Communication Shiftについての往復書簡 #03

和久田昌裕(電通九州)

⇔並河進(電通ビジネス・クリエーション・センター)

  • Masahiro wakuda pr2
    和久田 昌裕
    株式会社電通九州 クリエーティブディレクション局
  • 30
    並河 進
    株式会社電通 ビジネス・クリエーション・センター ソーシャルデザイナー/クリエーティブ・ディレクター/コピーライター

僕がこの3月に出した本、『Communication Shift 「モノを売る」から「社会をよくする」コミュニケーションへ』(羽鳥書店)の中で行った、広告の未来についての思索を、いろいろな方と交わしていく、往復書簡。
これまでの2回は、僕から、相手の方へ手紙を書いてきたのですが、今回は、攻守交代。まず、この本を読んだ相手の方に、僕への手紙を書いてもらおうと思いました。

 

今回の往復書簡の相手は、「くまモンのほっぺ 紛失事件」のキャンペーンをプランニングした、電通九州のクリエーティブディレクター、和久田昌裕くんです。
和久田くんとの最初の出会いは、東日本大震災の後。電通九州のクリエーティブディレクター今永さんから、「震災復興の企画を考えている熱い奴がいるから、相談に行かせていいか」と頼まれて、会ったのがきっかけです。
その後、ずっと接点がなく、二度目は、つい最近。僕が福岡に行く機会があり、いっしょに飲んだのですが、あまりちゃんと話せなかったので、それが心残りだったのもあって、往復書簡をお願いしたのです。
でも、この往復書簡の中で新たな事実が明らかに!(おおげさか…)僕は、震災の後が、最初の出会いだと思っていたのですが、でも、なんと、実は、最初の出会いじゃなかったのです。

 
 

並河さんへ。

ご無沙汰しています。西の福岡から和久田です。
先日は、久々にお会いしたにもかかわらず、自宅にまで招いてしまい恐縮です。
フットワーク軽く、学生みたいに宅飲みとかやっちゃう感覚、距離の近さ。
そんなカンカクで、いろんな人と人、企業と企業、コミュニティとコミュニティをつなぐ。
それが遠くから見ている、並河さんの印象です。

東京と福岡、そしてベースは同じコピーライターという職種。
そんな並河さんと僕なので、直接にお仕事したことはもちろんございません。
先日の会合も、そしてその前に東京でお会いした時も、僕ら二人を引き合わせたのは、今永政雄というクリエーティブディレクターでした。その今永さんが「二人でウェブ対談するんだったら、俺のことを書けよ!」と言っていたので、このくだりが挿入されているわけですが(今永さんこれでいいですか?)、実は、並河さんとのファーストコンタクトは10年以上前の2004年。僕が電通九州に入社し、汐留で同期と一緒に新入社員研修を受けている中の、プログラムの一コマで、並河さんは来られました。

その講義はメイン講師としてコピーライターの角田誠さん。そして若手代表として並河さんが来られたように記憶しているのですが、そのときの印象は、角田さんには大変失礼ですが、メインの角田さん以上に、並河さんの方が印象に残っています。大変偉大なる先達を差し置き何故なのか?それは、僕は社内研修を務める講師の方といえば、堂々と自分の仕事を誇り、新入社員ならば誰しも持っている夢や希望に満ちあふれた、未来のある話をするもんだとばかり思っていたからです。

しかし、自分の仕事や企画のことを話す並河さんは、どこか自信なさげで。頼りなさげで。自分の仕事を堂々と誇るというよりも「俺、こんなこと考えてんだけど、どう思う?」みたいな印象を受け、その時の様子は2か月にも及ぶ長い研修中、ずっと気にかかっていたのです。

その時、おぼろげながらに気付いていたこと。そして「Communication Shift」を読んで確信したこと。あの時、2004年のあの時、10年前のあの時。
並河さんは迷っていたのではないかと。迷って迷って迷った挙句に、まだ広告のことなんか何も分かっちゃいない僕ら若者たちに「もしかしたらこれは広告の話じゃないのかもしれないんだけどさ、でも俺は正しいと思うんだけど、どう思う?」みたいなノリで語りかけてきたんじゃないですか?

その時の迷いの深さや長さがどの程度だったのかは分かりません。でも、恐らくその迷いの末にたどり着いたシフトこそが、今の並河さんの原動力であり本に書かれていることなのだと、改めて思った次第です。でも、その改めて思うきっかけというのも、たぶん自分も迷ってるからだろうなぁ、と。今の広告業界の潮流 として、社会的に正しいことをするべき、というのは分かる。僕もたまに講演とかで「ソーシャルグッドは世界の潮流です」とか偉そうに言っちゃってますし。

でも、自分の迷いの中にもうひとつ、違う軸もあって。正しいことを堂々と言うってのは難しいし、何より恥ずかしい。個人的には正しいことよりも楽しいことをしたい。そんな自分の中のテレのようなものを見透かされるような気分で、途中からCommunication Shiftを読んでいました。で、自己完結的に強引に出した結実。それは 自分にとってのシフトとは、正しさと楽しさの間に一本の線を引くようなことかもしれない、と。

一本の線といってもお互いを分断するような線ではなく、双方のエネルギーを掛け合わせるような線。数学的に言うとベクトルの総和。正しいと楽しいの両方を満たし、より遠くへ行ける矢印みたいな仕事こそが、今自分がやるべきことなのかもしれないなぁ、と。

ベクトルの総和

ボランティアというと、自己犠牲の精神のような意味合いでとられがち。ですが、コミュニケーションシフトに登場したみなさんは、恐らく誰ひとりとしてそんなことは思ってない。自己実現なんて陳腐な言葉でも括れない。たぶん、自分なりの、そして社会にとっての正しさと楽しさの総和をクリエーティブという手法でもって世の中に送りだしている人たち。人によっては並河さんのように迷って迷って迷った末にたどり着いた境地。

どうやら自分にとっても、この広告という旅は、まだまだ長い旅になりそうです。並河さんにとっても、良い旅を続けられますよう、遠い西の地から祈念しております。福岡へお越しの際は、またいつでもお立ち寄りください。それにしても、先日は飲みすぎましたね。

追記:
そういえば、件の今永さんに「僕が正しいことなんか書けるんかなぁ?」と言ったところ「正しいことなんかどうでもいいから、俺のことを書けばいいんだよ!それが正しいことなんだよ!」と言われたことを追記しておきます。これでいいですよね、今永さん。

   

 

   
 

和久田くんへ。

手紙ありがとう。

あの講演のことは、とてもよく覚えています。
自分がとてももがいていたときで、当時は、ボランティアとアイドルをかけあわせる挑戦をしてみたり、今永さんといっしょに「かじれ!ケーザイくん」という経済をやわらかく伝える新聞紙面をつくってみたり、でも、なかなか話題にならず、自分がやっていることが「何」なのか、自分でもよく分からない。うまくカテゴライズする言葉がない。ソーシャルデザインという言葉も知らない、そんな頃でした。
広告会社の未来は、僕は、既存の広告会社が取り組んでいないところにこそある、とだけは漠然と確信していて、NPOやボランティア、地域の街の活性化など、そういうある種お堅い世界に、広告会社の面白い発想を注入したら、どうなるだろう?そのことに、「広告の人間が誰もまだやっていない」という一点だけで可能性を感じて、その穴を掘り進んでいました。

でも、横を見ると、コピーライターの同期や後輩が、みんなが知っているCMをつくって、大きな賞を獲ったりして、やっぱり、自分がやっていること、やろうとしていることは、ニッチで、マニアックで、誰からも理解されない類のことなんじゃないか、いや、いっそ、それでもいいや、100人に一人、1000人に一人ぐらい面白いと思ってくれる奴がいればそれでいいや、なんなら誰も分かってくれなくたってかまいやしない、と、やさぐれていた頃だったのです。
ちょうどその頃、社内の研修で話すことになって、実は、講演らしい講演をしたのはあのときが初めてだったんです。(当時みんなが知っているキャンペーンなんてひとつも手掛けていなかった僕を、講師として起用してくれた角田さんに感謝です)
だから、すごく張り切っていて、せいいっぱい話そう、と。
ぜんぶで、20人の若手社員が参加したけれど、だぶん、僕の取り組みに共感してくれる奴は、いたとしても、1人。誰もいないかもしれない。でも、たった1人でいいから、いたらいいなあ、と思って、話したんです。
でも、そうやって話したら、その後、参加した社員の方々から、講演の感想が届きました。
自分の目を疑ったんですが、ほとんどの社員が、「勇気をもらった」「すごく共感した」というようなことを書いてくれていたんです。僕は、もうバカみたいに素直に受け取ってしまい、本当に、うれしくて、うれしくて、恥ずかしいけれど、その感想文をずっと捨てずに大切にとってあったんです。
でも、そのときに参加していた社員の中に、和久田くんがいたのは、気づいていなかった。
で、今回、その感想文のことを、稲妻に打たれるように思い出して、引き出しの中を探してみたら、ありました。
若かりし和久田くんからのメッセージが!

 

ずいぶん時間があいてしまいましたけど、やっと、個人的に(公衆の面前でもありますが)、ちゃんと話せましたね。
当時の和久田くんが、くまモンのほっぺのプロジェクトをつくった今の和久田くんにつながっていると思うと、うれしい。
そして、そのつながっていく途中に、一瞬だけど僕もいて、和久田くんの人生に関与していたんだ、と思うと、さらにうれしい。
当時、すごく迷っていた自分も、迷っていたからこそ、未来の自分、未来の和久田くんに何かを渡すことができたのかもしれない。

今の和久田くんに、「正しい」と「楽しい」の両方のベクトルがあるとしたら、2つのベクトルがある良さって、「迷える」ということだと思う。

迷うからこそ、わくわくする。
迷うからこそ、いろんなベクトルが手に入って、結果的に、その総和が大きくなっていく。

僕も、これからも、迷い続けます。
お互いに、迷い続けましょう。

うーん、やっぱり、この往復書簡も、もしかしたら広告の話じゃないのかもしれないんだけどさ。でも、自分は、広告の話だと思ってるんです。ずっと。

 

プロフィール

  • Masahiro wakuda pr2
    和久田 昌裕
    株式会社電通九州 クリエーティブディレクション局

    2004年電通九州入社、コピーライター、コミュニケーションプランナーとして、企業広告、商品広告、キャンペーン、ウェブプロモーション、イベントなどのコアアイデアを立案。直近の主な仕事は「くまモンほっぺ紛失事件」「誰も知らない西部電気工業」「キャナル市」など。受賞歴にTCC新人賞、FCC賞、ACC賞、OCC賞準グランプリ、CCN賞、福岡広告協会賞、CODO賞、ヤフーインターネットクリエーティブアワード、鈴木三郎助賞特別賞、広告電通賞プロモーション賞、スパイクスアジア銀賞、PR WEEK AWARDなど。

  • 30
    並河 進
    株式会社電通 ビジネス・クリエーション・センター ソーシャルデザイナー/クリエーティブ・ディレクター/コピーライター

    1973年生まれ。
    電通ソーシャル・デザイン・エンジン代表。
    社会貢献と企業をつなぐソーシャル・プロジェクトを数多く手掛ける。「電通ギャルラボ」代表。ワールドシフト・ネットワーク・ジャパン・クリエーティブディレクター。上智大学大学院、東京工芸大学非常勤講師。受賞歴に、ACCシルバー、TCC新人賞、読売広告大賞など。著書に『下駄箱のラブレター』(ポプラ社)、『しろくまくんどうして?』(朝日新聞出版)、『ハッピーバースデイ 3.11』(飛鳥新社)、『Social Design 社会をちょっとよくするプロジェクトのつくりかた』(木楽舎)他。

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