マスター・オブ・イノベーションマネジメント #07

有田一樹×志村 彰洋:後編「レールに乗らされていない真のイノベーションを実現する」

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    有田 一樹
    株式会社ONTROX
  • 志村 彰洋
    株式会社電通 関西支社 マーケティングデザイン局

#6に続き、ONTROXの有田一樹さんと、日米のイノベーションマネジメントの違いについての対談をお送りします。人の素養や環境が違う中で、日本でどのようにイノベーションマネジメントを行っていけばよいのかを、有田さんとともに考えていきます。

有田一樹×志村 彰洋

技術で先手を取る米国と技術を使わされている日本

有田: Hadoop(大容量データを分散処理するミドルウェア)が公開されて話題になっていますが、個人的には、本当はもっと新しい技術があって、セカンドハンドだから公開しているんじゃないかと疑っています(笑)。もっと違うやり方で高速処理を行うことは、日本でも絶対にできるはずだと思っています。

志村:先手を取られている気はしますね。日本の技術力が劣っているとは思いませんが、先にオープンな場所に出されているので、そちらを利用してしまうように泳がされているんですよね。最初のサービスとテックの話に戻すと、サービスでスタートアップする場合は、テックカンパニーが使い古した技術を使ってサービスをつくっているため、やれることにも限界があるし、仕様が変わればサービスをつくり直さなければならないところが歯がゆく感じます。どこかのレールに乗ったイノベーションではエクィティーを取れないので、日本の企業にコアな部分を取らせるためには、どうやってファシリテートしたらよいのかに非常に悩んでいます。テック系でイノベーションを起こそうと思っても、日本は後手後手に回ってしまっていますね。

有田:昔、ヨットレースをしていたのですが、風を捉えてスタートダッシュするために、スタートラインでは全てのヨットが同じ方向に帆を向けています。ずっと同じ方向に風が吹くことはないので、思い切って他のヨットと反対の方向に帆を向けるという賭けに出るしかないかもしれないですね。

志村:賭けに出られるような知恵の出し方を、どうしたら日本企業が行えるようになると思いますか。皆がHadoopやビッグデータの方向に向かっている中で、別の方向を向くにはどうしたらよいのでしょう。

有田:同じ方向を向いている人が多ければ、競争も激しく、戦いも厳しいものになります。既存の技術が実現できることを、別の方法や領域でできないかと考え、なおかつ既存の技術の欠点を補うことを考える必要がありますね。

志村:既存の技術に精通していれば、その技術で実現できることを想像できますが、多くの人は、その技術が流行しているから勉強しようと考えていると思います。レディネスが低くて専門ではない人でも、アイディエーションができて、違う方向を向けるようにするためには、どのような環境や素養が必要となるのでしょうか。

有田:バランス感覚じゃないでしょうか。例えば、皆がHadoopに向いているなら、自分は量子コンピューターの領域を目指すというのはやり過ぎで、GPU(Graphics Processing Unit:画像処理を行うマイクロプロセッサ)でどうにかできないか、というような感覚ですね。

志村:日本の大企業でアイディエーションをやって、どんな領域でもいいし、査定にも関係ないと説明しても、同じようなアイデアばかり出てきます。もっと違った発想でアイデアを出してくださいとファシリテートしても、B2CがB2Bに変わっただけとか、デザインがちょっと変わっただけのアイデアしか出てこない。よほど自分たちの商品を売らなければならない、ということに悩まされているのではないかと感じました。

有田:まず、今の商品や技術はいらないと考えるところから始めると面白いアイデアが出てくるんですよね。

志村:現業が邪魔して、そのような発想にならないんだと思います。当社はそういった技術は使っていませんとか、その事業からは撤退していますといった縛りで発想できないところが、日本の大企業の問題点だと思いますね。米国でラボがあるような企業は、さまざまな取り組みを行っていますが、風土の違いなのですかね。

有田:企業の中でやれる風土があるのと、自分が起業してやってしまう人がいるところが違いますね。この前テレビで見たのが、俺が考えるモーターサイクルをつくるという起業家がいて、自分のアイデアをモーターサイクルの会社に話してもバカにされていたのですが、最終的に自分でアイデアを実現していましたね。

志村:バカにされるくらいが、ちょうどいいと思いますね。100人に話して99人が否定するようなことをやらなければイノベーションは起こらなくて、否定されることに恐怖を感じている人は大きなイノベーションは起こせないと思います。そういった考え方は一朝一夕では身に付かないので、小さな頃から植えつけるようにしなければダメなのかもしれません。

ビジネス化の最後の窓口となるディールメーカーという存在

志村:SVIPでは、メンターが付いて事業化に向けての指導を受けられますが、日本でも、もう少しメンターやアントレプレナーなどの先生のような人たちに出てきてほしいですよね。コンペティター分析のやり方など、アイデアや事業をストレッチしてくれるメンターなどの人たちは、どのように役割分担して事業化に関わってくるのでしょうか。

有田一樹×志村 彰洋

有田:事業家を成功させるためには、ビジネスを細かく指南してくれるメンターと呼ばれる人だけではなく、やはりディール(取引)を探してくれる人がいないとダメだ、とシリコンバレーのスタートアップは話しています。特定の分野に強いディールメーカーがいて、3~5社のクライアントのために動いており、スタートアップとの窓口となっていますね。

志村:僕が関わっている限り、ビジネスの最後の窓口となってくれるディールメーカーを日本で見たことがないですね。しかし、新たなカテゴリーの新興事業で、複数のディール先がない場合には、どうしているのでしょうか。

有田:聞いた話では、ディールメーカーには、何でも売る人から、特定の技術の知識が深くなおかつディールラインがつくれる人まで、いくつかのパターンがあり、何でも売れる人と自分たちの技術に詳しい2人のディールメーカーを雇うスタートアップもあるようです。

志村:ディールメーカーとは、どこでつながっていくのですか。SVIPのようなプロジェクトで知り合うのでしょうか。

有田:インキュベーション系のオフィスに入ると、紹介してもらえますね。日本人でエンジニアからディールメーカーまでスタッフィングしてくれて、組織つくりから運営までを行ってくれる人もシリコンバレーにいます。

志村:日本では、コンサルティングに頼むと、ビジネスデザインではなく青写真だけ担ってしまうという声を聞くこともありますね。イノベーションマネジメントやオンラインファシリテーションは、大手のコンサルティングに任せたくないという話もあり、日本ではうさんくさいとか、最終的なビジネス化のときにもたつきそうというイメージがあるのかもしれません。

有田:シリコンバレーでは、そういった人たちのモチベーションを常に上げさせるために、ベースのギャランティーと成果報酬を積み上げています。
私がシリコンバレーにいたころは、キャリアの最終目的がベンチャーキャピタル(VC)のファンドマネージャーになること、という人が多かったですね。そこに行くために、何度かベンチャーを立ち上げてバイアウトしている人もいます。VCのファンドマネージャーになるためには、まず顔が広く、多くのスタートアップと話をしてネットワークをつくらねばならず、技術やビジネスを分かっている必要があります。

志村:そのような人たちは、日本のイノベーションのトライアルを見に来てくれるものですか。シリコンバレーだけでなく、日本のラボにもいいものが眠っていて、シリコンバレーから来てくれれば、いいシナジーが生まれる気がするのですが、日本の企業はあまり呼んだりしませんよね。

有田:呼べば来てくれると思いますし、見たがると思いますよ。ただし、シリコンバレーはカンファレンスやサミットが多く、そのスピーカーになるということも彼らが有名になる第一歩と考えているので、シリコンバレーでの活動が中心となっているのではないでしょうか。

志村:やはり話してみると、機構的にも風土的にも、日本とは大きく違うという印象があります。ただし、日本の右向け右の風土の中でも時流に乗ってもうけている人もいるわけです。もし、米国型のアイデアがすべて稼げるものであれば、とっくの昔に日本は沈没していると思うので、最高のアイディエーションをしたからといって、ビジネスで富を得られるかというのは、また別の話だと思います。
われわれとしては、市場が大きくなって、皆が富を得られるようになり、パートナーとして認められることが重要なので、何を目標にしてアイデアをストレッチさせていくかが非常に難しい。有田さんのような有能なスタートアップの人は、まずワクワクしてモチベーションがないと面白くないと思いますが、日本の企業や関わっている人のマインドやレディネスについてどう思いますか。

有田:昨日、知り合いがHP作りで忙しくてもうかっているという話を聞いたのですが、だからといって、ONTROXにホームページ制作の部署をつくろうという話にはなりませんよね。もうけだけを考えるのであれば、利益率の高い仕事を数多く取ればいいということになります。

志村:事業化するときには、最終的な目標がもうけることになりがちです。アイディエーションするときに、何でもいいと言っているのに、その段階からもうけのことを気にしている人もいるんですよね。

有田:No Greedy, No Cheapということを、シリコンバレーでは散々言われてきました。脂ぎって金やシェアを欲しがってもいけないし、自分を安売りしてもいけないということですね。

儲けよりも人に見せたいものをつくればイノベーションにつながる

有田:日本にもしっかりとした技術やサービスがあるのだから、日本の企業はもっと日本のベンチャーに投資してほしいですよね。確かにアイディエーションに欠けるところはあって、バリエーションがない傾向はありますが、具体的に欲しいものや課題解決したいものがあるのなら、日本の会社に投資してつくらせればいいと思いますよ。日本で資金調達ができない中で、日本のVCに相談するとB2C以外には投資しないとか言われたりします。特にテック系は、VC側が分からないから評価できないということになりますね。

有田一樹×志村 彰洋

志村:技術面でスクリーニングされるのではなく、書類を見ても分からないから消えていってしまうものもありますね。

有田:資金調達できないから、すべてが請負になり、相手の望むものをつくって納品してIP(知的財産権)も残らないからリユースもできず、イノベーションを起こそうという気もなくなってしまいます。
たとえば、日本のオーナー企業では、株を100%持っている社長が神で、安い給料でプログラマーが働かされるモデルになっている場合もあります。シリコンバレーでは、労働者が知識がないとダメだということに気づいて、エンジニアであってもMBAを取得して、高いレベルで知識を持つようになっています。

志村:東京と大阪でも、新しい技術や開発は東京で行って、大阪は販売などの請け側の仕事というくくりがあるように感じます。そういった縛りがイノベーションを阻害していると思いますね。
受発注の関係の中で、請負側がイノベーションを起こせるとすれば、お金に関係なく、上下の関係なく同じ場所で話をしていかなければならないと思います。基本は会って平等に話さなければ、何も起きないと感じています。

有田:今後の自分のテーマとしては、どうやってもうけるかということと、何を成功とするかですね。この事業を20代で始めていたら、Greedyになったかもしれませんが、今さらいい車に乗ってもしんどいだけです(笑)。今日は、話しているうちに、自分のゴールはどこにあるのかということを考えていましたね。やはり、私のモチベーションは見せたくなるものをつくりたいということだと思います。皆に見せたくて、驚いたり、感心してもらいたい。そういった気持ちでやっていけば、自然とイノベーションにつながっていくのではないでしょうか。

志村:私は話の中で、日本と米国では、レディネスがあまりにも違うということに気づかされました。日本の得意とするモノづくりについてのイノベーションは純粋に戦える気がしているので、標準の技術の上でレールに乗った形しか出てこないものはテーマから避けるようにしたり、できるだけ日本オリジナルの領域で戦えるようにカテゴリーを絞ってアイディエーションするといったコントロールを、本気で真のイノベーションを行いたいと考えている企業にファシリテーションしていく必要があると感じています。

今日はありがとうございました。

プロフィール

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    有田 一樹
    株式会社ONTROX

    株式会社ONTROX 共同創設者

    2006年、人工知能型解析エンジンの会社 (Berkeley,CA,USA)を起業。AI(人工知能)を使い、革新的なエージェント型解析フレームワークを開発。現在もバークレーと日本を行き来して新ロジックの研究中。

    2010年、株式会社ONTROXを起業。複雑ネットワーク、グラフ理論を使った、大量データを高速に解析・可視化するフレームワークIDGを開発。現在webシステムでの可視化ノード数は世界トップ水準。電通「くちこみデザイナー」で採用。2013年度、JETRO SVIP(ジェトロ・シリコンバレーイノベーション・プログラム)に選出され、シリコンバレーでIDGを展開中。

  • 志村 彰洋
    株式会社電通 関西支社 マーケティングデザイン局

    2006年電通入社以来、国策事業・スマートシティーのプロデュース、先進技術・システム開発のコンサルティングなどに従事。インテレクチュアルプロパティーデザインを専門として、新規事業開発や国際標準化活動も推進。その他、コンピューターサイエンスや数理モデルに関する国際会議、講演、審査員、論文掲載多数。IEC国際標準化策定エキスパート、IWRIS最優秀論文賞など受賞歴多数。

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