ロボティクスビジネス入門講座 #01

Robiの生みの親 高橋智隆氏が語る

コミュニケーションロボットこそ日本の活路

  • Profile takahashi
    高橋 智隆
    東京大 先端科学技術研究センター 特任准教授
  • Profile nishijima 1
    西嶋 賴親
    株式会社電通 ビジネス・クリエーション・センター

現在、ロボット産業の国内市場規模は約9,000億円。およそ20年後の2035年には約10倍の9.7兆円に成長すると経済産業省は予測しています(平成22年度ロボット産業将来市場調査より)。
そのような中、電通はこれまで培ってきたコミュニケーション・デザインの知見・ノウハウを活かしながら、さまざまなロボット開発に参加しています。そして2014年11月、より豊かなロボット共生社会の実現に貢献することを目的とし、社内横断組織「電通ロボット推進センター」を立ち上げました。
この連載では同センター代表の西嶋頼親氏が聞き手となり、日本国内の著名なロボットクリエーターや、ロボット関連企業のパイオニアを毎回お招きして「ロボティクスビジネスとは何か」を解説していきます。

日本のロボット産業市場

ロボティクスはビジネスとして捉えるフェーズに移行した

西嶋第1回は、トヨタ自動車、電通と共にロボット宇宙飛行士「KIROBO」のプロジェクトに中心的存在として参画し、デアゴスティーニ社の組み立て式ロボット「Robi(ロビ)」のデザイナーでもある高橋智隆先生に、ロボティクスビジネスとは何かを伺い、さらに今後の展望などもお聞きしたいと思っています。先生、宜しくお願いします。

高橋宜しくお願いします。

西嶋現在ヒト型ロボットだけでなく、ロボット掃除機などの単機能に特化したロボットが消費者に浸透して一市場を形成しています。また、ネットワークやクラウドでつながる「スマートロボット※1」もキーワードになりつつあります。この最近のロボットに注目が集まる様子は、これまでのブームとは違うと思うのですが、いかがですか?

※1 スマートロボット:スタンドアロン(単体)で考えて動くタイプではなく、インターネットなどに接続されて、クラウド上でも情報処理を行うタイプのロボット。内蔵カメラを備えたものもあって、外出先から部屋の内部を確認できたり、HEMS(Home Energy Management System)との連携やロボット同士で協調することも可能となっている。

高橋:今まで大阪万博や筑波科学博の開催時など、何度かロボットブームが訪れました。しかし、イベントが終わると同時にブームも去ってしまった感があります。最大の違いは、シリコンバレー発ということですね。2013年末にグーグルが8社のロボットベンチャー企業を買収しましたが、大手からベンチャーまで、IT企業がロボット分野に投資をすることで大きな波をけん引しています。

もうIT分野は成熟しきって、うまみがなくなったと考えた投資家が、次なるターゲットとして参入してきているのが今のロボットビジネスです。現在ロボットを取り巻く状況は、学術研究が技術開発をリードしていた時期から、民間企業も含めアウトプットするフェーズに転換したといえるでしょう。

西嶋:ロボットはアカデミックにとらえる時期から、ビジネスとしてとらえる時期に移行したということですね。

高橋:そうですね。気を付けなければいけないのは、このロボットビジネスは、今まで日本がやってきたロボット開発の延長線上にあるのではないということです。一時は「ロボット大国ニッポン」といわれ、ロボット技術に関しては日本が先行しているという自負を持っていたと思うのですが、過去に日本が注力してきた方法で再度踏み込んでいくと、方向性を見誤ってしまう可能性があります。今の時代の文脈に沿った「勝負できる分野」、そして「勝負の仕方」があると思っています。それは従来のロボティクスではなく、ITの先にあるもので、テクノロジーのリンケージの仕方が異なっているのです。

西嶋:今後、可能性がある分野としては、日本がけん引してきた製造分野の産業ロボットの他に、介護、クルマの自動運転、ドローン(飛行タイプ)、軍事、軽作業、そして先生が取り組んでいらっしゃるサービス分野のコミュニケーションロボットということになるでしょうか。

高橋:ビジネスになってきているということは、真剣勝負です。ドローンもそうですが、アメリカが軍事予算を投入しながら行う開発や、グーグルの大量資本による研究などと勝負をしても勝ち目はありません。

僕は、スマートフォンの次に来る新たなデバイスとして、ポケットに入るような小型の人型コミュニケーションロボットを1人1台持つ時代が5年、10年以内に来ると思っています。今はiPhone 6が好調だといわれていますけど、結局、スマホというデバイスが頭打ちになっていくのは明白です。みんな、スマホの次のデバイスを探しているわけです。腕時計型だ、メガネ型だなんていわれていますが、僕はどちらも違うと思います。

西嶋:スマートフォンのどこが成功要因で、そして小型コミュニケーションロボットのどこにチャンスがあるのでしょうか?

高橋:スマホがなぜ成功したかというと、インターフェースをボタン操作からタッチパネル、モーションセンサーに変えたことで使いやすくなったからです。それにつきると思っています。そして、もう一つスマホに仕込まれたインターフェースが音声認識です。しかしこれは、「開発側が思ったほど使われなかった」という点につまずきがありました。この足踏み状態を脱却するためには、みんなに音声認識というインターフェースを使ってもらう方法を考えることがいちばん大切です。そこに小型コミュニケーションロボットのチャンスがあると思っています。

スマホの音声認識は実用レベルの十分な精度を持っているにもかかわらず、いまだに定着しているとはいえません。それは話しかけるものが「四角い箱」だからです。私たちは、自分が飼っている金魚でもカメでも、極論を言えば熊のぬいぐるみにさえしゃべりかけちゃいますよね。それはなんでかというと、そこに命が感じられるからなんです。いくら賢くても、四角い箱だとしゃべりかけづらい訳です。

ということは、スマホにちゃんとしたカラダ、動き、キャラクター設定などを与えることで、みんなよろこんでしゃべりかけるようになる。そしてもちろんしゃべれば情報やライフログが取れて、それをビッグデータとして活用したら、またサービスとして返せるわけです。そういう小型の人型のロボット端末がスマホの次に来ると考えています。

西嶋:小型ロボットを連れて歩く感覚でしょうか。

高橋:そうですね。と言ってもRobiでは大き過ぎるので、ゲゲゲの鬼太郎の目玉おやじみたいなポケットに入る大きさで、それがしゃべるイメージです。

西嶋:スマホからロボットへの移行段階で、スマホ上で動くキャラクターの可能性はありますか?

高橋:それは、ないと思っています。なぜなら今、バーチャルなものの価値の大暴落が起きているからです。ここ10年くらい、リアルなモノを持つこと、個人所有することは合理的じゃないということで、どんどん避けられてきたわけですよね。CDも買わなくなったし、ダウンロードさえしなくなった。ところが、それにむなしさを覚えて、「やっぱり自分のモノを持ちたい」「愛着を持って愛でたい」と思うようになった。つまり、バーチャルからリアルへ回帰してきている。

結局、CGやアプリでは感動しなくなってきているわけですよ。みんな、実体のあるものじゃないと愛着が持てなくなっている。バーチャルなものを、いかにリアルな世界に引き出すかがポイントになっています。3Dプリンターやプロジェクションマッピングというのは、まさにバーチャルの世界のものを、いかに現実世界に引き出すかということです。だから、バーチャルなキャラクターではユーザーとの関係性は生まれないと思っているのです。

また、スマホの画面でできることはやり尽くされた感があります。そこに手足、頭が生えたハードウエア、プラットホームができることで、新たなソフトやサービスがいくらでも考えられるわけです。何か革命的なハードウエアが出ることによって、またその周辺にいろんなアイデアを持った人たちがサービスを生んでいく…ということを繰り返していくのだと思いますね。

西嶋:高橋先生と一緒にKIROBOつくらせていただいた経験から、新しいハードを生み出すには時間と苦労が伴うことを実感しました。ビジネス的に考えるとリスクもはらんでいるように感じますがいかがでしょうか。

高橋:もちろんハードを生み出すには時間もかかるし、リスクもあります。あまり効率が良いとはいえないんですね。でも、だからこそ僕は面白いと思うのです。効率が良い、というのは誰かがつくったイノベーションに乗っかって、ソフトやサービスを生み出すことに言いかえられると思います。だからそれに慣れてしまうと、みんな次に出てくるハード待ちの状態になってしまう。しかし私は、古くはファミコン、最近ではiPhoneのような、時代を変える“キラーハードウエア”をつくりたいのです。

感情に訴える工業製品

西嶋:iRobot社CEOのコリン・アングル氏は「日本はヒト型ロボットにこだわり過ぎだ。」という発言をされています。確かに同社のお掃除ロボット「ルンバ」は全世界で800万台は売れていると言われ、単機能ロボットにおけるビジネスの成功という意味では、ひとつの正しい形を示していると思います。ただもちろん、それだけではない部分もあると思っていますが、先生のご意見を頂けませんでしょうか。

高橋:確かにヒト型ロボットは、作業をする上では効率的な形ではありません。僕も掃除をする、皿を洗うといった類のタスクをヒト型のロボットにさせるのは、明らかに間違いだと思います。ただ、先ほど言ったようにコミュニケーションロボットに関しては、人間が愛着を持てる、あるいは感情移入ができるヒト型がベストだと思います。

しかも、ここは日本人に勝ち目が十分にあるのです。多くの外国人は、グッドセンスなヒューマノイドロボットを知らないので、「ヒューマノイドロボットって何のためにあるの?そんなのやってもしょうがないよ」と感じていると思うのです。でも、日本は漫画やアニメの中で、伝統的に可愛らしいロボットのイメージを国民的な共感を呼ぶレベルまでつくり上げてきました。むしろその部分で、海外と勝負ができると思っています。

西嶋:先生のデザインされたKIROBOは、現時点であえて日本語認識機能のみ(音声認識および知能化はトヨタ自動車が担当)に絞ったのに、日本よりも海外、特にロシア・中国・南米などでの人気が高いです。ロシアでは国立博物館に複製が置かれて(※2)、中国では若田宇宙飛行士との別れのシーンがネット上で話題になり、そしてブラジルからは全放送局が取材に来ました。日本のロボットデザインに関しては、定量評価できない部分での強さがあることは実感しています。

※2 バイコヌール国立博物館に置かれているKIROBO。精巧な木製の模型らしく、ネットでは「キロボ」ならぬ「木ロボ」なのではないか?として指摘されていた。

高橋:そうですね。これについては文化と密接に関わっているので、諸外国が「やっぱり日本のロボットはかわいいよね」と思っても、一朝一夕にマネできるものではないでしょう。

少し話は変わりますが、広告やテーマパークなどは、ある意味人の愛着とか感情移入といった心理をコントロールするビジネスですよね。その部分は工業製品がこれまで扱っていなかったジャンルだと思っているのです。ほとんどの工業製品は、機能や性能、コストパフォーマンスといったところでしか勝負をしてこなかった。

ちょっと違ったのは、ある時期のソニー製品やアップル製品のように、単なる工業製品を超えた、愛着をうまく引き出す世界観をつくるようなブランディングです。それをさらに進化させて、人が生き物や他の人に対して感じるような感情を引き出すことができる工業製品をつくれたならば、まったく新しい、面白いことができるはずです。

西嶋:私たち電通ロボット推進センターも「正しく動くロボットをつくること」だけでなく、コミュニケーション会社としての知見を活かした「人びとにより受け入れられやすい、世の中のためになるロボットなのか」という2つの視点を大切に考えています。先生の生み出される愛着をもつロボットデザインを、ブランディングとビジネスの両面において支援していきたいと考えております。

後編では引き続き高橋先生にお話を伺って、「コミュニケーションロボットがヒト型でない可能性はあるか?」「ロボティクスビジネスと教育」などについて掘り下げていきます。
この連載では日本を代表するロボティクスビジネスの主要メンバーをお招きしてまいりますので、どうぞご期待ください。

プロフィール

  • Profile takahashi
    高橋 智隆
    東京大 先端科学技術研究センター 特任准教授

    ロボ・ガレージ代表取締役社長。東京大先端科学技術研究センター特任准教授、大阪電気通信大総合情報学部メディアコンピュータシステム学科客員教授、福山大工学部電子ロボット科客員教授、ヒューマンキッズサイエンスロボット教室アドバイザー、ロボット専門店ロボベース顧問。また、業界の第一人者としてテレビ出演も多数。

  • Profile nishijima 1
    西嶋 賴親
    株式会社電通 ビジネス・クリエーション・センター

    電通ロボット推進センター代表。トヨタ自動車、東京大学先端科学技術研究センター、ロボ・ガレージ、電通の4社共同プロジェクト、「ロボット宇宙飛行士KIROBO」プロジェクトマネージャー。2013年より慶應義塾大学大学院・宇宙システムラボ所属。2014年フランス国立理工科大学に短期留学して、人とロボットが宇宙で暮らすリスクマネジメントを研究。コピーライター、東京都立第一商業高等学校非常勤講師(マーケティング)、日本ロボット学会所属。

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