アタマの体質改善 #03

気持ちをアゲる言葉に変換する

  • 武藤 新二
    株式会社電通 CDC クリエーティブ・ディレクター/プランナー

仕事の現場で一緒だった方や紹介を受けた方と、もう一度話をしたい、また会いたいと思っても、日々の慌ただしさにかまけて、そのまま疎遠になってしまうことは、よくあるものです。僕も然り、ついつい機会を逃してしまって、後悔ばかりしています。

その状況を打破すべく、拙著『アタマの体質改善』(日本経済新聞出版社)の出版をきっかけに、これまで出会った方々へ、思い切って連絡をすることにしました。その結果、互いの近況をやり取りしたり、再会の約束をしたりと、新たな展開が生まれ始めています。「機会は待つものではなく、自ら創るもの」だと改めて実感する、今日この頃です。

さて、連載3回目は、「伝わる言葉」「気もちや行動力が高まる言葉」を考える方法と効用について、ひもといていきましょう。ふだん使う言葉を意識して変えてみることで、アタマの体質改善ができます。

■モノゴトの本質的な価値を、深く探っていく

 

「地図に残る仕事。」
ある建設会社の広告に10年以上も使われている企業スローガンです。「橋やトンネルをつくる仕事」「学校やビルを建てる仕事」と言われた場合とくらべてみてください。

思い浮かぶイメージが明らかに違います。建造物を想像するだけで終わってしまうのではなく、この会社の仕事が街を行き交う人の営みやそれを支える社会インフラを生み、自分たちの暮らしに密接に関係する存在であることを実感させてくれます。

この言葉に接した社員も「自分の仕事に自信と誇りが持てる」「スケールの大きな仕事をしている」「歴史に刻まれていく仕事である」と再認識でき、モチベーションが上がることでしょう。社員の家族から尊敬される効果も生んでいるに違いありません。就職活動をする学生からも「この会社は世の中に役立っているから興味深い」と思われるはずです。

「年賀状は、贈り物だと思う。」
これは数年前に、年賀状のキャンペーンで使われた広告コピーです。慣習化され、儀礼的であると受け入れられがちな、年賀状を送る行為を、「贈り物」という言葉を使うことで、相手を思いやる気もちを届けるものへと変換しています。

改めてそう言われると、1年会えなかった友人から年賀状を受け取ったときの嬉しさや、近況を知らせてくれることへの感謝が蘇ります。「今年もやっぱり書こうかな」「久しぶりに送ってみよう」という気もちをかき立てられるのです。

2つの言葉に共通しているのは、単に情報を伝えるだけのものに留まっていないことです。言葉と接した人たちの「気もちをアゲる」力になっています。

小手先の言い換えから生まれたものではありません。モノゴトの本質的な価値やその効果を何度も考え、深く探っていくことから導かれたものです。実際に「地図に残る仕事。」は、数年にわたって社員数十人に取材を繰りかえしたことから生まれたコピーだと聞きました。

僕はこうした言葉の使い方を、仕事はもちろん、日常生活にも取り入れるようにしています。言葉ひとつで、自分やまわりのモチベーションを上げられ、ポジティブになれます。それだけではなく、言葉を考える力を鍛えるためのトレーニングだととらえています。

気持ちをアゲる言葉に変換する
Illustrated by Hirochika Horiuchi

 

■言いまわしを変えて、マイナス思考をプラス思考へ

 

たとえば、「掃除をする」ということで説明しましょう。
多くの人にとって掃除は面倒なものです。幼い頃から親や先生に言われて、嫌々やらされていたイメージもあるでしょう。なかなか重い腰が上げられないし、取りかかっても、あまり楽しめません。僕も実際にそうでした。

そこで10年ほど前の引っ越しを機に、「掃除をする」を「磨く」という意識に変え、実際に口から発する言葉もそう変えてみました。「窓の汚れを拭く→窓を磨いてクリアにする」「風呂垢を落とす→風呂を磨いてピカピカにする」「家具の埃を払う→家具を磨いてツヤを出す」といった感じです。

こうすると、掃除に対する先入観がなくなり、明快な目的ができ、達成したときのイメージが持てるようになります。自然と気もちがアガって身も入ります。黙々と磨いてピカピカになったときには、充実感もあり気分も晴れ晴れします。

汚れや埃を取り除くという「マイナス→ゼロ」思考から、それを超えて「プラス」思考になり、掃除をすることの本質的な価値やその効果が実感できます。すると、ますますモチベーションが高まり、この発想を他にも転用してみようというきっかけにもなります。

さらに磨き続けていくと、家や家具などが古くなったり、傷がついたりしても味わいを持ち始めます。これは、歴史が深い寺や神社を訪ねたときに感じるのと同じ感覚です。みなさんも、手入れが行き届いたピカピカの廊下や物品から深い味わいや雰囲気を感じた経験がきっとあるはず。自分の所有するものなら、さらに愛着も湧くでしょう。

仕事の場面でも、同じように言いまわしを変換することができます。
たとえば、どんな仕事でもよくある、「報告する」という場面。上司への業務報告、チームメンバーとの進捗状況の共有、参加した会議やセミナーのレポート……。往々にして報告も「やらされている」「やらなければならない」というネガティブなイメージが拭えません。

過去をなぞる作業ですから、直接的に新たな価値を生む意識にもなれません。正直面倒くさいのもあり、ポジティブな気もちではなかなか臨めない人も多いでしょう。

僕にもそういう意識が強くありました。ところが年齢を重ね、チームのリーダー的存在になると、メンバーと情報や考えを共有する機会が急激に増えます。それをいままでのように嫌々やっていても、得することはないと考え、「報告する」ことの本質的な価値やその効果を探ることにしたのです。

そこで行きついたのが、「整理ができる」。メンバーに的確に伝えることは、自分自身にとって情報や考えの整理につながる。無理矢理やっていたときから、実はそういう「結果」になっていたはずです。

それを、そもそも自分のためになるという「目的」に変換した言葉を使うことで、報告が一気にプラス思考になっていくのです。モチベーションも上がり、逆にその機会がいまでは仕事を進めていく中で、欠かせないほど重要なものになっています。

■その先の効果を伝えてあげると、自然と人は動く

 

こうして考えてみると、子育てをする親は、知らず知らずのうちにこの方法を実践していることがわかります。子どもが嫌がることを、どうしたら自ら進んでやるように導けるかを親は必死に考えます。そうしなければ、子どもは自主的に動いてくれません。

たとえば、「歯みがきをさせる」「風呂に入らせる」ために、逃げまわる小さな子どもを追っかけ、「サッパリさんするよ〜。スッキリさんするよ〜」と気もちがアガるよう呼びかけます。頭ごなしに「歯みがきしなさい!」「ちゃんとお風呂に入りなさい!」と無理矢理させるより、子どもが自ら進んでやれるようにするには、歯みがきやお風呂の「スッキリ、サッパリできる」という効果を目的にしてあげることが大切なわけです。

みなさんも、子どもの頃、親にそう言われたことや、親であれば、子どもにそう言ったことがあるのではないでしょうか。実は身近なところで自然と実践していることもあるのです。

仕事や日常の暮らしに様々ある、面倒なこと、ネガティブなことに着目して、本質を探り、目的だと思っていたものを手段とし、達成できた先にある価値や効果を新たな目的にする。そして、それを言葉に変えてみる。

そうすることで、言葉を考える力もどんどん身についていきます。

Illustrated by Tokuhiro Kanoh

プロフィール

  • 武藤 新二
    株式会社電通 CDC クリエーティブ・ディレクター/プランナー

    1992年、電通に入社。入社後3年半の静岡支社営業経験を経て、東京本社企画プランニング部門に異動。以後、広告企画制作にとどまらず、コミュニケーション全般の設計、商品や新規事業の企画、コンテンツのクリエーティブディレクションなど、仕事の領域は多岐にわたる。現在CDCに所属。これまでに、慶應義塾大学SFC研究所員(訪問)、大学や小学校での講師など、教育機関での活動も多数。出版関連では、重松清『夢・続投!』(朝日新聞社)、清水浩『脱「ひとり勝ち」文明論』(ミシマ社)、パパイヤ鈴木『カズフミくん』(朝日新聞出版)の企画に携わったほか、子ども向け絵本の制作も行う。著書に『アタマの体質改善』(日本経済新聞出版社)、『おじいとおばあの沖縄ロックンロール』(ポプラ社)。

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