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生体信号が拓くコミュニケーションの未来No.1

ブログ→Twitter→Like!→脳?

2013/10/21

「脳波に反応して動くネコミミ」
「脳の状態に合った曲を再生するヘッドフォン」
電通には、そんなちょっと不思議なモノを開発する人たちがいます。
本コーナーでは、開発を手がけるneurowear(ニューロウェア)や電通サイエンスジャムのメンバーから、生体信号を利用したコミュニケーションについて話を聞いていきます。初回は、電通コミュニケーション・デザイン・センターのなかのかなさんと、電通サイエンスジャムの神谷俊隆さんに、この脳波プロジェクトの成り立ちから聞きました。

 

言語に頼らないものを作るべきだと思いました

──そもそも脳波に注目したのはなぜですか?

なかの: 次世代のコミュニケーションって何だろうと考えていて、ウェブのコミュニケーションだといわゆるホームページがブログになり、ブログがTwitterになって言葉がどんどん短くなり、最近ではFacebookで「いいね!」ボタンを押すだけになりましたよね。これが進むと最終的には言語を使わないコミュニケーションになるんじゃないか。非言語でのコミュニケーションというと、ジェスチャーや視線がありますが、脳から直接伝わるようなことが一番面白いのではないかと。

神谷: ジェスチャーで操作できるゲーム機が出てきて、その先に何があるかを考えると、脳を利用して操作するインターフェースだろうと。それと、脳波センサーが低価格化していることを、チームメンバーが見つけてきた。それまで脳波センサーって高価で、プロトタイピングなんてできなかったけど、低価格になってくるといろいろできるようになる。

──それはいつ頃の話ですか?

なかの: 2010年ですね。その頃は、iButterfly(アイバタフライ)というAR(拡張現実)技術を利用したスマホ用のアプリを作っていたのですが、海外からの問い合わせが多かったんです。そこで、多言語に対応する必要が出て。とはいえ多言語対応って大変で、それならそもそも言語に頼らないものを作るべきだと思いました。それと、画面を見ることって不自然だって前から思っているんです。例えば、電車のなかでみんながスマホを見ているのは結構変な状況じゃないですか? デバイスがもっと進化したら、画面を見なくても、普通に生きているだけでスマホを使うような何かができるようになって、何もしていない状態が最終的に正しいことになるんじゃないかと思ったわけです。

神谷: 究極の横着だよね(笑)。

なかの: そうですね。でも人類は面倒くささと好奇心から進化したんです。歩きたくないけど遠くを見たいから自動車ができたんです。そこで、脳波センサーを使うとどんなことができるか考えて、案を20個ほど出したのですが、実はnecomimi(ネコミミ)が最初に考えたものでした。

 

necomimiって、見ていると付けてみたくなるんです

──necomimiのアイデアって、どういうところから出てきたんですか?

なかの: necomimiのプロトタイピングに採用したニューロスカイという会社の脳波センサーは、集中とリラックスが0~100の数値で出るという機能がありまして、「集中」と「リラックス」で、「頭に付けるもの」で「コミュニケーション」って何だろうと考えたときに、ぱっと出てきたのがネコミミだったんです。ちなみにnecomimi は、NEuro COMmunIcation MachIneの略です(笑)。脳波で動くネコミミなら、一度はニュースになるんじゃないかとピンときた感もありました。

──他にはどのような案があったんですか?

なかの: 最初、ネコミミにはシッポが付いていたり、Twitterできる機能とか、ヘッドフォンが付いていたりとかいろいろあったんです。他にはヨガ専用のターバンとか…。

神谷: 集中すると開くドアとか。

なかの: 集中すると開くドアは今でも作りたいですね。逆にリラックスした人しか入れないブレストルームっていうのも良いんじゃないかとか。あとは対戦型のゲームで、集中すると姿を消せて、集中力が途切れると敵に見つかるとか…、いろいろと考えました。ただ、まずは注目を集めたいし、海外でもウケを狙いたいというところでネコミミの形にになりました。それで秋葉原に行って、コスプレ用のネコミミを10種類くらい買って(笑)。

──ネコミミは、もともとご自身でも持っていたんですか?

なかの: 持ってはなかったんですけど、いわゆるオタクカルチャーは好きです。インターネット上ではオタクっぽいものの方が伝わる速度が速いし、自分で見ていても面白いです。

神谷: 僕は、実はプロトタイプができるまで、necomimiの面白さが分からなかったんですよ。でもプロトタイプをなかのさんが付けて、実際に耳が動くところを見たら全員爆笑で、これはいける!と。面白さと、コミュニケーションができるということが理解できました。付けた本人は、感情が漏れているのを見られてしまうのは、恥ずかしかったようです(笑)。

なかの: 恥ずかしかったですが、すごく新しい体験でした(笑)。

──プロトタイプを作ったら、次はどういうステップに進むのですか?

神谷: 今度はプロトタイプをどう発表していくか検討しました。necomimi単体での発表も考えましたが、新たにブランドを作って発表した方がコンセプトも伝わりやすいし、今後の可能性が広がるだろうと、ニューロウェアというプロジェクトチームを作りました。で、われわれとしては面白いと思っているnecomimiを、世の中の人がどう思うか知りたいから、イベントに出して反応を見ようということになりました。ちょうど、ある企業が表参道でイベントを行うと知り、その一角にプロトタイプを展示させてもらうことになりました。

なかの: イベントに出展することが決まり、そのタイミングに合わせてニューロウェアのウェブサイトと、necomimiのコンセプトムービーを作りました。

神谷: イベントでは、お客さんがnecomimiを体験している様子をビデオに撮らせてもらって、許可を取った上でYouTubeにアップするところまでが目的でした。話題作りですね。

なかの: 展示期間が1週間くらいあったのですが、Twitterで話題が拡散されて、すぐに行列ができるようになり、Twitter を見たWIRED UKが記事を掲載してくれたり、ロイターが取材にきてくれたりしました。

──necomimiが世界に広がったんですね。

神谷: そのときに話題の作り方っていうのも分かりました。コンセプトムービーだけだと、本当に存在するのかどうか分からない。そこで、実際に展示した様子と体験動画をウェブサイトに載せるわけです。脳波で動くネコミミは本当に存在して、表参道で体験できるっていうのがTwitterで広がり、それを見て体験したい、確かめたいという人が来て、実際に体験すると写真に撮ってさらにツイートしてくれる。

なかの: ネコミミって、見ていると付けてみたくなるんです。で、付けると人に見せたくなる。そういう意味で、情報が拡散しやすい素材ですね。コンセプトムービーは、necomimi以外のコンセプトも盛り込んだ長いバージョンも用意していたのですが、あまりにnecomimiだけで話題が拡散してしまったので、長いバージョンは公開しませんでした。

 

TIME誌の2011年「世界の発明ベスト50」に入選

──そこから商品化へ進むわけですね。

神谷: 当初はコンセプトモデルをベースに話題を作って、企業からの研究開発とかキャンペーンで使えればと思っていたのですが、テレビ番組から引き合いがあったり、ロイターのニュースに出たことで海外からの反応も大きく、問い合わせも多かったことから商品化を考えました。

──問い合せというのは、商品化したいという内容ですか?

神谷: 「商品化したい」とか、すでに商品化されていると思った方からは「仕入れたい」とか、1日に何十件と来ました。

なかの: 最初のころは1日100件とか問い合せが来て、英語なんだけど、どうしようみたいな(笑)。

神谷: 商品化についていろいろなメーカーと話をしたのですが、やはり生体信号というところで慎重になってしまうんです。そんななか、脳波センサーを作っているニューロスカイから声がかかり、necomimiはニューロスカイが製造・販売することになりました。

なかの: ちょうどTIME誌の2011年「世界の発明ベスト50」に入選し、世の中の期待感が高まっていましたね。

──実際に発売されたのはいつですか?

神谷: 2012年の4月に、ニコニコ超会議で先行発売しました。そこでも話題になって、タレントさんが自分のブログで紹介してくれたり、いろんな人がnecomimiを付けてくれました。ニコニコ超会議では3000個くらい売れました。

──今現在はどのくらい売れているんですか?

神谷: 今は約7万個です。最初は1万個くらい売れればよいと思っていたのですが。

──日本と海外では、どちらが売れているんですか?

なかの: ニコニコ超会議の直後は国内で売れていましたが、今は海外の方が売れていますね。

第2回に続く)