アタマの体質改善 #01

アタマに汗をかく

―ひらめく偶然が、必然に変わる。

  • 武藤 新二
    株式会社電通 CDC クリエーティブ・ディレクター/プランナー

「キミは、本当にこの仕事が死ぬほどしたいのか?」
僕が就職活動をしていたときに、OB訪問で言われた言葉です。
「自分はどんな人間で、これから何を目指していきたいか。それをとことん突き詰めて考えていないから、思いも熱意も、何も伝わってこない」

数年前、社内で行われた「勤続二十周年記念式典」に参加した席で、この言葉がふっと蘇りました。これが基点となり、僕は電通という会社を選び、これまで「考えること」を仕事にしてきたほど、影響を受けた言葉であり、出来事だったことを思い出したのです。

社会人になってからも、様々な人たちに出会い、刺激を受け、多くを学び、考え、行動してきたことが、次々に浮かんできました。

そして、就職活動から二十数年が経った今、自分を見つめ直し、先人から学んだことを次の世代へ伝えていきたい、という強い思いに駆られたのです。それが、拙著『アタマの体質改善』を書くきっかけとなりました。

今回の連載では、その内容からセレクトしたものを紹介していきます。まずは、書名と同じく、タイトルにつけた『アタマの体質改善』って、どんなことなのか?について綴ったプロローグから、始めます。

アタマの体質改善

■瞬発力、柔軟性…日頃から考えるトレーニングを

 

最近、手首を骨折しました。
娘の前でカッコつけようと、久しぶりにスケボーをしたところ、あえなく転倒。骨にひびが入るという情けない結果になったのです。

まわりでも時々、「やっちゃいました……」と苦笑いを浮かべながら、手に松葉づえ、足にギブスという姿で現れる30代や40代の後輩を見かけます。尋ねると「子どもの運動会で転倒して、ケガをしてしまって……」というこたえがよく返ってきます。
そんな後輩に限って、学生時代は体育会に所属していたスポーツマンで、いまでも体型はスラリとして、とても大ケガをするようには見えないのです。

でも考えてみれば、当たり前の話。ふだん、ほとんどカラダを動かしていないにもかかわらず、いきなりそうしても、カラダはうまく順応してくれません。

こうしたことが、実は「アタマ」にも当てはまります。
思考法や発想法の解説書を読んで学んだ手法や技術を、仕事でいきなり試そうとしてうまくいかなかった、そんな経験はありませんか? 知識を理解し、理屈でわかっていても、アタマはなかなか思うように働いてくれないものです。

それは、かけっこやスケボーのやり方がわかっていても、カラダがうまく反応してくれないのと同じこと。野球のルールや戦術だけ覚えてバッターボックスに入っても、ふだんから素振りやカラダづくりをしていなければ、そうそうヒットを打つことなどできません。忘れてはいけないのは、日常的に基礎練習やトレーニングを行い、スポーツをやるための体質に変えておくことなのです。

仕事の場面で柔軟に発想し、アイデアや企画を考えるためには、カラダ同様、日頃から「アタマの体質」を順応できるものにしておかなければなりません。それがまず何より大切なのです。アタマの体質が改善できてこそ、これまで学んだ思考法や発想法も身につき、自分の中で活きてくるのではないでしょうか。

■知識や手法を学ぶより、まずアタマに汗をかく

 

僕は「コミュニケーション・デザイナー」という肩書きで働いています。
クライアントの課題に対して、アイデアや企画を考え、提案し、それを実現することが仕事です。その手段や手口は多種多様で、広告に限らず、コミュニケーションにまつわるすべてを扱い、設計(デザイン)することが求められます。
実際にいまも、CMをつくったり、ウエブサイトを立ちあげたり、テレビ番組を企画したり、さらには、絵本の出版や新規事業に携わるようなこともしています。

こうした仕事のアイデアや企画はどれも、アタマの中で考えることから始まります。
入社した頃から、「広告会社の工場は、社員一人ひとりのアタマだ」とよく言われてきました。だから、いつもメンテナンスは欠かせません。そしてそれ以上に、ふだんからトレーニングをして鍛えておく必要があります。

ここぞという本番で、アタマをフル稼働させ、質の高いアイデアや企画が量産できること。そんなアタマの体質であるように、いつも維持しておかなければいけないのです。

知識や手法を学ぶより、まずアタマに汗をかく。そうすれば、偶然のひらめきをただ待つばかりのもどかしさから解放され、それは必然に変わっていきます。

■苦しくも、つらくもならないための2つのガイドライン

 

とはいっても、スポーツの基礎練習やトレーニングのように、苦しいことやつらいことはしたくありません。そうした時間をあえてつくるほど、日々の余裕もありません。

そこで、僕は次の2つをガイドラインに、考えるトレーニングをしています。

「日常の行動に、小さなプラスをするだけでできること」
「日常のスキマ時間に、道具も場所も選ばずできること」

いずれも長く続けられ、しかも楽しみながらできるものです。合わせて、その多くは自分のモチベーションを上げる効果もあり、やればやるほど意欲もかき立てられます。

ここでは、僕がふだんからやっているトレーニングを中心に、柔軟な発想ができ、アイデアや企画が考えられる、そんなアタマの体質に改善する方法を紹介していきます。

クリエーティブな仕事をしている人はもちろん、マーケティングや商品開発など、どんな職種であっても、新しい発想やアイデアは自分の可能性を大きく広げてくれます。
ところが、こうしたことから身を遠ざけていると、考えることが苦手な体質になってしまう。社会人になって何年か経ったいま、気にするべきたるみは、お腹じゃなく、アタマのほうかもしれません。みなさんはどうでしょう。

日々のちょっとした積み重ねこそ、大きな変化につながります。それがどういうことなのか、これをきっかけにして、ぜひ実感してみてください。

Illustrated by Tokuhiro Kanoh
Illustrated by Tokuhiro Kanoh

プロフィール

  • 武藤 新二
    株式会社電通 CDC クリエーティブ・ディレクター/プランナー

    1992年、電通に入社。入社後3年半の静岡支社営業経験を経て、東京本社企画プランニング部門に異動。以後、広告企画制作にとどまらず、コミュニケーション全般の設計、商品や新規事業の企画、コンテンツのクリエーティブディレクションなど、仕事の領域は多岐にわたる。現在CDCに所属。これまでに、慶應義塾大学SFC研究所員(訪問)、大学や小学校での講師など、教育機関での活動も多数。出版関連では、重松清『夢・続投!』(朝日新聞社)、清水浩『脱「ひとり勝ち」文明論』(ミシマ社)、パパイヤ鈴木『カズフミくん』(朝日新聞出版)の企画に携わったほか、子ども向け絵本の制作も行う。著書に『アタマの体質改善』(日本経済新聞出版社)、『おじいとおばあの沖縄ロックンロール』(ポプラ社)。

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