開局15年・民放BSの今
好調の要因と進化の可能性を追う①
2014/12/22
2014年12月1日に、開局15年目を迎えた民放BSデジタル放送。さまざまな番組とともに歩み、確かな成長を遂げてきた。広告市場は10年からの3年間で約2倍に伸長、人気番組も多数生まれており、まさに充実期を迎えたといえる。新旧メディアが群雄割拠する中、好調の要因はどこにあるのか。そして、さらなる成長の可能性とは。さまざまな視点から、民放BSの魅力と未来に迫りたい。
BS-TBS 編成局 担当局長(取材時)
茂川博史氏
開局の準備段階から編成に携わり、その後も営業企画や広報宣伝など多角的な立場から一貫してBSと向き合ってきたBS−TBSの茂川博史氏に話を伺った。
徹底的に、BSならではの魅力や広告主にとってのメリットを追求し続けたことが、今の好調につながっていると思います。番組作りでいうと、「視聴者を満足させる、地上波とは異なるエッジの利かせ方」が、民放BSの最大の特長です。例えば、“酒場詩人”の吉田類さんが居酒屋を訪れる「酒場放浪記」や、ソムリエの田崎真也さんがゲストからのワイン・食の質問に答える「田崎BAR」などは、その代表でしょう。一つの道を極めた“本物の技”を持つ人にきっちりとクローズアップできているからこそ、視聴者の知識欲をも満足させると思うんですね。
編集面でも工夫があります。撮られる側の温度感や見る人の気持ちに寄り添い、情報やナレーションなどを過剰に入れ込まない。例えば、出演者が考え沈黙する間もあえて待つ。その間合いの中で、ししおどしが鳴ったり電車の音が聞こえたり…現場の「空気感」や「間」が伝わる作りが、視聴者の心を捉えるのではないでしょうか。
もう一つの大きな強みは、広告主の要望に応える番組が作れる自由度の高さ。広告主の思いをくみつつ、視聴者にとっても魅力的なコンテンツが具現化できます。一企業の世界に誇れる技やテクノロジーを、ドキュメンタリーで追い掛ける。あるいは日本の未来を裏で支えている事業に、スポットライトを当てて描き出す。民放BSはさまざまな形で、広告主の夢をかなえることができるメディアだと自負しています。
これからも広告主のニーズに応え、企業と社会の文化を形作る一助でありたい。そのためには、広告主とわれわれとの懸け橋である広告会社の協力はなくてはならないものです。統合的なメディア戦略における民放BSの役割を、ぜひ一緒に開発していただきたい。さらには広告関係のクリエーターとのコラボレーションで、全く新たな発想のコンテンツを生み出せるのではとの期待も抱いています。
開局から15年。ある意味、飛躍に向けて環境が整ったと感じています。シニアの高視聴には定評がありますが、消費欲の高い40〜50代や深夜時間帯の若年層など、視聴の裾野は広がりつつあります。一つのコンテンツをマルチユースできる、インターネットや雑誌など他媒体との積極的な連携も始まっています。これから4K・8Kの時代を迎え、民放BSはますますその魅力を発揮できるのではないでしょうか。
来年4月から視聴データの機械式調査が導入されます。興味を持っていただくチャンスだと捉えていますが、これまでも広告主が反響や売り上げなど独自指標で評価してくださってきたことが、今のBSを支えている。そのBSらしさを大事に、これからも番組を作っていきたいと思っています。
*茂川氏は現在、BS-TBS編成局付TBSホールディングス総合戦略部に異動。今後は地上波を含めた包括的戦略視点からBSに関わる予定。
酒場ブームの発信源
「吉田類の酒場放浪記」
今やBS民放を代表するヒット番組の一つといえるのが、「吉田類の酒場放浪記」(BS-TBS)。酒場詩人の吉田類氏がふらりと居酒屋を訪れ、酒と料理を堪能しながら、お客と交流する。そのシンプルで飾らない内容が人気を博し、近年の酒場ブームの「発信源」ともなった。酒場の空気を伝えるゆったりとした演出や、人との気さくなやりとり、そして心から酒場を楽しむ彼のキャラクターなど、まさにBSならではの制作手法が生んだヒットコンテンツだ。
サントリーホールディングス 執行役員
久保田和昌氏
民放BSには開局当時からさまざまな形で関わらせていただき、民放BSに対する理解度や「目利き力」のようなものが培われたと感じています。
一番の魅力は、視聴者が「じっくりと専念視聴していること」ではないでしょうか。良質な番組が多いからこそ、継続的な視聴習慣が伴う。だからこそ、われわれが最も重視する、発信するメッセージが視聴者にきちんと到達し理解されやすい環境が整っていると思います。
例えば「ハイボール万歳!」(BS-TBS)。さまざまなお店をご紹介しながら「角ハイボール」とおいしい料理を堪能するという内容ですが、情報番組でありながら、ハイボールのシズルをきっちり伝えることができています。また、われわれが一番大切にしている「飲用時品質」も、自然な形で訴求できています。紹介していただいたお店にも好評を頂戴し、ハイボールの持つ楽しさ、おいしさを伝えることで視聴者にも喜ばれる。WIN-WIN以上の関係を築くことができているのは、BSならではの「専念視聴」スタイルが生きているからでしょうか。
さらに民放BSは、番組作りの自由度の高さから、企業の思いを伝えるチャンスの多いメディアだと思います。当社の商品の開発に迫ったドキュメンタリー特番がBSジャパンで数回放送されましたが、ブランドの持つストーリーや夢を飾らずに伝える場として、視聴者がじっくりと見る民放BSは向いているのではないでしょうか。さらに放送後には、番組の感想がSNSで拡散され、非常にいい流れになりました。
「専念視聴」を生かし、企業の商品やメッセージをうまくエンタメ化しながら発信していく。民放BSならではの発信力で、これからも当社にお力添えいただければと思います。
トヨタマーケティングジャパン 取締役
日本アドバタイザーズ協会 電波委員長
土橋代幸氏
民放BSのヒット番組の多くは、特定のライフスタイルを軸にしたもの。紀行番組やスポーツの生中継重視などがその代表でしょうか。これからはその軸をさらに増やし、幅広いライフスタイルに焦点を当てることで、BSは今後さらに成長すると考えています。
民放BSの大きな特長は、全国一波であること。地域ごとの縛りがなく、同じ電波が流れるので、さまざまなライフスタイルを持つ人を全国的にターゲットにできる。となると、まだまだ発掘できる可能性を秘めていると思います。
インターネットの普及により、情報メディアの選択肢は一気に増えました。しかしSNSの書き込みなどを見ると、やはりテレビ番組の発信力が強い。加えて、コンテンツの多様化により、「SNSなどを通じて、番組視聴を誰かと共有する楽しみ」の価値が増してきました。
そのような中で、全国一波の民放BSにはさまざまな可能性があるのではないでしょうか。同じライフスタイル・趣味を持った全国の人たちが、同じ番組を見てその時間を共有する。視聴環境が整った今だからこそ、民放BSはそれを追い求められるはず。メディアの多様化する激動期ですが、さらなる媒体価値の向上を期待しています。