デジタルの旬 #07

ロボットは、家にひもづく

インターフェースになる 

――最前線の開発者が語る

ロボットとIoTの関係

~ユカイ工学代表 青木俊介氏

  • Aoki shunsuke pr
    青木 俊介
    ユカイ工学 代表
デジタルの旬
 

大手IT企業が相次いでロボット関連ベンチャーを買収するなど、今、IT業界ではロボットが熱い視線を浴びている。身の周りのさまざまなものがネットにつながり、さらにはロボット化していく未来が来るとするなら、ロボットはIoT(Internet of Things、モノのインターネット)とも近い概念ともいえる。そこで今回は、ネットベンチャーで成功しながらもロボット開発の世界に転身し、手のひらサイズのソーシャルロボット「ココナッチ」など、ユニークなロボットを次々と発表するユカイ工学の青木俊介代表に話を聞いた。
(聞き手: 電通デジタル・ビジネス局計画推進部長 小野裕三)

ロボットは、家にひもづくインターフェースになる ~最前線の開発者が語るロボットとIoTの関係~

 
 
  ユカイ工学代表/青木俊介氏
 
ユカイ工学代表

青木俊介氏

2001年、大学在学中に「チームラボ」を創設し取締役CTOを務める。07年、ロボットベンチャー「ユカイ工学」を設立。ソーシャルロボット「ココナッチ」や、フィジカル・コンピューティング・ツールキット「konashi」などを開発・販売。
「Telepathy One」「necomimi」「チームラボハンガー」など他社との共同開発も手掛ける。

 

身体がないと知能はつくり出せない

 

――ロボットというとメカメカしいものを一般的には想像しますが、物理的な実体のない「検索ロボット」などの言い方もあります。そもそもロボットの定義は何なのでしょう。

青木: 学問的な定義はないです。ロボット学会でもあらゆる技術が扱われていますし、総合技術のようなものなので、特に線引きはありません。その中で僕たちは、「人が話しかけたくなる」「コミュニケーションしたくなる」ものがロボットと考えています。

――青木さんはネット系のベンチャーで成功していたにもかかわらずロボット開発の世界に転身されました。その理由が、パソコンの画面の外に出たかったということだそうですね。

青木:ネットではどれだけ頑張っても、ブラウザーやスマートフォン(スマホ)といった誰かが設定した枠の中のものしか動かせません。ですが、現実世界はもっといろいろなものがあって、その世界の方が面白いと思いました。

――ある意味でIoTに近いというか、インターネットをもっと広い世界に拡張したかったということですか。

青木:その側面もありますが、パーソナルコンピューターの父と呼ばれるアラン・ケイ氏が「People who are really serious about software should make their own hardware.」(ソフトウエアに対して本当に真剣な人は、独自のハードウエアをつくるべきだ)と言っていて、そのような考えが僕にもありました。(掃除ロボットのルンバを開発した)iRobot社の創業者ロドニー・ブルックス氏も、当初は人工知能の研究をしていましたが、それを突き詰めて役に立つ知能を実現しようと考えて同社を設立しました。

この人は、「象はチェスをしない」という有名な論文を書きました。どういうことかというと、象は、人の顔を覚えて言葉を理解し、また家族をつくって生活することができます。とても高度な能力ですが、そんな象はチェスをしないという趣旨です。今まで知能的・理性的と思われていたチェスをやるような記号処理や論理の能力は、自然界においてはごく最近に生まれてきたもので、生物にとってはそれ以外の知能の方が重要ということです。

そこにあるのは、身体があることで理解できるものがある、身体がなければ本当の賢さは生まれない、という考え方です。人工知能の研究の中でも「自分」という概念を定義することはすごく難しい課題です。それで、身体がないと知能をつくることができないのではないかと言い始めたのがブルックス氏です。

――そこで例に使われている象のように、自律的な人工知能は本当に実現可能でしょうか。

青木:僕は可能だと思っています。人間は全ての選択を理論的に考えて決断しているわけではありません。例えば将棋の羽生さんは、一手指す時に数億通りの選択肢がある中で、瞬時に5手くらい浮かぶそうで、無意識に絞り込んでいるわけです。そしてその絞りこまれた5手について実際に頭の中でシミュレーションしているらしい。でも現在のコンピューターは絞り込むことができないので、大量の打ち手を計算のパワーで全部検討して答えを出してきます。人間の脳は無意識に可能性を絞り込むことができます。例えば今日のご飯は何を食べようと考えた時、あらゆる可能性を計算はしませんよね。正しいかどうかは別として、あらゆる可能性を検討するということは生き抜く上では不必要なことで、場当たり的に最適なものを選ぶということの方が重要なのです。そのような脳の機能は何かしらのハードウエアで再現可能だと思います。

スマートハウスがロボット普及の起爆剤に

 

――最近は掃除機などの家電ロボットが人気になっていますが、どう思いますか。

  家族をゆるいコミュニケーションでつなぐ留守番ロボット「BOCCO」は、ユカイ工学開発の最新プロダクト
 
家族をゆるいコミュニケーションでつなぐ留守番ロボット「BOCCO」は、ユカイ工学開発の最新プロダクト

青木:大手家電メーカーのロボット掃除機の開発には、最初のコンセプトづくりから関わりました。家族の一員になれるロボットをつくりたいということだったのですが、家族とは「どうでもいい情報をシェアしている」ことではないかと考えました。今はフェイスブックで知人などのたわいもない情報をシェアできますが、昔はそれは家族だけだったのではないかと。それで、ロボットが家族の一員になるためには、そのような情報を知っている必要があると考えて、スマホで録音できる伝言機能などを付けました。

――掃除ロボットのように実用的なロボットもあれば、一方でエンターテインメント的なロボットもありますが、そのように分かれて進化していくのでしょうか。

青木:そうだと思います。例えば、虫はたくさんの種類がいますが、環境に対して何か役に立つことをして、その結果、自分も分け前をもらっています。そうやって何かしら環境に適応して生きています。ですので、テレビの裏で、ずっとゴソゴソほこりを吸い取っているだけのロボットとかも出てくるかもしれないです(笑)。

――つまり、汎用型ではなく、特化したロボットが多く普及するということですか。

青木:汎用的なロボットは確かに便利です。でも、そのような何でも分かる汎用的ロボットが家にいたら、同居する人間はすごく気を使うと思うのです。そんなロボットの前で恋人といちゃいちゃはできないですよね(笑)。

――では、特化型ロボットが普及していくとして、掃除ロボットなど以外にどのようなものが早く普及するでしょうか。

青木:人間型ではないコミュニケーションロボットだと思います。ソニーでつくっていた「AIBO」がすごく良い例ですね。こちらの指示が分かり、自分なりの感情を表現してくれるようなものです。

――そのような普及には、何かきっかけになるものがあるでしょうか。

青木:スマートハウスだと思っています。家電がネットワークにつながり、家の中で生活している人の情報がデータ化されると、ロボットも「最近、寝不足だよ」などと分かるようになるわけです。その背景として、スマホが普及したことも大きいです。それによって月間の通信量が飛躍的に増えたため、人の行動がデータ化され、その大量の情報をロボットも把握できるようになったのです。

――そう考えると、ロボットは家電などのインターフェースになっていくわけですか。

青木:そうですね。例えば、電子レンジがネットにつながり、取得した料理レシピをアレンジして調理をするとなったときに、それをユーザーインターフェース(UI)にしようとすると電子レンジにタブレットが付いていないと操作できません。洗濯機も同様で、そうすると部屋中がタブレットだらけになってしまいます。さらには、メーカーによって操作方法が違うとなると、全部覚えるだけでも大変です。でもインターフェースが別にあって、ざっくりとした指示ができるようになれば、もっと高機能な対応ができるんじゃないかと思うのです。

――そうだとすると、ロボットはタブレットと合体するということになりませんか。

青木:そうですね。そういうのがあって、次のバスの時間とか、検索が面倒なことも、「次、バス何時?」って聞いたら教えてくれるとか、そうなるのが理想ですね。最近は「グーグルナウ」というサービスがあって、これを使うと何も聞いていないのに必要な場所や時間の情報を教えてくれます。このアプリは未来的で面白いと思います。

ただし、スマホは既にかなり完成された形なので、これがさらにロボットに進化するというのは難しいでしょう。スマホは会話とか最低限の機能さえ備えていれば、歩いたり動いたりするのは別に必要ないと思います。バッテリーやモーターの機能の成長速度から考えると、この先、スマホを物理的に動かしたりするエネルギー効率はそれほど上がらないのですが、ネットワークや演算能力の性能は数百倍に伸びているので、スマホやタブレットはそちらの方向に進化するでしょう。そのUIは、この先数十年のレベルで今のままの形なんじゃないかと思っています。

それと、キーボードが出てきてもう100年くらいたちますが、これだけ長く使われてきているので、キーボードは次の100年も残ると思います。

――ということは、キーボードが残るように、スマホやタブレットのインターフェースも今の形で残り、これらとは別にロボットはロボットなりの最適なインターフェースになっていくということでしょうか。

青木:はい。家中がタブレットになることはないと思います。スマホやタブレットは個人を強化するツールですが、それとは別に家にひもづいているインターフェースとしてロボットがあると思います。

IoT、ロボット、ユビキタスは近い関係にある

 

――ロボットは妖怪に近いイメージとおっしゃっていますが、その理由は。

青木:妖怪キャラってすごく面白いじゃないですか。人の頭の中のイメージだけではなくて、姿は見えないけど足音だけ人に付いてくるとか、実際の世界とつながりがあるのが面白くて、それは人間による一種の解釈と言ってもいいですよね。

ロボットという存在はみんなが好きなんです。人類が過去にロボットに助けられたことがあるとかいうわけじゃないのに(笑)。でも、それは今に始まったことではなくて、神話の中でも人がつくり出した人間が出てきますし、18世紀には「オートマタ」といったからくり人形もありました。要は、ロボットは人の願望を形にしたものなのです。

――いろいろなところでロボット開発は進んでいますが、特に興味を持っている事例はありますか。

青木:僕が一番面白いと思ったのはグーグルが買収したネストですね。インテリジェントなサーモスタットで家の中に人がいるかどうかを見ていたりしますが、興味深いのは他の家がどうしているかまでも見ていたりします。そういった多くの家庭の生活データを、ビッグデータ的に活用できるようになっているのです。

――ネット企業ということでは、アマゾンが無人飛行機の「ドローン」を使って商品を配送する実験をしています。

青木:ドローンもロボットですが、今流行している理由は、電池の性能が上がったのと、制御するコンピューターが小型化して単体で飛ばせるようになったのが大きいですね。でもそれに可能性があるかというと、やはり飛行機は危険ですし、実際には自動運転のトラック輸送のエネルギー効率の方がいいですから、商品配送に使うといった取り組みもおそらくは“打ち上げ花火”みたいなものでしょう。

――グーグルやアマゾンなどのネット関連企業がロボットに興味を示しているのは、どういう背景なのでしょう。

青木:スマホの次はロボットという感じなのだと思います。

――ロボットには自律型や遠隔操作型があったり、形にも人間に近いアンドロイド型から始まって多種多様ですが、それぞれの目的に応じてあるということでしょうか。

青木:そうですね。そういう意味で考えると、IoTは身の周りのものが全部ロボットになるということかもしれませんね。ロボットがいろいろいるということではなくて。

――いろいろなもののロボット化は、以前に「ユビキタス」ということがよく言われましたが、それに近い感じがしますね。

青木:そうですね。ユビキタスとIoTは基本的には同じだと思います。

――つまり、IoT、ロボット、ユビキタス、の三つは近い関係にあるということですね。

青木:今ロボットが注目されるようになってきた理由は、センサーが小型化して高性能になり安くなったからです。そして10年以内にもっと安くなるでしょう。そうすると、いろいろなものにセンサーが搭載されて、多様な認識ができるようになります。加えて、人とコミュニケーションする音声認識や音声合成といったソフトウエアの部分も、CPUが早くなったことで進歩してきました。だから、これからはもっと新しいことができそうだと考えています。

――例えば、自動車がロボット化していくと、ワイパーの動きを取れば各地の天気がリアルタイムに分かるといった話があります。いろいろなものがロボット化してつながっていくと、これまで分からなかったことが分かるようになりそうですね。

青木:それは家の中でどんどん起きてくると思います。誰がトイレに入ったとか、お風呂に入っている時間はどれくらいとか、寝ている時間とかも分かるようになってきて、そうすると、効率の良い睡眠や、健康の管理、さらには子どもの成績を伸ばすためにはどんなライフスタイルがいいのかみたいなことまでデータ化されて分かるようになるでしょう。

――そうすると、広告やマーケティングにも新しい形がありそうですね。ところで、IoTを「ハードウエアの再定義」や「インターネットの再定義」などと指摘する人もいますが、どう思いますか。

青木:IoTは生活を再定義するという方が近い気がします。自分が何時に起きるかを目覚まし時計やベッドが自動でコントロールするようなことですね。生活に近い身の周りのものが賢くなると、変化が生まれると思います。今までの情報ツールは個人を向上させるものでしたが、IoTは個人だけでなく家族や集団なども向上させるツールなのではないかと思います。家族がより楽しくなるというような。

ベンチャーとニートは紙一重

 

――日本の製造業は元気がないといわれて久しいです。ロボットという存在は日本的なものと相性がいい気もするのですが、可能性はどうでしょうか。

青木:そのためには、ベンチャー企業がもっと増えないと海外とは競争できないと思います。大企業が市場のない状態でチャレンジするというのは難しいと思うので。ベンチャーとニートは紙一重で、今の社会はチャレンジの芽を摘んでしまっているような気がします。グーグルなども、社内でというより、新しい会社を買収して成長しているわけで、そういう循環ができてこないとなかなか勝てないですね。大きい組織の中でチャレンジするというのは基本的に組織構造の方向性が違うので、社内でイノベーションといっても難しいと思います。例えば、社内で(アクティブスポーツなどに特化した小型ウエアラブルカメラの)「GoPro」をつくろうと思ったら、10年間サーフィンしかしていない社員がいても許容しないといけないわけですが、そんなことをしたら会社が持たないわけです。ですので、大企業がいろいろなベンチャー企業を買収したり提携したりという形が製造業にも広がってくると変わるんじゃないでしょうか。

――脳波でロボットを動かすというのは興味がありますか。

青木:ありますね。脳波で動くロボットなどはかなり研究が進んでいて、その分野は進んでいくと思います。ただ、それを推し進めると直接脳に電極を刺したりしないといけないのが難点です。研究機関の取り組みでも、ものすごいヘッドギアをかぶって脳波を取っています。なので、電極以外のブレークスルーが必要なのだと思います。

――今後、人間とロボットの関係ってどうなっていくのでしょう。

青木:それは、人間と妖怪の関係に近いのだと思います。ロボットは頑張ってもペットを超えられないでしょう。ペットはかなり人間に近い立ち位置なので、家族の順位としてはロボットはペットより下です。それでいて人間の側にいるものというと、それは妖怪だと思うのです。いつか「座敷わらし」みたいなロボットができるといいですよね。大事にして拝んでいるといつの間にか稼ぎが上がるみたいな(笑)。

――それは面白いですね。SFの世界ではロボットが同盟を組んで反乱を起こすみたいな話があったりしますが、そこまではないにしてもロボット同士がつながると危険な面もありそうですね。

青木:そういう面もありますが、たぶんそれに人が順応していくのではないでしょうか。フェイスブックのことを考えても、自分の日常を大人数の前にさらすことは一昔前には考えられなかったですが、今はそれが普通になっていますので。

――常識が変わり、それに合ったリテラシーができていくということですね。これからロボットが進化していくとどのような未来が来るでしょう。

青木:近い将来でいえば、身の周りのものが全部ロボットになり、自分の意図を理解してくれて、コミュニケーションできるようになってくると思います。今のインターネットのトラフィックはほとんど音声や映像、テキスト情報のような目とか耳で捉えるものですが、これからはセンサーデータが増えていくことで、トラフィックの構成は変わっていくでしょう。

――これからのロボット開発で、大きな課題になるものはなんでしょうか?

青木:法律だと思います。センサーデータの使い方にしても個人情報保護法などが関係してきますね。

――将来こんなロボットをつくってみたいというのはありますか。

青木:実際に今つくっているのですが、家族を支援するロボットです。いわゆる「鍵っ子」っていますけど、その子が家に帰ってきた時や帰って冷蔵庫を開けた時にスマホに通知が届いたり、スマホからボイスメッセージを送れたり、スマホを使っていない自分たちの親の世代ともやりとりできるといった、ゆるいコミュニケーションがつくれるロボットです。

プロフィール

  • Aoki shunsuke pr
    青木 俊介
    ユカイ工学 代表

    2001年、大学在学中に「チームラボ」を創設し取締役CTOを務める。07年、ロボットベンチャー「ユカイ工学」を設立。ソーシャルロボット「ココナッチ」や、フィジカル・コンピューティング・ツールキット「konashi」などを開発・販売。
    「Telepathy One」「necomimi」「チームラボハンガー」など他社との共同開発も手掛ける。

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