、メディアが多様化し、情報が氾濫している今の世の中は、そっちを向いているのは間違いありません。

それでは、これから、ただ無為に、広告やメディアだけを使うのではなく、たくさんの人を動かすためには、いったいどうすればいいのでしょうか?
クロスメディアで多角的、多重的にメッセージをリーチさせる?
ソーシャルメディアでバズを起こす?
そうか!今流行りの「☓☓☓☓マーケティング」を導入すればいいのか!
いえ、田端氏による「まえがき」には

マーケティングにおける「不易流行」。特に「不易」を意識しつつ本書を読んでいただき、表面的テクニックやトレンドとは別の本質を感じ取ってほしいと思う。

とあります。マーケティングにおける「流行」は無意味ではないが、それよりも大切な「本質」がある、というのです。本書が語る「マーケティングの本質」とはいったい何なのでしょうか。

マーケティングとメディアについてのリアルな現状認識、主導権は受け手に移りつつあり、事前にすべてはコントロールできない

田端氏の執筆するPART1「『たくさんの人に見てもらえるほどよい』は本当か?」では、マーケティングとメディアについての現状認識に関して重要な2つの指摘があります。

情報爆発時代において主導権を持つのは「受け手」
演説ではなく会話を。事前にすべてをコントロールしようとする発想をあきらめる

HDDレコーダーによるテレビ番組のタイムシフト試聴や、ウェブに転載された新聞や雑誌の記事は、これまで情報の発信者(=広告やメディア)にあった「編集権」や「編成権」を受け手に移行させました。テクノロジーは、ユーザーにとって便利で使い勝手がいい方向に進化していくので、この流れは止められません。今まで広告やメディアが持っていた強い力が相対的に弱まる中、訴えたいことを聞いてもらうには、一方的な「演説」(=マス広告やSEMなど)だけではなく、個人と個人が向き合った「会話」(=ソーシャル拡散やPR、SEOやコンテンツマーケティングなど)が重要になっていくのも、必然的な流れといえます。

田端氏が企業のマーケティング・コミュニケーションを「選挙活動」に例えて説明した箇所は、非常にイメージしやすく分かりやすいので、ぜひ本書でご確認ください。

それでも人を動かすためには?

本田氏の執筆するPART3「『人を動かす』ことをあきらめない」では、人を動かすことの「原点」について考察し、その3つの要素として心技体があげられています。

「心」=人の気持ち、感情、本音(インサイト)
「技」=メディアやコンテンツの戦略と戦術
「体」=体感、体験

この中で特に「不易」であるといえるのは、「心」という要素です。人を動かすには正しいインサイト(本音)を捉え、人が動く閾値ともいえる「ココロの沸点」を発見することがポイントであると本田氏は述べていますが、いつの時代でも人間の本質的な感情や欲求、心の動きは、社会や文化の影響を受けるにしても、そんなに大きくは変わらないからです。

本書では心の要素の例として、以下のようなものをあげています。「虚栄心」「横並び心」「使命感」「連帯感」「同情心」「共犯意識」「お祭り心」「スケベ心」「信仰心」「コミュニケーション欲求」などなど。どれも皆さんが、そして時代を超えてすべての人間が持つものではないでしょうか。私自身を振り返ってみても、何か行動を起こしたときには、これら心の要素の影響に思い至ります。(だいたい「見栄」であったり「嫉妬」であったり「恥」であったりと、しょうもないものであることが多いのですが)

そして、「人を動かす戦略立案」の具体的な手順として「5つのステップ」が紹介されています。

[ステップ0]まず、「目的」を必ず明確にする
[ステップ1]「ターゲットインサイト」を洗いざらい出してみる
[ステップ2]「目的」と「インサイト」をお見合いさせる
[ステップ3]「ココロの沸点」を起こすために何を伝えるか決定する
[ステップ4]「ココロの沸点」体験となるコンテンツを用意する
[ステップ5]「お金のかからない順に」伝える施策を決めていく

この中で「マーケティングにおいて不易かどうか」という視点から重要なポイントは、[ステップ2]から[ステップ3]にかけてではないでしょうか。ここから生まれるのが、マーケティング・コミュニケーションにおいて「コアアイデア」と呼ばれるものだからです。また、意外とおざなりになりがちなのが[ステップ0]ではないでしょうか。本書では「目的を明確に」というと『具体的にどれくらいの人数に、具体的にどのような行動をとってもらうのか』というレベルまでクリアにすることを指しています。ここが「できるだけたくさんのターゲットに…」「うまくいけば購買行動まで…」と、曖昧なスケベ心をはらんだまま進んでしまうことが多くありませんか?目的がぼんやりしたままだと「目的を達することができるインサイトなのか?」「そのインサイトを突き、ココロの沸点を起こせるコミュニケーション・プランなのか?」という先のステップもぼんやりしたものになってしまいます。

人を動かすための戦略立案は、その目的に合ったテーラーメードでなければならず、つまり、カラダのサイズ(=目的)を具体的に把握していなければ、フィットするものはつくれない、ということです。

1000人から10億人まで、動かしたいスケールごとに具体的にイメージを持つ

おふたりの対談となるPART2「なぜ、人は『動く』のか?―1000人から10億人まで、スケールごとに考える」は、非常にユニークで、1000人の場合、1万人の場合、10万人の場合、100万人の場合、1000万人の場合、1億人の場合、10億人の場合と、それぞれのスケールごとに事例を紹介しています。

対象となる数字が、ボランティアの参加人数だったり、有料メルマガの購読者数だったり、ミュージカルの総観客動員数だったり、宗教の信者の数だったりと、純粋に人の規模として比較するにはその意味合いが統一されていない、という難点はありますが、人が動くさまをざっくりと俯瞰で捉えるという意味では問題ありませんし、このような「動かされた人数の規模別に分類、考察してみる」という試みは、今までになかった発明といえるのではないでしょうか。「目的を明確に」するにあたって、ぜひイメージとして持っておきたい内容です。

さいごに

私は本書の要点(「これから、広告やメディアだけを使うのではでなく、たくさんの人を動かすためには」どうするべきか?)は、以下の3点に集約されると感じました。あらためて書き出します。

①マーケティングとメディアについてのリアルな現状認識を持つこと(主導権は受け手にあり、事前にコントロールはできない)
②マーケティングの目的は、動かしたい人の規模、どういう行動をとってもらいたいかまで、具体的・明確に設定すること
③目的を達成するための「ココロの沸点を起こす」インサイトを見つけること

私が力いっぱい釣られることとなりました本書のタイトルですが、本稿の冒頭で引用しました補足の他に、もうひとつ解釈に関する仕掛けが施されています。それが何かについては、ぜひ、本書を手にとって、実際に目を通してみてください。

【電通モダンコミュニケーションラボ】