新明解「戦略PR」 #18

自治体PRの戦いが激化! 今や市区町村レベルでの争いに!

  • 10
    井口 理
    株式会社電通パブリックリレーションズ コミュニケーションデザイン局 局長 チーフPRプランナー

いよいよ年末となりましたね。来年この連載はどうなっているのか未定ですが、さよならは言いません、ええ、決して言いません小田和正「さよならは言わない」を聴きながら…涙)。そんな、おセンチな気持ちで始まった第18回紅白歌合戦、じゃなかった新明解「戦略PR」。本日も頑張ってまいりましょう。

年末と言えばやはり「年越しそば」ですよね。これを食べないと年を越せない。しかし近年ではインスタントのカップそばで済ませてしまう人も多いようです。ヘタすれば、うどんとかラーメンで済ませちゃうなんていう人も。ま、人それぞれだからいいんですけどね、私もうどんは大好きだし。やっぱ年越しうどんにしちゃおうかなーなんて毎年思います。そして、うどんと言えば讃岐うどん。讃岐うどんと言えば香川県、ということですが、香川県からは「うどん県。それだけじゃない香川県!」なんて言われちゃって、逆にしょげたりもします。やっぱおセンチなんですかね、私って…。

はてさて、このうどん県ならぬ香川県のキャンペーンは要潤さんが登場するインパクトと相まって、非常に話題になりましたね。それに続いて広島県の「おしい!広島県」も有吉弘行さんを登場させて、こちらも話題となりました。現在も2つのキャンペーンは、それぞれエッセンスを保ちながら「恋するうどん県」「泣ける!広島県」として継続されています。この成功を受けて、日本全国の各県が観光誘致などのキャンペーンを仕掛けるようになりました。おもしろキャンペーンだったり、ご当地ゆるキャラを活用したり。でも最近では、県レベルの戦いではなく、もっと細分化されてきているんです。そう、今は市区町村レベルでこういった観光誘致や居住者獲得のための動きが加速してきています。その戦場は熾烈で、そこに戦いを挑む行政の方々もまた一生懸命な日々を過ごしているのです。

地域の魅力を上げるには?「地域ブランド調査」に学ぶ評価基準

実は47都道府県および各市区町村の魅力度ランキングを測る「地域ブランド調査」というものがあります。「ブランド総合研究所」が毎年発表するこのランキングは、各地域の魅力度をいろんな角度から評価しているのですが、2014年の県別ランキングは、TOP3が1位から順に北海道、京都、沖縄となりました(参照:第9回「地域ブランド調査2014」リリース)。ぱっと見すると、あぁ、観光資源に富んだ県が選ばれるんだよなぁと思われるかもしれません。確かに都道府県の魅力度ランキングでは、TOP10中、1位から9位までは2013年とまったく一緒になっています。新たなテーマパークや、よほど大きな観光キャンペーンがなければこの県別のイメージは大きく変わらないのかもしれません。

一方、市区町村レベルのランキングはどうでしょうか? TOP5は、上から順に函館、札幌、京都、小樽、横浜となっており、こちらは2013年の順位とはかなり異なっているんですね。常に順位が変動するし、TOP10圏外からもランクインしてくる市区町村もあるのです。ここでは国内1000の市区町村を対象にしているのですが、リリース発表されるランキングは25位まで。いや、そんなもんですよね。それ以下はどんぐりの背比べみたいなものかもしれません。しかし、そのTOP25に入るための努力は並大抵のものではないと思います。県のランキングで上位を取っている場合はその恩恵をこうむることもあるでしょうが、そうでない地域がこのランキングに入ってくるには独自の努力をしなくてはならないわけです。そしてその努力をしなければ忘却の彼方に消えゆくのみ。それではいったいどうすればいいのでしょうか。

存在をアピールしておかないと人気はダウントレンドをたどる

この研究報告ではひとつの分析がなされています(参照:第8回「地域ブランド調査2013」リリース)。地域の「魅力度」は、さまざまな基準で測られますが、先に述べたように、もともと持っている観光資源や知名度のみで決着するわけではありません。実はそこで威力を発揮するのが「情報接触度」だと言うのです。市区町村のランキングで、前回から順位を落とした地域を経年で追ってみると、どうも「魅力度」と「情報接触度」を表す数値がグラフ上で類似した推移をしているようなのです。夜のお店で例えて言うなら「いくら有名人だからって、最近全然お店に顔出さない○○さんって、評判ガタ落ちよね!」ということ。やはり頻繁にお店に通う、じゃなくて、存在をアピールしておかないと人気はダウントレンドをたどるということなんですね。

なんとなく、日常生活に当てはめてもありそうなことではありませんか? 常に何かしらのタイミングを捉えて、継続的に情報発信することは、その存在感を維持するために非常に大切なことです。これは企業に限らず、地域や個人においてさえ、そういったベーシックなことをきちんとやれることが大切になってくるんですね。近くに寄ったときのあいさつ回り、お中元やお歳暮、暑中見舞いや年賀状など、やはり接点が多くある人のことはつい気に掛けてしまうものですよね(あ、年賀状書かなきゃ!やべっ!)。

実は同じようなことを思ったもうひとつの事例があります。先日、2014年の1年間のテレビ露出のデータベースの中から、東京キー局の夕方と夜のテレビ番組に取り上げられたモノや場所を抽出して集計し、ランキングにしてみたところ、ひとつ興味深い発見がありました(参照:TVのニュース番組に登場したモノと場所は?)。自分で思っていたよりも、観光や遊び場所の紹介が数多くあり、日本全国のさまざまなテーマパークがランキングの上位にあがってきていたのです。

そうなると、ハリー・ポッターの新アトラクションで話題となったユニバーサル・スタジオ・ジャパンが圧倒的なのかなと思ったら、合計の露出番組数はディズニーランドの方が多かったんです。当然立地という点で取材のしやすさはあるものの、超目玉となるような新アトラクションオープンの印象はないのですが、成人式やクリスマスイルミネーションなど、季節に合わせた定番行事のタイミングを捉えた細かい継続的な情報発信を行い、露出につなげていたのでしょうね。ひとつの大きなヤマ場をつくるよりも、小さくとも継続的に行う方が、トータルの情報発信量で勝ることがあるということです。

外からの印象だけでなく、インターナルの盛り上がりがその魅力を押し上げる

さらにもう一つ覚えておいてほしいことがあります。地域ブランド調査の評価基準に戻りますが、県単位の評価には「外から視点の評価」として74項目、「内から視点の評価」として26項目が存在します。すなわちこれは外側から見た物理的な魅力だけではなく、「今住んでいる人たち自身がその地域を好きかどうか?」ということをポイントに、「愛着度」「自慢度」などを聞いているのです。自分が思うに、その愛が強ければ強いほど、やはり外に対する情報発信においても声が大きくなり、また強いパッションを持って伝わっていくということなのだと思います。オリンピック招致の評価でも、いかに地元の人たちがそれを歓迎し、一生懸命になってくれているかを見るといわれますが、それと同様なんですね。そういった内側の人たちが郷土愛を持っていてこそ、外側の人たちにもそれが伝わるわけです。企業で言えばインターナル対策であったり、もしくはロイヤルカスタマーのケアであったり。そういうファンをしっかり維持できるか、また彼らの言葉をいかに活用できるかがポイントになってくるでしょう。

上記に関連しますが、最後に市区町村ランキングからひとつの成功事例を紹介したいと思います。それは、2013年の23位から、2014年に16位と大きく順位を伸ばした「熱海市」の取り組みについてです。他の市区町村同様、熱海市では住民の高齢化が進み、また以前は新婚旅行先や国内観光先として栄えていたのですが、年々観光客が減り続ける状況でした。しかし、東京から新幹線で50分という好立地で、観光資源としては海も山もある。さらにはコンパクトにまとまった街で、短期間でいろいろな観光や遊びができるという資産はありました。これをもう一度トレンドにできないか。取り組んだのが熱海市役所 観光経済課 ロケ支援担当の山田久貴さんでした(スタッフはたったお一人!)。

山田さんは一般企業からの転職組ですが、熱海市が持つこれらの良さをもう一度うまく伝えることができれば、観光の引き合いも高まるかもしれない、それに伴い市民もやる気が出て活性化するのではないかと考え、外部で評判をつくりそれをインターナルにフィードバックするやり方を模索していました。まずは外部で取りざたされるきっかけつくりが必要ですが、首都圏にアンテナショップをつくったり、イベントをしたりするのではなく、映画、ドラマ、情報番組などのカメラを呼び込んで、熱海市をメディアで取り上げてもらい、その評判を拡散させる、という手法をとったのでした。いわゆる、街そのもののプレースメントといったところでしょうか。山田さんが掲げた目標は「目指せ!日本のハリウッド!」。有名人がそこかしこを歩き、常にいろいろな映画やドラマが撮影されている映画の街、ハリウッドのようになれれば街の評判も上がると考えたのです。

「神対応」により2012年には前年比2倍となる62件の取材誘致に成功

しかし、当然のことながら何もしなければ熱海をロケ地に選んでもらうことはできません。いったい誰にどうアプローチすればいいのか? 気づいたのが「ロケ地を決めるのは番組制作チームにいるAD(=アシスタントディレクター)」ということ。彼らの目に付くようにアピールし、また彼らを取材時に徹底的にサポートすることで存在感を出せたら引き合いが増えるのではないだろうかと考えました。そして立ち上げたのが「ADさん、いらっしゃい!」というロケ支援事業とそのウェブサイトです。そうです、番組制作のロケ手配含め、常にネットを活用してネタ探しや撮影手配をしているADさんに見つけてもらいやすいサイトを設置し、そこにADさんが無視できない、むしろ願ったりかなったりと感じてもらえるオファーを記したのです。それが以下の8項目です。

1.番組の企画に見合うネタ(素材)・施設の情報提供
2.ロケ先における一般出演者(その道のプロ等)のご紹介、連絡調整
3.公共施設における撮影の申請補助
4.ロケバス等の関係車両の移動ルート、待機場所に関する情報と手配
5.出演者様の着替え・メイク、打ち合わせ場所等のご紹介と手配
6.ロケ弁等のご紹介と手配
7.ロケ中のご宿泊先、打ち上げ会場等の情報提供
8.その他、ロケハンの同行ご案内、ロケの同行・各種手配 etc.

リクエストに応じた公共施設での撮影許可申請や、撮影に必要な地域で話題の人物(その道のプロなど)の手配・撮影交渉、ロケバスのルート検討や待機場所の提供、そしてロケ弁当や撮影終了後の宴会場所のあっせんまで。いやー、至れり尽くせりとはこのことですね。さらに特筆すべきなのがその対応姿勢です。サイトにはこう書かれています。「1年365日、24時間対応。土・日・祝日、夜間も。この携帯電話にお電話ください」。この評判を聞きつけ、各テレビ局や制作プロダクションのADさんにこの存在が瞬く間に共有されました。そして今、山田さんの仕事ぶりはこれらのADさんたちに「神対応」と呼ばれています。確かに苦しいときに手際よく助けてくれる山田さんの存在は、彼らにとって神々しい存在だったことは間違いありません(笑)。

こういった対応が功を奏し、2012年には前年比2倍となる62件の取材誘致に成功、2013年には前年比7.2%増となる20万人の宿泊者増を記録したとのこと。テレビで熱海の景色や食事処、アミューズメント施設が紹介されることで、これから旅行を考える人たちの訪問先として候補に挙がることも増えたでしょうし、実際に熱海を訪問した人たちがそういった番組や映画等の取材に出くわし、「熱海ってカッコいいね」とつぶやいたりすることでそのイメージを増幅させることもあったでしょう。また観光客が増えることによって地元の商店街のやる気が上がったり、インターナルの意識が高まったことも相乗効果を生んでいるのでは? と山田さんは言います。まさに制作会社、市民、市役所の三者が共にメリットを享受できるすてきな仕組みになっていますね。

一人の情熱が大きな成果を生み出せることもあれば、一つのアイデアが、いずれ大きく育っていくこともあるでしょう。しかし、どちらも継続して取り組んでこそだと強く感じました。「継続は力なり」。来年こそ、三日坊主を抜け出そうと誓う私なのでした。

プロフィール

  • 10
    井口 理
    株式会社電通パブリックリレーションズ コミュニケーションデザイン局 局長 チーフPRプランナー

    1990年株式会社電通PRセンター(現株式会社電通パブリックリレーションズ)入社。コミュニケーションデザインを手がけるチーフPRプランナー。
     
    企業のコーポレートコミュニケーションから、製品・サービスの戦略PR、動画コンテンツを活用したバイラル施策や自治体広報まで、幅広く手掛ける。最近では、熊本県の赤い特産物をアピールするため仕掛けた「くまモンほっぺ紛失事件」のPRプランを手掛け、世界的なPR業界紙「Holmes Report」が主催するアワードで「世界のPRプロジェクト50選」に選出された他、多数の口コミを起こしたキャンペーンとして、世界的な口コミアワードである「WOMMY AWARD2014」を日本で初めて受賞。
    その他、受賞歴に、Asia Pacific PR Award、日本PR協会「PRアワード グランプリ」、国際PR協会「ゴールデンワールドアワーズ」、SABRE AWARDS ASIA PACIFIC、PR WEEK アワード・アジア、Asia Pacific SABREアワード、Spikes Asia 2014、Global SABRE アワードなど。
    実務のみならず、大学やトレードショー、PR協会での講義による若手育成にも従事。「Cannes Lions 2012」「Spikes Asia 2012」PR部門、「SABRE AWARDS ASIA PACIFIC 2014」「PRWeek Awards Asia 2015」「ヤングカンヌPR部門日本代表選考」審査員。「New York Festivals パブリック&メディア・リレーションズ部門」Grand Jury。2013年6月に「戦略PRの本質~実践のための5つの視点~」を上梓。

バックナンバー

関連記事

続きを見る
ページ先頭へ