日本企業がめざすべき新しいマーケティングの世界 #04

日本企業に問われる

より高い次元の目的意識とCSV

  • Ao4 4213 pr
    Philip Kotler
    ノースウエスタン大学 ケロッグ経営大学院 教授
  • Ao4 4289 1 pr
    山本 浩一
    株式会社電通 CDC 専任局長

CSRのさらに先を行くCSV(共有価値の創造)

 

山本:最後に、マーケティングの未来について、どのようにお考えになっているのか伺いたいのですが。これまでのお話で、コンテンツマーケティングなどの新しい考え方や方法論は、まだ試行錯誤の段階にあるとおっしゃっていました。その進化をさらに推し進める要因は何だと思いますか。

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コトラー:日本にとっても重要な点なので、その答えとなる話をする前に少しおさらいをしておきましょう。

これまで、マーケティング1.0、2.0、3.0と進化しました。2.0では、完璧な製品であることを人々に説明するだけではダメだ、つまり理性に訴えるだけでは納得してもらうのに十分ではないと指摘されました。ところが、多くの日本企業は、2.0どころか、まだ1.0の段階で止まっているように私には感じられます。とにかく完璧な製品をつくって、人々にそのことを伝える、他社製品と比較して製品の優秀さを実証する、それだけで十分だと思い込んでいないでしょうか。


2.0を実現するために目指すべきは、物語を語るということです。それによって、ブランドを構築するのです。ひとたびうまく築き上げられたブランドは、人々のライフスタイルの一部として生きたものとなります。理屈でそうなるというよりも、感情的に「私のライフスタイルの一部」になるのです。

その上でのマーケティング3.0ですが、3.0には、さらに構築すべき別の側面があります。企業がもう一段上の高邁な目的意識を示すということです。マーケティング4.0は、生活者の自己実現欲求な働きかけるマーケティングを意味しますが、その前のステップとして、企業側がより高い目的意識を示すことが重要となります。世界をより良くするための変化を引き起こす主体として自らを位置づけ、世界が抱える諸問題を何とかしたいと思っているという真心を示すのです。
もし、「あなたの会社は世界にどのような変化をもたらすのですか」と尋ねられたら、どう答えるか。例えば「地球は温暖化の危機に瀕している。その課題を解決したい」と答える経営者もいるでしょう、他にもいろいろ考えられます。いずれにせよ、高い次元の目的意識でなくてはなりません。
それは、ハーバード・ビジネススクールのマイケル・ポーター教授が『Harvard Business Review 』に寄稿しているように、CSR(企業の社会的責任)で掲げることよりもっと先を目指すことになります。彼は、CSRと呼ばれるものを果たすだけで満足するのではなく、共有の価値を生み出さなければならないと唱えています。それが、CSVすなわちCreating Shared Value(共有価値の創造)です。ポーター教授は、CSVという概念を用いて、企業が骨の髄まで、つまり企業に属する人間が全て、世界をより良くすることを常に考えているような企業をイメージしています。日本の企業がそうであってはならない理由はどこにもありません。
企業全体がそういう考え方を持てば、目指すべき姿に向け、事業活動に関する意思決定も大きく影響されるでしょう。そこまで来ると、少し違うレベルになります。ただ現実は、日本に限らず、世界中のほとんどの企業は、単に良い製品をつくりたいと考えていて、それで十分だと思っています。しかし、良い製品をつくる会社が複数あるとしたら、どうやって自社を差別化したらよいのでしょうか。多くの人々にとって切実な課題を解決する、より高い次元の目的意識を持つこと、それが一つの答えになるでしょう。

 

ブランドの「物語」を製品に込められるかどうか

 
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山本:日本の歴史の中でも、そういった姿勢を持っていた偉大な企業が多数あったように思います。いや、今でも多くの企業がそういった理念を持っているのだと思います。しかし、それをマーケティングというレベルにおいて統合化することができずにいるように思います。日本の企業にとっては、その点が大きな課題になるのではないでしょうか。

コトラー:おっしゃる通りですね。例えば、創業者が偉大な理念を持ってこんな製品をつくったという逸話は、どこの会社でも社内でよく聞く話ではないでしょうか。そういった逸話は、企業に一種のオーラを与えるものなのに、その「歴史」が十分に生かし切れていないように思います。今マーケティングで注目されているのは、「物語」を語るということなのです。企業のブランドそのものが物語なのです。今ある企業のほとんどは最初は小さな会社でした。素晴らしい才覚に恵まれた誰かが興した小さな会社であったはずなのです。そういうことに、もっと光を当ててみるべきなのではないでしょうか。

山本:創業者を現実味のない玉座にたてまつるようなやり方ではなく、生活者や社会と結びついた存在として感じられるような形で取り上げるべきなんでしょうね。

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コトラー:そうだと思います。日本企業の社員の愛社精神が強いのは肌で感じます。胸につける会社のバッジのデザインにも会社への思いが反映されていますよね。日本企業の社員は、会社の歴史についても詳しいはずです。会社に興味を持ってもらうためにきっと教えているでしょう。しかし、会社への興味や愛を育むということと、それを実際に製造する製品に反映したり、物語として語ったりすることとは、また別の問題です。

山本:そうですね。そのご指摘を胸に、これからもコミュニケーションビジネスのあり方を考えていきたいと思います。このたびはどうもありがとうございました。

コトラー:こちらこそ、良い質問をありがとうございました。

プロフィール

  • Ao4 4213 pr
    Philip Kotler
    ノースウエスタン大学 ケロッグ経営大学院 教授

    マーケティングの世界的権威であり、WMSを創設、主催している。さまざまなマーケティング理論を構築し、多くのグローバル企業経営者に影響を与えた。アルファ・カッパ・サイ賞を3度受賞している。主な著作に『コトラー&ケラーのマーケティング・マネジメント』『マーケティング原理:基礎理論から実践戦略まで』『コトラーのマーケティング入門』『資本主義に希望はある』など。

  • Ao4 4289 1 pr
    山本 浩一
    株式会社電通 CDC 専任局長

    東京大工学部建築学科卒業、1986年に電通入社。
    1999~2000年にコロンビア大に留学、MBAを取得。
    専門領域はグローバル・ブランド・マネージメント、
    テクノロジー・ブランディング、イノベーション・マネジメント、
    コミュニケーション・デザイン、ユーザー・エクスペリエンス・デザインなど。

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