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イノラボが生み出す協創のカタチNo.10

IT×スポーツで、東京オリンピック後も生き続ける街をつくり出す

2014/09/29

電通国際情報サービス(ISID)のオープンイノベーション研究所(イノラボ)は、世界初のソーシャルシティー「グランフロント大阪」や、SNSを活用した教育など、ITの力を使って暮らしを変える、多くのプロジェクトに挑戦してきました。2011年の発足以来、700以上のセッション、40の実証実験を行い、そのうち7つのプロジェクトが事業化に至り、現在も研究が進められています。
そんなイノラボが満を持して発表したのが、ITとスポーツを通して人と人とがつながっていく、新たな街づくりのプロジェクト。シニアリサーチフェローとして、東京大学大学院教授 兼 ソニーコンピュータサイエンス研究所副所長の暦本純一さんを招請し、「スポーツ&ライフテクノロジーラボ」という専門研究部門を発足させました。
今回は、ゲストに元プロ陸上選手の為末大さんを迎えた「“スポーツ&ライフテクノロジーラボ”発足記念シンポジウム」の様子をレポートします。

誰もがもっと楽しく、自然にスポーツできる仕組みを生み出したい

オープンイノベーション研究所長 渡邊信彦

「私たちが目指すのは、東京オリンピックに向けた街づくりではありません。オリンピックが閉幕した後も、永く生き続ける街をつくりたい。そのために、20年、30年と使い続けることができる街のプラットフォームを開発しなければならないと考えています。
このラボでは、“みんなが楽しめる新しいスポーツの開発”と“スポーツで仲間とつながる街のプラットフォーム開発”の、主にふたつのテーマを研究していきます。さらに、このふたつを掛け合わせ、“新しいスポーツを効果的に組み込んだ新しい街の開発”にもトライする予定です。センシング機能をインフラとして備え、生活のさまざまな場面がデジタルの世界と自然に融合する、まったく新しい未来の街のカタチを提案したい。誰もがもっと楽しく、自然にスポーツできる仕組みを生み出すこと。これが、私たちの使命です」

この街づくりが実現すれば、個人が所有するウエアラブル端末や、街に設置されたセンサーなどのあらゆるデバイスからデータは自動的に蓄積され、相互に連携し、街全体が一人一人に適したスポーツメニューや場所、仲間づくりを提案してくれるようになるのだそう。

例えば、バスケットがしたいなと思ったときには街にリクエストすると、瞬時に空いているコートと最適な仲間を見つけ試合のお膳立てをしてくれたり、ジョギングを終えた瞬間に行きつけのスポーツバーからビール1杯無料サービスのお知らせが届いたり…。または、若者と高齢者など体力差や能力差があっても対等にプレーできる新しいスポーツの提案なんてこともあり得ます。人と街がスポーツでつながる、そんな未来が動きだします。

「データは、蓄積されるだけでは意味がありません。相互に連携し、人とコトをマッチングして、コミュニティーづくりを支援する、そういう“コトづくり”にまでもっていくことで、その真価を発揮するのだと思います。ぜひ一緒に、IT×スポーツの新しい街をつくり上げましょう!」

テクノロジーを活用し、すべての人が共に楽しめるスポーツを開発する

“スポーツ&ライフテクノロジーラボ”シニアリサーチフェロー 暦本純一

続いて登壇したのは、シニアリサーチフェローの暦本純一さん。インターフェース研究の世界的権威として知られ、近年はテクノロジーでスポーツを拡張(Augment)する、「Augmented Sports」の研究に力を入れています。
「私は、スポーツというものは“健康的で楽しいもの”であるべきだと考えています。テクノロジーで少しでも多くの人に、楽しく、プレーしやすいスポーツが提供できるなら、こんなに素晴らしいことはありません。そんな思いで、Augmented Sportsを研究するようになりました。Augmented Sportsが実現すれば、例えば、大学生と高齢者が一緒になってスポーツを楽しんだり、スポーツが得意な人とそうでない人が同じ目線でひとつの競技にトライできるようになる。運動能力の差を取り除いて誰もが共にスポーツを楽しめるようになるのです」

現在は、クアッドコプター(超小型ヘリ)を内蔵したボールを使った全く新しい球技「HoverBall(ホバーボール)」や、水槽の壁をスクリーンにして海中の様子を投影する「AquaCAVE(アクアケイブ)」などの研究を行っているそうです。HoverBallの研究が進めば、例えば、若者が全力で投げたボールが高齢者の手元にゆっくりと届いたり、小さな子どもが投げたボールが球威を増して迫ってくるなど、誰もが対等にキャッチボールを楽しめるようになるのだとか。また、AquaCAVEでは、スイマーが液晶シャッターグラスによる水中メガネを装着することで、広視野立体映像を見ながら泳ぐことができるようになるといいます。
暦本さんがスポーツ&ライフテクノロジーラボで手掛けるのは、新たなインタラクション技術の開発・実装と、それらから収集されるデータの解析。2020年、HoverBallやAquaCAVEは、どのような進化を遂げているのでしょうか。

ウエアラブルの次はサイボーグ!?  テクノロジーで身体を動かすことがテーマ

元プロ陸上選手 為末大

最後に登場したのは、男子400メートルハードル記録保持者・世界選手権銅メダリストの為末大さん。ゲストとして登壇し、アスリートならではの視点で「Sports and City」について講演しました。
「ドイツで活躍する走り幅跳びのパラリンピック選手マルクス・レームは、オリンピック選手を抑え、今ドイツで一番遠くまで跳べる走り幅跳び選手です。彼のすごいところは、下肢義足を用いて1年間で約70センチも飛距離を伸ばしたところ。このペースでいくと2016年ごろには、パラリンピック選手がオリンピック選手より遠くに跳ぶ時代がやってくるであろうといわれています。彼らの強みは、自分で自由にアキレス腱を選び、義足を拡張していけるところ。この世界はまだまだ可能性があって、大きく膨らんでいくだろうと考えています。ウエアラブルのパーツは、やがてより身体にフィットした埋め込みのパーツになる。私たちは、もうすぐサイボーグの時代がやってくると考えています。自分たちの身体にどうテクノロジーを組み込んで、動ける状態を保っていくのか、そんなことがテーマになっていくのではないでしょうか」

こう語った後、オリンピックの選手村が、閉幕後に一般向けの住宅として販売されることを解説。2020年には国内人口の3分の1が65歳以上になることを見据え、「選手村はすべてバリアフリーのパラリンピック選手向けにつくった方がよいのではないか」と提案しました。


渡邊さん、暦本さん、そしてゲストの為末さん。テクノロジーとスポーツを牽引する3名の登壇者がたっぷり1時間以上、未来の街を語る、とても充実したシンポジウムとなりました。
さらにこの日、スポーツ&ライフテクノロジーラボの活動拠点となる本郷実験スタジオもオープン。シンポジウム後の見学ツアーでは、HoverBallやAquaCAVEのデモンストレーションが行われました。