「そのひと言」の見つけ方 #05

書く時間と同じくらい、

選ぶ時間をとる。

書く量は、訓練すれば誰でもたくさん書けるようになります。訓練さえ積めばたくさん書けるように、必ず、なる。
でも選ぶという行為、ピラミッドの底辺のなかからひとつだけ選ぶという行為は、その人のセンスと時代の空気などいろんなものがまざりあってひとつ選ぶことになるので、ものすごくむずかしいです。

ひとつだけお勧めできる方法は、書く時間と同じだけ選ぶ時間をとること。
「このなかで言えばこれかな」と安易な選び方はしない。5秒で決めない。
そういうことは極力避けて、とにかく選んでみる時間も書いた時間と同じくらいとるのがコツです。

ひらめきで選んではいけないわけではないのです。
ただ、ひらめきにも理由がある。「なんとなく」のなかに理由がある。
選ぶという行為はなんとなくの行為を言語化する、要するに「理由のないものに理由をつける」ということなのかもしれません。「とにかくこれなんです!」では人を説得できません。
これはどんな仕事の場面でも言えることだと思います。誰かに仕事を依頼したとする。その仕事の内容が、こちらの期待どおりではなかった。そうすると、修正を指示する必要が出てきます。
でも、ただ単に「こうやって!」では、人は動きにくい。「こういう意図で、こんな結果を期待しているから、ここを修正してほしい」と言えるかどうか。ちょっとしたことですが、それだけで相手は耳を傾けてくれます。

選ぶというのは覚悟のいることです。
ある経営者の方が「経営は51対49」と言っていました。7対3という圧倒的な差があれば誰でも選ぶことができる。経営はたいがいが51対49というほぼ誤差の範囲からどちらかひとつを選ばなければいけないのだと言うのです。実に覚悟のいる話だし、自分を信じていないと、とうていできる話ではありません。
そこまでの誤差ではなくても、選ぶというのは他を捨てることにも通じますから、その審美眼を鍛えるのは時間をかけたほうがよい結果が生まれるでしょう。

僕の場合は、「過去にどのようなコピーがよいと評価されてきたのか」という座標軸が自分のなかにあって、それと照らし合わせて、いま僕の目の前にあるコピーはどのように思われるのかをじっくりと考えます。それが選ぶときの基準です。

とはいえ過去と照らし合わせてばかりいると、いまの時代の空気には合わないかもしれない。だから過去だけではなく、周りの人たちの反応を想像します。広告業界とはまったく関係のない一消費者である友人をイメージして、どう思われそうかあれこれ考えをめぐらせるのです。
そうやって時間をかけて選び抜いても、クリエーティブ・ディレクターに「いや、これじゃなくてあっちだろう」と言われることもたくさんあります。「理由は~~だ」という説明をされれば、なるほどと学べる。
そして、その説明に納得できればそちらを出せばいいし、納得できなければ自分の選んだコピーをもう一度、説明を練り直して出せばいい。

自分で考えたものについて、100%客観的に見ることができる人はほとんどいないと思います。
ただ、その客観視の精度を高めていくのがプロですし、努力次第で精度は高められます。

何度も言いますが、選び抜く時間をかけましょう。

絵/堤裕紀(電通 第4CRプランニング局)
絵/堤裕紀(電通 第4CRプランニング局)

プロフィール

  • Yosukewatanabe photo
    渡邉 洋介
    株式会社電通 第4CRプランニング局

    コピーライター。
    2007年電通入社。おもな受賞歴に、宣伝会議賞シルバー、ACC CM Festival ブロンズ、文化放送ラジオCMコンテスト優秀賞、読売広告大賞協賛社賞、日経BP賞、英国D&AD賞 IN BOOK、ヤング・カンヌファイナリスト、ヤング・ロータスファイナリストなど。
    著書に『「そのひと言」の見つけ方』(実務教育出版)。

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