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言葉にし、一歩を踏み出すことから夢は実現する

——出雲 充(ユーグレナ社長)

2014/12/18

ミドリムシは世界の課題解決の力を秘めている

ミドリムシで「人と地球を健康にする」。そんな壮大な夢を胸に抱き、「ユーグレナ」を 創業したのは2005年のことです。原点は大学1年のときに訪れたバングラデシュのある現実。穀物はとれてもバランスの良い栄養がとれない。子どもの4人 に1人は栄養失調で、それが原因で病気になり、結果的に死亡率も高くなる。そんな最貧国の現実を何とかしたいと強く思い続けていた21歳のとき、ミドリムシとの運命的な出会いがあったのです。

初めて訪れたバングラデシュで子どもたちと(1998年8月)
初めて訪れたバングラデシュで子どもたちと(1998年8月)

ミドリムシはワカメや昆布と同じ藻の一種で、光合成という植物の特徴と水中を動くという動物の特徴の両方を持つ、とても珍しい生物です。わずか0.05ミリの生物ですが、食料、環境、エネルギーといった地球が抱えているさまざまな問題を解決する大きな力を秘めています。動植物双方の59種類の栄養素に加え、パラミロンという油などを吸着する特有成分も含んでいます。

実は栄養が不足しているのは途上国だけではないのです。日本でもカロリーは足りているけれど、栄養不足の人が多いんですよ。1日350グラムの野菜類が必要だと言われても、とれている人はわずかでしょう。キッチンが汚れるとか、洋服に臭いが付くし食べにくいからという理由で魚を食べる人も減っている。若い人もドコサヘキサエン酸(DHA)などの重要な不飽和脂肪酸が明らかに不足している。そうした人に「魚食べろ」と言っても、「だって食べづらい」となります。だったらミドリムシヨーグルトがいいじゃないですか、DHAも入っていますから。

現在は、こうした栄養面の活用だけでなく、航空会社の協力も得てジェット機のバイオ燃料としての研究を、事業化に向け進めています。大気中の二酸化炭素を増やさない、画期的なエコエネルギーに期待が高まっています。

夢を追い掛けるのに欠かせないメンターとアンカー

振り返ってみれば、これまで数々の壁を乗り越えてきました。世界で誰も成功させていなかった、ミドリムシの屋外大量培養に向けた格闘。ようやく世界で初めて成功してサプリメントを完成させたものの、それが全く売れなかった日々。そして資金ショートの危機。生来、意志がそんなに強くもなく、リーダーシップを発揮するようなタイプでもない私がこうした苦労を乗り越えられたのは、「メンター」と「アンカー」の存在があればこそでした。

私がメンターとしてきたのは、ミドリムシ研究の第一人者である大阪府立大名誉教授の中野長よし久ひさ先生です。創業前に先生の元に押し掛けて「今までの研究情報を全て教えてほしい」と無茶なお願いをしたのですが、先生は、日本中の100人近い研究者を紹介してくださいました。恩人という言葉だけでは言い尽くせないほど、心の師として大きな存在です。そんなメンターに、恥ずかしい思いはさせたくない。絶対に成功させなきゃ申し訳ない。そういう思いを胸に秘めていると、どんなに苦しいときでも「あと1時間頑張ろう」という気持ちになったものです。

もう一つのアンカーの方は、自分の心をつなぎ留めておく、いかりのようなものです。いつでもそれを見れば、必ず原点を思い出させてくれる。だから、人ではなくモノの方がいいですね。私のアンカーは、学生時代にバングラデシュで買った青いTシャツ。クロゼットを開くといつも見える位置に置いています。朝着替えるときに、バングラデシュの子どもたちのことを思い出し、「そうか、今日も一日頑張らなきゃ」と自分を奮い立たたせているのです。

「正しい理解」が50%を超えればミドリムシは一気に広まる

創業から10年近くたち、おかげさまで事業は順調に推移してきています。ただ、ミドリムシの正確な理解がまだ十分に行き届いていないのも事実です。属性や健康にも良いことを知っている人は、調査するとまだ半分以下。残りの人は、よく分からなかったり、イモムシやアオムシのイメージを持っていたりします。現在の認知・理解をどう50%超えまでもっていくかが課題となっています。認知と理解があと10%ほど高まれば、ポジティブなフィードバックがかかって一気に100%まで広がっていくものと信じています。それには、科学的な観点からの訴求だけでなく、感性に訴えることも必要。乳酸菌のように認められるかどうか、今が一番大事な時です。

よくベンチャーを立ち上げましたね、と言われます。私の理解ではベンチャーとか起業というのは、用意万全、準備が整ったから始めるものではありません。でも、なぜか多くの人は、いろいろと起業準備中です、とか、起業のために勉強中です、と言う。もし私が他の人と違うとすればこの点です。創業時、ミドリムシの大量培養技術は完成していなかったし、出資者もいなかった。スタートして、もがいているうちに今に至った。私は夢を追い掛ける力が特に強いわけではありません。強いて申し上げれば、準備が整ったからやる、ではなく、まずやる。あとはメンターとアンカーがあれば、どどどどっと前進できます。恥ずかしいな、大変だなと思っても、夢はまず言ってみる。言葉にして、一歩を踏み出す。夢の実現のためには、このことに尽きると言っても過言ではないでしょう。