アタマの体質改善 #02

自販機では隣のボタンを押す

  • 武藤 新二
    株式会社電通 CDC クリエーティブ・ディレクター/プランナー

拙著『アタマの体質改善』(日本経済新聞出版社)が刊行になり、2週間が過ぎました。たくさんのみなさんから温かいお言葉を頂戴したり、アマゾンのマーケティング・セールス部門で6位にランクインするなど、さまざまな反響をいただいています。心から感謝を申し上げます。

さて、連載2回目から、いよいよ本題に入ります。まずは、日常の些細なことで、その気になれば誰でも始められる、アタマの体質改善法を紹介しましょう。

すぐできそうなのに、できていないこと。
続けていると、いつしか効果が現れてきます。

自販機では隣のボタンを押す
Illustrated by Kentaro Itonori

 

■数センチ指をずらしてみるだけで、見える世界が変わる

 

人には「定番」があります。
たとえば、缶コーヒーを飲むならあれ、ペットボトルの水を買うならこれと決めていて、自動販売機の前に立つと無意識のまま、決まったボタンを押しています。

よく行く飲食店でも、いつもと同じものを知らず知らずのうちに注文することも多いのではないでしょうか。僕も馴染みの定食屋では何も考えず、気がつけば好物のオムライスを頼んでいたりしました。

そこで、僕は「定番」を意識的に変えるようにしています。
自動販売機で「いつも買っている商品の隣のボタンを押してみたら」と言われると、意外に押すのに勇気がいることに気づきます。いつもと違うものを飲んで失敗したくない。いつも飲んでいるもので安心したい。毎回、ほどほどに満足したいからです。

でも勇気を出して、飲みたいものの「隣」をあえて押してみる。それだけではなく、コンビニでいつも買っているものの隣をあえて手に取ってみる。飲食店ではいつもの定番のメニューがあっても、その隣をあえて選んでみる。

数センチ指をずらしてみる、棚の前で数十センチ足を動かしてみるだけで、そこから見えてくる世界がガラリと変わっていきます。
定番に安住し、「これはこう」「当たり前」と先入観や常識にとらわれて、疑いもしなかった、そんな自分の行動範囲と視野の狭さに気づかされます。

いつもと違ったものを選ぶことで「なぜこれを選んでいた(いなかった)のだろう?」「どうしてこんなパッケージや形状なんだろう?」と、いつもだったら何も考えないまま流していたようなことに意識が向きます。

繰りかえしているうちに、それがきっかけになり日常の何気ない些細なことでも「なぜ?」「どうして?」と考えるクセが次第についていくようになるのです。

何ごとにも疑問を持つことは、アイデアや企画を考える上で欠かせません。
モノゴトを探求していくことで、その成り立ちや構造、仕組みが明らかになり、表層的には見えなかったことも見えてくるからです。

■日常の中で考えを巡らす機会を逃すのは、もったいない

 

僕がまだ若手だった頃、隣の席の先輩からこんな問いかけをよく受けていました。

コンビニに一緒に行くと、「あの2つの商品はカテゴリーが違うのに、どうして一緒に並んでいるんだろう?」、仕事の合間に食べているお菓子の箱を眺めて、「このパッケージのデザインは、なぜこんな色をしているのかなぁ?」……。

あるとき、昼休みに街を歩いていると突然、指をさして「そこにある自動販売機の、あの商品はどうして左上にあると思う?」と聞かれました。

先輩が言うには、自動販売機の前に立つ人は一番上段の左から右へ、そして2段目、3段目と目が動く。だから、一番左上に並んでいるものが売れ筋で、みんながボタンをすぐに押すことができ、買いやすいようにしてある。その右隣は、メーカーとしていま売り出したい新商品やテレビCMで告知しているプッシュ商品が並んでいることが多い――。

これが正しいかどうかはわかりませんが、自動販売機のディスプレイひとつに着目し、ここまで考えを深めていることに教訓を得ました。

ふつうに過ごしている中にも、考えを巡らす機会はたくさんある。それを見過ごしたり、気がつかないのはもったいない。そう先輩は教えてくれたのです。

どこの街を歩いていても、見かける自動販売機。みなさんもそれを見かけたら、「なぜ?」「どうして?」と想像してみると、面白いかもしれません。
そして、時にはいつも買っている商品の隣のボタンを押してみてはどうですか。

Illustrated by Tokuhiro Kanoh

プロフィール

  • 武藤 新二
    株式会社電通 CDC クリエーティブ・ディレクター/プランナー

    1992年、電通に入社。入社後3年半の静岡支社営業経験を経て、東京本社企画プランニング部門に異動。以後、広告企画制作にとどまらず、コミュニケーション全般の設計、商品や新規事業の企画、コンテンツのクリエーティブディレクションなど、仕事の領域は多岐にわたる。現在CDCに所属。これまでに、慶應義塾大学SFC研究所員(訪問)、大学や小学校での講師など、教育機関での活動も多数。出版関連では、重松清『夢・続投!』(朝日新聞社)、清水浩『脱「ひとり勝ち」文明論』(ミシマ社)、パパイヤ鈴木『カズフミくん』(朝日新聞出版)の企画に携わったほか、子ども向け絵本の制作も行う。著書に『アタマの体質改善』(日本経済新聞出版社)、『おじいとおばあの沖縄ロックンロール』(ポプラ社)。

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