スタートアップって何?~新しい経済成長エコシステム~ #03

マネーフォワード辻庸介社長インタビュー前編

希望ではなかった経理部から起業までの道のり

  • Profile tsuji
    辻 庸介
    株式会社マネーフォワード 代表取締役社長CEO
  • Fmnakajima1
    中嶋 文彦
    株式会社電通 CDC 部長 事業開発ディレクター

スタートアップについて考える本連載、3回目の今回は、スマートフォンとPCで展開する個人向け資産管理サービス「マネーフォワード」と中小企業向け「MFクラウド会計・確定申告」「MFクラウド請求書」を展開するマネーフォワード社長CEO辻庸介氏に、起業の経緯から成長するスタートアップの実態まで電通事業開発ディレクターの中嶋文彦がお話を伺いました。

マネーフォワード・辻氏(左)と電通・中嶋氏
マネーフォワード・辻氏(左)と電通・中嶋氏

 

中嶋:まずはグッドデザイン賞受賞おめでとうございます。今回、個人向けサービスと企業向けサービスのダブル受賞(※)となったんですよね。

※さらに同サービス(個人向け)は、Google Play ベスト オブ 2014 でアプリ部門にも選出された。

 

辻:ありがとうございます。ダブル受賞はやはりうれしかったですね!

中嶋:すごいですよね。スタートアップでBtoCとBtoB両方のサービスを提供されているところも少ないですし。ということで、最初にマネーフォワードさんのサービスについて概況を教えてください。

辻:個人向け資産管理ツール「マネーフォワード」は現在170万ユーザー、この分野では日本最大級のサービスとなっています。中小企業向けのクラウドサービスは、会計システムと請求書サービスを提供しており、今後さらに給与、経費までカバーできるように展開し、中小企業向けのクラウドサービス のナンバーワンを目指しています。

ソニー時代は経理とAIBO部門を担当、希望とは異なる業務を

中嶋:辻さんは、どういう経緯でスタートアップの起業に至ったのでしょうか。

辻:実は起業しようと思ったことはないんです。ただ大学の時に、サークルの先輩が大学進学塾を立ち上げるのを手伝ったとき、事業をつくり上げる面白さを知りました。ジャンケンで負けてぼくが英語担当になったのですが、テキストを作り、生徒を集めて、授業するということをゼロから自分でやり、非常にワクワクしました。

大学は現在の仕事とはあまり関係がなくて、農学部でバイオテクノロジーの研究をやっていました。周りはほとんど全員が大学院に進み研究者を目指すのですが、自分は研究者としては優秀ではなかった。あるとき教授に研究者は30年研究を続けながら3回大きなチャンスがあると言われて。すごく厳しい世界ですよね。また、例えば大腸菌の実験などでも24時間後、1週間後と実験結果が出るまでにとにかく時間がかかりますし、自分の性に合わないと感じました。塾の立ち上げでビジネスのワクワク感を知っていたこともあり、ビジネスの道に進みたいと思い、卒業後はソニーに入社しました。

中嶋:ソニーでは、どういったことをされていたんでしょうか。ソニーはビジネスの幅が広いのでいろいろな経験をされたのではないでしょうか。

辻:そうでもなくて、大企業なので縦割りなんですよね。大学の専攻が理系だったからなのか、最初の3年間は希望とは異なる経理部という完全な間接部門にいました。経理部では、本社経理やAIBOの部門経理をさせていただきました。

マネックス証券に出向 松本大社長の側近として得たもの

中嶋:その後、マネックス証券に出向、転籍されたんですよね。

辻:マネックスは創業時にソニーが50%出資しており、ある時社内公募があって面接を受けまして、CEO室に出向ということになりました。マネックス証券の松本大社長の日本の金融市場を変えるというビジョンに共鳴してチャレンジしました。

マネックスは当時社員が40人くらいで、CEO室といってもぼく一人。上長がいきなり松本さんという環境でした。

中嶋:松本さんのすぐそばで仕事をして、経営学を学べたのはよい経験になったのでは?

辻:そうですね、ベンチャー企業というのは、意思決定のプロセスが見えますし、大企業では想像できないようなスピーディーな決断が目の前でされていきました。

もう一つ学んだことがあります。それまでスーパー経営者というのは才能のある人がひょいとなるものと思っていましたが、それは違うと分かりました。甘かったです。松本さんはとにかく、一歩一歩コツコツやられる方で、誰よりも深く考えて誰よりも働かれる方です。その姿に一日一日の積み重ねしかないのだとショックを受け、自分にはムリ!と絶望しました。

社費留学で渡米、そこで学んだチャレンジ精神

中嶋:マネックスには9年間いて、社費留学でMBAを取得されたんですよね。どういう経緯だったんですか?

辻:マネックスで初めての社費留学でした。そのお金はまだ返済中です(笑)。返還義務は必ずしもあるわけではないのですが、仁義といいますか…。

留学したのは3つ理由があります。1つはマネックスが買収した個人向けFXの会社が赤字だったので、留学を決める前にマーケティング責任者として出向し立て直したことです。この時赤字を黒字にすることはできたのですが、それ以上の新しい価値を生むことができなかった。今の自分には、新しいインプットが必要だと痛切に感じたんですね。2つ目がマネックスがグローバル主義だったこと。将来的には役員会も英語になるだろうと感じ英語を覚えておく必要を感じました。そして3つ目がこれから戦う相手はグローバルのトップなのだから、その人たちがどんな人なのか理解したかった、会いたかったということです。

アメリカで学んだことは多いですね。多様なバックグラウンドを持つ人たちと交流できました。またアメリカはチャレンジの国なので、チャレンジすることを褒める文化がありますよね。起業の背景にはその影響もあります。

その頃、日本には個人向けのユーザーサイドに立ったお金のサービスがないからやりたいという思いがありました。ちょうど松本さんがニューヨーク出張に来た時に提案したんです。だけどその時は日本国内の株価が下がっていたのもあり新しいビジネスをたちあげるのはなかなか難しく、受け入れられませんでした。

興奮してつくった最初のサービスは大失敗

中嶋:その時の提案が今のマネーフォワードにつながるんですね。マネーフォワードの「お金を前へ。人生をもっと前へ。」というコピーは辻さんが考えたんですか。いいコピーですよね。

辻:ありがとうございます!ぼくと創業メンバーで一緒に考えました。

起業して最初につくったのはもっとソーシャルなサービスでした。匿名で資産運用を公開するというサービスで、成功している人の運用は他の人も学びになると思い始めました。そのころフェイスブックに影響されて「オープンになることはいいことだ」とすごく興奮して半年で開発してリリースしたのですが、全く使われませんでした。そのサービスは完全につぶしました。

中嶋:その時はすでに会社は設立していたのですか?

辻:会社は設立していましたが、留学から戻ってきた後マネックスではマーケティング部長、CEO補佐という役割で、コスト構造の見直しなどをやっていたので会社にお願いして一時兼務していました。平日はマネックスの仕事で、土日だけマネーフォワードのことをやっていました。その後、使っているだけでお金の課題を解決できるサービスとしてマネーフォワードをつくりました。

社費留学を経て、マネーフォワード立ち上げへ。次回はスタートアップの経営者としてどんな仕事をしているのか、またスタートアップのマーケティング戦略に迫ります。

プロフィール

  • Profile tsuji
    辻 庸介
    株式会社マネーフォワード 代表取締役社長CEO

    京都大学農学部を卒業後、ソニーにて経理を担当。その後、マネックス証券に出向(その後転籍)。ペンシルバニア大学ウォートン校にMBA留学。帰国後COO補佐、マーケティング部長を経て、マネーフォワード設立。代表取締役社長CEOに就任。2014年1月ケネディ米大使より「将来を担う起業家」として米国大使館賞受賞。同年2月ジャパンベンチャーアワード2014にて「起業を目指す者の模範」としてJVA審査委員長賞受賞。1976年大阪府生まれ。

  • Fmnakajima1
    中嶋 文彦
    株式会社電通 CDC 部長 事業開発ディレクター

    電通でマーケティング局、営業局で国内外のクライアントのマーケティング戦略と実施を担当。退職後、アイ・エム・ジェイに転職。ネットマーケティング部門運営、子会社役員、CCCのTポイントECモールの事業化などを行う。2008年末に電通再入社。現在は、位置情報データやセンサー技術などを活用して自社、クライアント、パートナー企業との事業開発、サービス開発を行う。モバイル広告大賞、グッドデザイン賞など受賞。1971年生。

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